(読み)くき

精選版 日本国語大辞典 「茎」の意味・読み・例文・類語

くき【茎】

〘名〙
高等植物の三基本器官の一つ。胚(はい)の幼芽が発達したもので、ふつう地上にあって軸性の構造をもつ。組織学的に他の器官との区別点は、生長点が裸出する、維管束型がある、外長分枝をなす、表皮に角皮がある、などによる。生長につれて葉や花をつけ、根とそれらとの間の養分や水分の通路となる。地下茎、つる、巻きひげ、刺(とげ)などに変化したものもある。
書紀(720)皇極三年六月(図書寮本訓)「其の茎(クキ)の長さ八尺(さか)
※竹取(9C末‐10C初)「金をくきとし白き玉をみとしてたてる木あり」
花茎(かけい)、または花軸(かじく)の異称。
※あひゞき(1888)〈二葉亭四迷訳〉「『パアポロトニク(蕨の類ゐ)』のみごとな茎」
③ 鳥の羽の軸の部分をいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
④ 「くきづけ(茎漬)」の略。
※経覚私要鈔‐文安四年(1447)二月六日「申祝言、榼一双・素麺五束・久喜一桶進之」
⑤ 一般に茎状のものにいう。器具の柄(え)や剣の柄(つか)の類。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)一「吠瑠璃を以て而も其の茎(クキ)と為り」
陰茎男根
※俳諧・千代見草(1692)「陰茎(クキ)持ぬ徳に憂世不出不入

くく【茎】

〘名〙
② 「くくたち(茎立)①」をいう女房詞
※大上臈御名之事(16C前か)「くくだち。くく」

けい【茎】

〘接尾〙 細いもの、細長く束ねたものを数えるのに用いる。
蔭凉軒日録‐永享七年(1435)一二月二九日「等持院殿御髪三茎、可当寺脇士像之旨有命」 〔薜逢‐長安夜雨〕

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デジタル大辞泉 「茎」の意味・読み・例文・類語

けい【茎〔莖〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケイ(慣) [訓]くき
ケイ
植物のくき。「花茎塊茎球茎根茎地下茎
男根。「陰茎包茎
〈くき(ぐき)〉「歯茎水茎
難読芋茎ずいき

くき【茎】

高等植物で、葉・根とともに植物を構成する基本器官。先端に生長点があり、内部に維管束をもつ。地下茎・つる・とげなどになるものもある。性質により草本そうほん木本もくほんとに分けられる。
[類語]花茎地下茎根茎球茎塊茎鱗茎蕗の薹芋蔓

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「茎」の意味・わかりやすい解説


くき

維管束植物において、葉および根とともに植物体を構成する栄養器官。植物体の軸をなし、側生器官として葉をつける。維管束植物以外でも、スギゴケなどの蘚類(せんるい)やホンダワラなどの大形藻類には、外部形態のうえで区別しうる茎状の部分と葉状の部分があり、研究者によってはこれらを「茎」、「葉」とよぶことがある。しかし、藻類の場合はこれらの「茎」と「葉」を異なる器官と判断しうるに十分なほどの構造上の区別がないし、蘚類の場合は構造の差が認められても維管束をもっていないので、どちらも真の茎や葉とはみなさない。

 現在まで知られている維管束植物のなかでもっとも古いリニアなどのプシロフィトン類や、これと類似の形態をもつ現生のシダ植物のマツバランには、器官の分化がなく、棒状の茎が何回か二又(ふたまた)分枝しているだけの体制で根も葉もないので、茎は葉や根よりも系統的に起源の古い器官と考えられる。根は茎よりもあとで出現したにもかかわらず、主として地中という安定した環境にあるために現代までに大きく変化することがなかったと思われるのに対して、茎は外形も構造も進化の過程で多様化してきた。中心柱の型をみても、根の場合はすべての維管束植物を通じて放射中心柱であるのに対して、茎の場合は植物群によって中心柱型はさまざまに異なる。シダ植物のなかには原生中心柱、管状中心柱、網状中心柱、二~多環管状中心柱、二~多環網状中心柱やその他の特殊型がみられるし、種子植物では裸子植物と双子葉植物に真正中心柱、単子葉植物に散在中心柱がそれぞれ普通であるとはいっても、例外も多い。このように変異の多い茎の中心柱型を比較することは、維管束植物の系統を考察するための重要な鍵(かぎ)の一つと考えられる。

 個体発生では、胚(はい)発生において幼根と子葉の間の部分としてできる胚軸が最初の茎で、その後は子葉よりも上、すなわち幼根と反対側の極にできた茎頂分裂組織の活動によって上胚軸が成長する。茎の成長は、茎頂分裂組織における細胞分裂に始まり、増殖によって下方へ送り出された細胞が茎の諸組織の細胞へと分化することによるものであり、この活動で茎頂分裂組織自身は逆に押し上げられるので、つねに茎の先端に位置することになる。マツバランのような葉のない維管束植物は例外であるが、一般に茎頂分裂組織は、その活動によって茎だけをつくるのではなく、その周辺部からは一定の周期で規則正しい位置に葉の原基を形成する。このように茎の成長と葉の発生とは密接に関連しているが、根の頂端付近には側生器官はつくられない。一方、根端は根冠に覆われているが、茎頂は他の組織に覆われていないのも、茎と根の相異点である。茎は葉をつくりながら成長するので、完成した茎には節と節間があり、これも根との相異点である。節とは茎のうちで葉の付着点を含む高さの部分をいい、節間とは節と隣の節との間の部分をいう。もっとも下位の節は子葉のついている節すなわち子葉節であるが、その上隣の第1葉のついている節を第1節とよび、子葉節と第1節の間を第1節間とよんで、順次上方のものに大きな番号をつける。

