精選版 日本国語大辞典 「荒」の意味・読み・例文・類語
すさ・む【荒】
(「すさぶ(荒)」の変化した語)
[1] 〘自マ五(四)〙
① 動作、程度がひどくなる。はなはだしくなる。いよいよ進む。
② 心のおもむくままに慰みごとをする。慰み興ずる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)一「とざまかうざまに恨みつつ『一日(ひとひ)も浪に』などすさみ臥したるを」
※日葡辞書(1603‐04)「ハナニ susamu(スサム)」
③ 勢いが尽きてやむ。衰える。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「いたく痩せ給へるはいかなるにかと驚かせ給て、御前にて物など参り給へど、あさましうはかなくすさみつつ」
④ 心を奪われておぼれる。耽(ふけ)る。
※和英語林集成(初版)(1867)「イロニ susamu(スサム)」
⑤ 荒れる。荒廃する。
※親友交歓(1946)〈太宰治〉「いっかうに浮かぬ気持で、それから四、五日いよいよ荒(スサ)んでやけ酒をくらった」
[2] 〘他マ四〙
① 心のおもむくままに物事をすすめる。慰み興ずる。もてあそぶ。
※苔の衣(1271頃)一「はかなくすさみ給ふ吹きもの、弾もの」
② きらって遠ざける。心を離す。きらい避ける。
※玉塵抄(1563)四七「いたづらにあそびをなし大酔をして学問をばすさみをこたって生た時は」
※日葡辞書(1603‐04)「ヨヲ susamu(スサム)」
③ むごく扱う。苦しめる。
※ぎやどぺかどる(1599)下「わが跡を慕はんと思ふ輩は、常に身をすさみ、色身の望みに任せず、其身のくるすを担て我を慕へと宣ふ也」
[3] 〘他マ下二〙
① 心のおもむくままにことをすすめる。もてあそぶ。慰みにする。心にとめて愛する。
※古今(905‐914)春上・五〇「山たかみ人もすさめぬさくら花いたくなわびそ我れ見はやさむ〈よみ人しらず〉」
② 勢いを衰えさせる。止める。
※類従本堀河百首(1105‐06頃)夏「ひまもなく降りもすさめぬ五月雨につくまの沼のみ草波よる〈源顕仲〉」
③ きらって遠ざける。心を離す。興ざめに思う。
あ・れる【荒】
〘自ラ下一〙 あ・る 〘自ラ下二〙
① 勢いはげしく動く。
(イ) 風、波、天候などが穏やかでなくなる。
※万葉(8C後)七・一三〇九「風吹きて海は荒(あ)るとも明日と言はば久しかるべし君がまにまに」
※大鏡(12C前)二「日いみじうあれ、〈略〉風おそろしく吹きなどするを」
(ロ) 人、動物などがはげしくあばれる。また、乱暴をはたらく。
※日葡辞書(1603‐04)「テングガ aruru(アルル)」
(ハ) 相場がはげしく変動する。
※古事記(712)下・歌謡「八田(やた)の 一本菅(ひともとすげ)は 子持たず 立ちか阿礼(アレ)なむ あたら菅原」
※万葉(8C後)二〇・四五〇六「高円(たかまと)の野の上の宮は安礼(アレ)にけり立たしし君の御代遠そけば」
③ 気持や生活などに、ゆとりやうるおいがなくなる。すさむ。「生活が荒れる」
※土左(935頃)承平五年二月一六日「家にあづけたりつる人の心もあれたるなりけり」
④ 争いや騒ぎなどで、物事の進行状態がふつうでなくなる。また、勝負などが予想外の進みぐあいになる。「会議が荒れる」「試合が荒れる」
※平家(13C前)五「公卿殿上人も、こはいかにこはいかにとさはがれければ、御遊(ぎょゆう)もはや荒(あれ)にけり」
⑤ 肌などがなめらかでなくなることにいう。かさかさしている。
※売花翁(1893)〈斎藤緑雨〉「炭団を丸めるのもいいが手があれるし」
あれ【荒】
〘名〙 (動詞「あれる(荒)」の連用形の名詞化)
① 土地、建物などがいたむこと。荒廃。また、荒地のこと。
※東寺百合文書‐に・永享八年(1436)一一月一〇日・丹波大山荘一井谷百姓等申状「西田井事、是又皆荒にて、御下地に主もなく候間」
② 勢いはげしく動きまわること。あばれること。
※俳諧・ひさご(1690)「のみに行(ゆく)居酒(ゐざけ)の荒(あれ)の一
(さわぎ)〈乙州〉 古きばくちののこる鎌倉〈野径〉」

※別れ霜(1892)〈樋口一葉〉一四「鼠の荒(ア)れにも耳そばだてつ」
③ 天候がおだやかでないこと。あらし。暴風雨。
※蔭凉軒日録‐文明一九年(1487)二月一一日「早旦暴雨迅雷、実今日初午之荒也」
