落す(読み)オトス

デジタル大辞泉 「落す」の意味・読み・例文・類語

おと・す【落(と)す】

[動サ五(四)]
上から下へ勢いよく、また急に移動させる。
㋐落下させる。「鉛筆を床へ―・す」「柿の実を―・す」「はらはらと涙を―・す」
㋑光・視線などを注ぐ。その方向に向けて届かせる。「主役の立つ位置にライトを―・す」「書類に目を―・す」
㋒液体を入れる。また、流し入れる。「紅茶にウイスキーを少し―・す」「川の水を田に―・す」
㋓あとに残す。「学園紛争が―・した影響は大きい」
㋔調査結果などを地図や図面に記入する。「経緯度を地図に―・す」
ある所・手元から離す。
㋐ついているものを取り去る。そこにあるものを、なくなるようにする。「汚れを―・す」「ひげを―・す」「風呂の火を―・す」
㋑持っているもの、備わっているものをなくす。失う。「不慮の事故で命を―・す」「財布を―・す」
㋒客などがお金をその場所で使う。「観光客の―・す金で町がうるおう」
㋓入るはずのものを入れないでおく。ぬかす。もらす。「名簿から名前を―・す」「一字―・してしまった」
㋔こっそり逃がす。「幼君を西国に―・す」

㋐試合で、負ける。「初戦を―・す」「星を―・す」
㋑不合格にする。落第させる。また、不合格となる。「一次審査で半数を―・す」「必修の単位を―・す」
㋒選挙で、落選させる。
物事の水準をこれまでよりも低くする。
㋐普通より位置を下げる。「肩を―・す」
㋑程度・数量などを下げたり、低い状態にしたりする。「声を―・す」「生産を―・す」「体重を―・す」「力を―・す」
㋒段階・価値などを低くしたり、悪くしたりする。「平社員に―・される」「評判を―・す」「質を―・す」
㋓悪口を言う。見下げる。あなどる。
「目薬のびんが歩くようであろうと―・すに」〈一葉たけくらべ
㋔零落させる。「身を―・す」
物事を終わりの段階・状態に行き着かせる。
㋐あるところまで至らせる。陥らせる。「窮地に―・す」「罪に―・す」
㋑最終的に自分の所有とする。落札する。「名画を競売で―・す」「手形を―・す」
㋒城などを攻め取る。陥落させる。「敵陣を―・す」
㋓強く迫って相手を自分の思い通りにする。熱心に説得して相手を従わせる。また、問い詰めて白状させる。「意中の女性を―・す」「容疑者を―・す」
㋔物事の決まりをつける。処理する。「必要経費で―・す」「口座から―・す」
コンピューターで、本体に記憶されているデータなどを別の媒体に移す。「文書をフロッピーディスクに―・す」
柔道で、気絶させる。「絞め技で―・す」
落語などで、話をしめくくる。「駄洒落だじゃれで―・す」
精進などの期間・状態を終わらせる。
[補説]意図的な場合のほか、「定期入れを落とす」「単位を落とす」「平凡なフライを落とす」のように、不用意にも、うっかりして、の意で用いられる場合も少なくない。
[可能]おとせる
[下接句]命を落とす影を落とす肩を落とす気を落とす声を落とす空飛ぶ鳥も落とす力を落とす幕を切って落とす身を落とす目を落とす
[類語](1落っことす取り落とす振り落とす払い落とす削り落とす突き落とす蹴落とす打ち落とす/(2失う遺失散逸滅失流失消失消滅消散忘失雲散霧散雲散霧消離散四散飛散立ち消え消える失せる散る失する無くなる無くす無くする無くなす喪失する亡失する紛失する