 茎が分枝するときには、種子植物では葉の付着点のすぐ上の葉腋(ようえき)から枝を出す方式、すなわち腋生分枝がきわめて普通であるが、シダ植物では茎頂が対等に二分してそれぞれが枝をつくる二又分枝がよくみられるほか、主軸と側枝の区別のある分枝法であっても、枝ができる位置は種類によってさまざまである。

 茎は一般に棒状の形で地上に立ち、一定の配置で葉や花をつけてこれらを支え、根、葉、花の相互の間の水や養分の通路となるのが普通であるが、変態して形も機能も普通と大きく異なるものもいろいろある。地下にある茎は地下茎と総称されるが、根茎、塊茎、球茎などの諸型があり、地上茎にも茎針、葉状茎、むかご等々がある。

[福田泰二]

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百科事典マイペディア 「茎」の意味・わかりやすい解説

茎【くき】

シダ植物,顕花植物にあって,葉を適当な位置にささえ,根からの水分・養分を葉に,葉でできた養分を根に送る器官で,高等植物では根,茎,葉の分化が認められる。地上茎と地下茎に大別される。茎の先端には細胞分裂の著しい分裂組織があり,これを生長点という。また水分・養分の通り道をつかさどる組織は維管束といい,その形や配列は植物群により異なる。顕花植物では多くは中央に大きな髄(ときに空洞)を抱き,裸子・双子葉植物の中には形成層の働きで,多年ののち巨大な樹幹をつくるものも多い。顕花植物の茎は節(せつ)と節間に区別され,節には葉と腋芽を生じる。節間の長さがほぼ一定のもの(マサキ),枝先でつまって葉を束生するもの(ユズリハ,ヤツデなど),節間がきわめて短い短縮茎(タンポポ)などがある。茎の分枝には生長点がよく発達し,側枝が後方につくられる単軸分枝,生長点が等半に分かれる二叉分枝があり,また主軸が生長を控え,他の部分から側軸がのびて,主軸と交代する仮軸分枝がある。茎は変態としてとげ,巻ひげなどとなるほか,肥大して養分(特に地下茎)や水分をたくわえる(サボテンなど)。また若い茎や葉が発達しないものでは,茎が光合成を行う例は多いが,茎自身扁平となり葉状を呈する場合,これを葉状茎,または扁茎という(ナギイカダ,カンキチクなど)。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「茎」の意味・わかりやすい解説


くき
stem

維管束植物に発達している基本的な器官で,通常地下部の根に対して空中に露出し,葉,枝 (枝分れした茎) ,花,果実などを支持するとともに,水分,養分などの通路となっている。発生学的には胚が発育する最初の段階で,茎端と根端との両極を生じることに始り,先端に生長点をもっていて茎へと生長する。木本植物では,2次的に肥大生長が起るので,永年生の幹を形成する。植物によっては地下に伸長する茎があり,この場合変態が起るが,これらは総称して地下茎という (ジャガイモ,サトイモ,タケ) 。コンブなどの茎は,本来の茎ではなく柄 stalkで,未分化の構造をもち,維管束植物のような養分の通路ではない。本来の茎をもたない植物を葉状体と称して一括することがあり,菌類,藻類はこれに属するが,蘚類については必ずしも意見が一致しない。


なかご

」のページをご覧ください。

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世界大百科事典 第2版 「茎」の意味・わかりやすい解説

くき【茎 stem】

シダ植物と顕花植物(両者を合わせて維管束植物という)の体の部分のうち,葉や芽をつける軸状構造の器官である。樹木の幹は主茎が二次肥厚したものでその顕著な例は屋久杉やセコイアの巨木にみられるが,一方シダ植物の根茎のように地中にあって目立たないものもある。先端に花をつける花茎も茎の一種である。茎は根とともに植物体を支持し,根から吸収した水分や無機塩類などを上部の茎や葉に送り,葉で合成された同化物質などを茎や根に移動させるなど,体内物質を移動させる通道の役割をもつ。

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世界大百科事典内のの言及

【語幹】より

…言語学の用語。同一の単語(といえるもの)が,あらわれる文脈によって,多くの場合にその意味の一部分を変異させつつ,その形の一部を変異させること(〈活用〉)があり,その場合に,文脈のいかんにかかわらず不変である部分を語幹と呼ぶ。ただし,個々の場合においては,どこまでを語幹とすべきか難しい問題となることがある。たとえば,日本語(の共通語)においてnaku(泣く)は,naka‐nai,naki‐tai,naku(hito),naku‐na,nake‐ba(ii),nake,nai‐taといった形であらわれるが,この場合,語幹をna‐とするか,nak‐とするかが問題になる。…

【維管束】より

…シダ植物および種子植物の茎・根・葉などの器官の内部を貫く条束状の組織系。これらの植物はそのため維管束植物と呼ばれ,維管束をもたないコケ植物や藻類などと区別される。…

【枝】より

…シダ植物や顕花植物の茎は枝分れをするが,1本の茎が分枝して2本以上の茎になるとそれを枝という。日常的には,樹木において1本の太い主茎つまり幹から分枝した枝やそれからさらに分枝した小枝のことを指す。…

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