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉後「おやおや、此の風雨(アレ)にまア、何処へお出ででしたい?」
④ 皮膚に脂肪が欠乏してきめのあらくなること。
※故旧忘れ得べき(1935‐36)〈高見順〉八「皮膚の荒れや弛み」
⑤ 書画の幅物、巻物などの絹張りや紙面が汚れ損じていること。
⑥ 試合中、勝敗の形勢の変化がはげしいこと。
⑦ 歌舞伎で、荒れ場の演技。英雄豪傑や鬼神などが怒り荒れ狂う所作をいう。
※滑稽本・古朽木(1780)一「四ノ口の荒(アレ)の場がどうしてかうしてと」
⑧ 相場などがはげしく不規則に変動すること。
※家族会議(1935)〈横光利一〉「昨日の荒で痛手を受けた東京方の、追証の払へるのを待って」
あら・す【荒】
[1] 〘他サ五(四)〙
① 乱暴なやり方でそこなう。乱雑な状態にしたりこわしたりして、だめにする。また、いためたり傷つけたりする。
※書紀(720)用明元年五月(図書寮本訓)「朝庭(みかど)荒(アラサ)ずして、浄めつかまつること鏡の面の如くにして」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉五「子供は〈略〉家を荒(アラ)すやうな事はないが」
② 土地を、手入れをせず何も植えないままにしておく。建物などを、いたみそこなわれるままにほうっておく。
※万葉(8C後)二〇・四四七七「夕霧に千鳥の鳴きし佐保路をば安良之(アラシ)やしてむ見るよしをなみ」
※源氏(1001‐14頃)匂宮「わが世にあらん限りだに此院あらさず」
③ 言葉、気持などをはげしいさまにする。平静でなくさせる。
※俳諧・袖草紙所引鄙懐紙(1811)元祿六年歌仙「懸乞(かけごひ)の来ては言葉を荒しける〈芭蕉〉 余所(よそ)よりくらき月の枝折戸(しをりど)〈濁子〉」
④ 食べ物など、あちこちつついて食べる。
※歌舞伎・梅雨小袖昔八丈(髪結新三)(1873)三幕「どれ、お肴でも荒(アラ)して来ようか」
⑤ 他の国、家、土地、店、領分などを乱し犯す。盗んで損失をあたえる。また、他人に迷惑をかける。平和を乱す。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉五「平気に水菓子屋、小間物屋を荒らしてあるく『楽天的』の深水(ふかみ)」
[2] 〘自サ五(四)〙 風の吹く勢いが強くなる。嵐になってくる。
※日葡辞書(1603‐04)「カゼガ arasu(アラス)」
あら‐・ぶ【荒】
〘自バ上二〙 (形容詞「あらし(荒)」の語幹に、そのような様子をしたり、そのような状態にあることを表わす接尾語「ぶ」が付いたもの)
① 乱暴なふるまいをする。荒々しくふるまう。また、風などが強く吹く。荒れる。→荒ぶる神。
※延喜式(927)祝詞(出雲板訓)「四方(よも)四角(よすみ)より疎(うと)び荒備(アラビ)来む天のまがつひといふ神の」
② 土地が荒れる。未開である。
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「夫れ葦原中国は本(もと)より荒芒(アラビ)たり」
③ うとくなる。情が薄くなる。
※万葉(8C後)四・五五六「筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒振(あらぶる)君を見るが悲しさ」
④ 俳諧で、あまり趣向を凝らさないで、あっさりと句を作る。
※浪化宛去来書簡‐元祿七年(1694)五月一三日「俳諧あらび可レ申候事は、〈略〉ただ心も言葉もねばりなく、さらりとあらびて仕候事に御座候」
[語誌](1)対義語に、「にきぶ(和)」がある。
(2)「あ(荒)る」が風や波が激しくなる、家や都などが荒廃する様子など常に視覚性を持つのに対し、「あらぶ」は神や人の心情や性格などについて、馴れ親しまない状態を表わす。
(2)「あ(荒)る」が風や波が激しくなる、家や都などが荒廃する様子など常に視覚性を持つのに対し、「あらぶ」は神や人の心情や性格などについて、馴れ親しまない状態を表わす。
あら‐・びる【荒】
〘自バ上一〙
① (上二段活用の「あらぶ(荒)」が一段化したもの) 荒々しくふるまう。乱暴する。暴れる。
※続日本紀‐延暦八年(789)九月一九日・宣命「陸奥国の荒備流(あらビル)蝦夷等を討ち治めに」