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「落す」の意味・読み・例文・類語

おと・す【落・貶】

  1. 〘 他動詞 サ行五(四) 〙
  2. [ 一 ] 上から下へ、物の位置を急に変える。
    1. はたらきかけて、勢いよく下へ動くようにする。落下させる。
      1. [初出の実例]「滝おとし水走らせなどして」(出典:伊勢物語(10C前)七八)
      2. 「従者誤りて銭十文を川の中に堕したるを」(出典:小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉五)
    2. 花、葉などを散らす。また、涙などを流す。
      1. [初出の実例]「皆人、乾飯(かれいひ)の上に涙おとしてほとびにけり」(出典:伊勢物語(10C前)九)
      2. 「紅葉(もみぢ)ばをおとす時雨の降るなべに夜さへぞ寒きひとりしぬれば〈柿本人麻呂〉」(出典:玉葉和歌集(1312)冬・八八九)
    3. 勢いよくおろす。坂を馬でおりる場合や上流からいかだなどで下る場合などにいう。
      1. [初出の実例]「まっさきかけておとしければ、兵(つはもの)共皆続いておとす」(出典:平家物語(13C前)九)
    4. 光、影、視線などが下のものに届くようにする。
      1. [初出の実例]「そして冷い水の様な光を〈略〉彼等の上に落して居る」(出典:野心(1902)〈永井荷風〉六)
      2. 「器械的に眼(め)活版の上に落(オト)した」(出典:野分(1907)〈夏目漱石〉四)
    5. 雨がふる。
      1. [初出の実例]「早くもポツリ、ポツリと豆のやうな大粒なのが落(オト)して来たので」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏)
  3. [ 二 ] 事物、人などをある所から離す。また、なくなす。
    1. ついているものを取り除く。本体から切り離す。
      1. [初出の実例]「抑退蔵庵僧以筭落瘧病云々」(出典:看聞御記‐応永二四年(1417)閏五月二〇日)
      2. 「湯を以て身を温め、垢を落(オト)し」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)大意)
    2. 持物などをうっかりなくなす。紛失する。また、それまで保っていたもの(生命、元気など)を失う。
      1. [初出の実例]「よべのかはほりをおとして、これは風ぬるくこそありけれとて御あふぎ置き給ひて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
      2. 「イヨイヨ チカラヲ votoxi(ヲトシ)」(出典:天草本伊曾保(1593)鳥と獣の事)
      3. 「渠は少しく顔色を落して見えしが、渠は唯云へり、面目なしと」(出典:帰省(1890)〈宮崎湖処子〉二)
    3. 入れるはずのものをもらす。うっかりしてぬかす。
      1. [初出の実例]「かやうの事こそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、『一つなおとしそ』といへば、いかがはせん」(出典:枕草子(10C終)一〇二)
    4. 人や物をある場所に残してそこを離れる。置きざりにする。見捨てる。
      1. [初出の実例]「かかる人を、ここかしこにおとし置き給ひて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
    5. よそから一時的に来た人々が、その土地や場所で金銭を消費する。
      1. [初出の実例]「毎晩、カフに落す金はあっても」(出典:兄の立場(1926)〈川崎長太郎〉四)
    6. ある場所からひそかに逃げさせる。逃がす。
      1. [初出の実例]「是は謀叛の輩(ともがら)を落さじが為の謀(はかりごと)なり」(出典:太平記(14C後)一)
    7. 芝居用語で、退座させる。〔伝奇作書(1851)〕
    8. 水量を少なくする。水をぬく。
      1. [初出の実例]「田へ水を入て、一盃になればきって水ををとせば」(出典:四河入海(17C前)八)
    9. 審査や試験などで、資格のないものとしてしりぞける。落第させる。
      1. [初出の実例]「試験場での私の態度動作が、乱暴でそのために落されたらしい」(出典:半自叙伝(1928‐29)〈菊池寛〉)
  4. [ 三 ] 物事の位置、程度などを低くする。
    1. 地位、品質などを下げる。また、仏道を求める心などを失わせる。堕落させる。「質をおとす」
      1. [初出の実例]「されば此の仙人も一度后に落されけるより」(出典:太平記(14C後)三七)