② 心・言葉・呼吸などが荒くなる。
※延喜式(927)祝詞「此の心悪しき子の心荒比留(あらビル)は、〈略〉鎮め奉れと」
③ 土地・建物などが手入れをされずに荒れる。
※湯葉(1960)〈芝木好子〉「武家の下屋敷が荒びている噂をして」
[語誌](1)奈良時代、上一段の活用語尾は通常甲類であるが、「廻(み)る」のように乙類もある。「あらびる」の「び」は①の「続日本紀‐宣命」の「備」が乙類であるのに対して、②の「延喜式」の「比」は甲類であり、甲乙は決定できない。
(2)「あらびる」の古い例は「あらぶ」の例に比べて祝詞や宣命などの形式化された資料に見られるのみである。
(2)「あらびる」の古い例は「あらぶ」の例に比べて祝詞や宣命などの形式化された資料に見られるのみである。
あらま
し【荒】
〘形シク〙 (動詞「あれる(荒)」の形容詞化で、荒れているさまをいうか)
① 波や風などが荒々しい。激しい。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「川風のいとあらましきに、木の葉の散りかふ音、水のひびきなど」
② 言動、態度などが荒々しい。乱暴だ。粗野だ。
※源氏(1001‐14頃)宿木「あらましき東男(あづまをとこ)の腰に物負へるあまた具して」
③ 道などが、荒れ果てている。険しい。
※源氏(1001‐14頃)宿木「往来(ゆきき)のほどあらましき山道に侍れば」
あらまし‐げ
〘形動〙
あらび【荒】
〘名〙 (動詞「あらぶ(荒)」の連用形の名詞化)
① 荒れること。乱暴すること。
※歌舞伎・上総綿小紋単地(1865)四幕「鹿ケ谷の屋敷も平氏のあらびに追払はれ」
② 俳諧で、あまり趣向を凝らさずに句を作ること。
※浪化宛去来書簡‐元祿七年(1694)五月一三日「『さるみの』三吟は、ちとしづみたる俳諧にて、悪敷(あしく)いたし候はば、古びつき可レ申候まま、さらさらとあらび(〈傍書〉荒ビ)にておかしく可レ被レ遊候」
あらら・げる【荒】
〘他ガ下一〙 あらら・ぐ 〘他ガ下二〙 荒くする。物事を乱暴に行なう。
※仮名草子・花山物語(1648‐61頃か)一五「行王、勅定にはちちみかどこそ、あららくとも、丸は心の内おさめんとて」
※浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)四「いかにいかにと声荒らぐれば、両弾正、辞するにおよばず」
あらし【荒】
〘名〙 (接尾語的に用いて) 乱暴をしたり、迷惑、損害などをかけること。また、その人。「道場荒らし」「総会荒らし」
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉前「黒人ではお前さんの手に掛かる様な馬鹿が無くなったので、今度は素人(しろうと)荒らしと出直したの?」
あば・る【荒】
〘自ラ下二〙 荒れ果てる。荒れくずれる。荒廃する。すたれ果てる。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「一丁なれどいみじうあばれて、いとかすかなり」
※宇治拾遺(1221頃)三「めぐりもあばれ、門などもかたかたは倒れ」
あれ‐・ぶ【荒】
〘自バ上二〙 =あらぶ(荒)
※延喜式(927)祝詞「神等のいすろこび阿礼比(アレビ)坐すを、言直し和し〈古語にやはしと云ふ〉坐して」
こう クヮウ【荒】
〘名〙 荒れた土地。荒れた田野。また、辺境の地。
※岷峨集(1313‐28頃)下・会昌茂宗「十載難危天未レ厭、投レ荒尚得此身存」 〔陶潜‐帰園田居五首詩・其一〕
あら・げる【荒】
〘他ガ下一〙 あら・ぐ 〘他ガ下二〙 (「あららげる(荒)」の変化した語) 荒くする。物事を乱暴に行なう。
※浄瑠璃・山崎与次兵衛寿の門松(1718)中「声あらけても泣顔はかべより外にもれにけり」
あらくれ‐
し【荒】
〘形シク〙 荒々しい。粗暴である。
※浄瑠璃・今川本領猫魔館(1740)二「御仁躰に似合ませぬ、荒(アラ)くれしい為され方」
あらけ・し【荒】
〘形ク〙 荒々しい。粗暴である。
※梁塵秘抄(1179頃)二「樵夫(きこり)は恐ろしや、あらけき姿に鎌を持ち」
あらら・ぐ【荒】
〘他ガ下二〙 ⇒あららげる(荒)
あ・る【荒】
〘自ラ下二〙 ⇒あれる(荒)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報