      2. 「内容を落すわけにはいかない」(出典:文学の根本問題(1958‐59)〈中島健蔵〉七)
    2. ( 貶 ) 軽蔑する。見さげる。悪口を言う。
      1. [初出の実例]「人におとされ給へる御ありさまとて、めでたき方にあらため給ふべきにやは侍らむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    3. 勢いを弱くする。また、音などを低くする。
      1. [初出の実例]「琵琶を取り寄せて、『衣がへ』をひとわたりおとして」(出典:狭衣物語(1069‐77頃か)二)
      2. 「言葉の尻を上げて置いて、『さう』とさも軽蔑した様に落(オト)す」(出典:虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一五)
    4. 数量を減らす。また、相場や値段を下げる。
      1. [初出の実例]「三に少し半を加へ減(オトシ)て、分量を作ることを明す」(出典:蘇悉地羯羅経略疏天暦五年点(951)五)
    5. 普通より位置を下げる。
      1. [初出の実例]「鳶口を提(ひっさ)げて、柄を落し」(出典:玄武朱雀(1898)〈泉鏡花〉四)
      2. 「女は、落とした肩を、少しく浮かした儘で」(出典:虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一二)
    6. あるものより劣った状態にする。
      1. [初出の実例]「南殿にてありし儀式よそほしかりし御ひびきにおとさせ給はず」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
  5. [ 四 ] 物事を終わりの段階に到達させる。
    1. 精進(しょうじん)などの状態を終わりにする。
      1. [初出の実例]「是れから先きは古稀の祝ひ、〈略〉今日一日神へ詫び、禁酒を落(オト)して過し召され」(出典:歌舞伎・釣狐(1882))
    2. 城や陣地などを攻め取る。陥落させる。
      1. [初出の実例]「新羅其の西の塁(そこ)を輸(ヲトス)ことを獲ず」(出典:日本書紀(720)天智元年三月(寛文版訓))
    3. 地所などの所有権を奪う。没収する。
      1. [初出の実例]「此文の心は、武家の被官人の敵御方してをちたる知行の事也。本領主とは、武家被官人の上古にをとされたる知行を、今別人持たる時」(出典:清原宣賢式目抄(1534)一六条)
    4. 相手を自分の思うとおりに従わせる。口説いて意のままにする。なびかせる。
      1. [初出の実例]「雲の上なる御所さまもおとせば落つるうき世のならひ」(出典:仮名草子・薄雪物語(1632)上)
    5. 問いつめて自白させる。→問い落とす
    6. 金銭の支払を処理する。決着させる。決済する。「口座から落とす」「手形を落とす」 〔現代新語集成(1931)〕
    7. 柔道などで、気絶させる。
  6. [ 五 ] 人、物事などをある範囲にはめこむ。また、事がらの所属、結果などを決める。
    1. 穴などにはまりこませる。比喩的に、しかけたものにはまりこむようにしむける。
      1. [初出の実例]「枢はくるろぞ。戸はくるろををとしだにすれば不開ぞ」(出典:古文真宝笑雲抄(1525)五)
      2. 「其ごとく人を悪におとさんとて身の悪をさへづるか」(出典:浄瑠璃・雪女五枚羽子板(1708)厄払ひ)
    2. 話、事態などを、最後にある点にゆきつかせる。帰着させる。
      1. [初出の実例]「武士は何を仕りても家の武道におとし、〈略〉主君に忠をつくすべき事肝要也」(出典:甲陽軍鑑(17C初)品五)
    3. 特に、落語などで、しゃれなどを効果的に使って話をしめくくる。
      1. [初出の実例]「おとしばなし、口あいといふものはじめてできる。といふたと落す」(出典:黄表紙・稗史億説年代記(1802))
    4. 手に入れる。自分の物にする。落札する。
      1. [初出の実例]「供料無沙汰之間、一向被政所方了」(出典:大乗院寺社雑事記‐文明二年(1470)四月三日)
      2. 「江戸子の声色(こわいろ)つかふたばかりに、高札で落(オト)した」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

今日のキーワード

メタン

化学式 CH4 。最も簡単なメタン系炭化水素で,天然ガスの主成分をなしている。また石炭ガスにも 25~30%含まれる。有機物の分解,たとえばセルロースの腐敗,発酵の際に生成され,沼気ともいわれる。また...

メタンの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android