中国、晋(しん)代の道教の士。丹陽郡句容(こうよう)県(江蘇(こうそ)省江寧(こうねい)県)の人。字(あざな)は稚川(ちせん)、号は抱朴子(ほうぼくし)。『神仙伝(しんせんでん)』および『抱朴子』内外篇(へん)などの著者。外篇巻末に自叙があり、自ら「大臣の子孫たり」と称するように、江南の貴族の出身で、その立場は彼の行動や著述に反映している。反乱の鎮圧に武功をあげ、20歳ころには鄭隠(ていいん)について仙術を学んだ。晩年は交趾(こうち)(ベトナム北部)に仙薬をつくるための丹砂(たんさ)(水銀と硫黄(いおう)の化合物)を求めて旅立ち、広州の東の羅浮山(らふざん)で没した。死するも顔色は生前と同じく、棺に入って屍(しかばね)を残して抜け出る尸解仙(しかいせん)になった、と考えられた。享年61歳。また81歳説もある。内篇では、左慈(さじ)―葛玄(かつげん)―鄭隠と伝わる道術を正統としつつ諸仙術を集大成した。外篇や『神仙伝』、『西京雑記(せいけいざっき)』(偽作説もある)は文学史上注目されている。
[宮澤正順 2018年5月21日]
《抱朴子(ほうぼくし)》《神仙伝》の著者。神仙家。字は稚川。葛氏は後漢初期に琅邪(ろうや)郡(山東省東部)から丹陽句容(江蘇省句容県)に移住した中小豪族。祖父と父は呉に仕え,葛洪が生まれたのは呉が晋によって滅ぼされた2年後のこと。亡国の民の子孫であり,また中原ならざる江南の民であることの自覚が,非日常的な神仙道の修行にうちこませることとなった。若くして鄭隠に師事,左慈・葛玄(洪のおおおじ)・鄭隠と伝えられた道教経典と神仙道にかんする口訣を授けられた。修行時代の見聞と体験は《抱朴子》内篇に詳しい。また妻の父の鮑靚(ほうせい)からも神仙道を学んだ。しかし世俗にたいする愛着を捨てきることができず,都の洛陽にのぼろうと考えたが,八王の乱のために道はとざされ,数年間にわたって各地を放浪のすえ,故郷にもどった。一時期,東晋王朝に出仕したのち,羅浮山で錬丹を行い,その地に没した。尸解仙(しかいせん)であったと伝えられる。
執筆者:吉川 忠夫
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…中国,道教における仙人になる方法の一つ。晋の葛洪(かつこう)の《抱朴子》では,現世の肉体のまま虚空に昇るのを天仙,名山に遊ぶのを地仙,いったん死んだ後,蟬が殻から脱け出すようにして仙人になるのが尸解仙であるとし,尸解仙を下位に置く。だが梁の陶弘景が完成した茅山派道教では,この尸解を登仙の方法として重視し,剣を身体の代りに現世に残して仙人となる剣解法を重んじた。…
…両晋南北朝時期にまとめられた作品。作者として漢の劉歆(りゆうきん),晋の葛洪(かつこう),梁の呉均などの名が挙げられているが,いずれも確かな証拠はない。この作品の基礎には前漢時代の都でのできごとをのべる講釈のような文芸があって,それが文人の手で文字に定着されたものであろう。…
…仙人になるための薬。中国,晋の葛洪の《抱朴子》では,その〈金丹篇〉において,不老長生を得るには金丹を服用することが最も肝要であるとする。金丹の金は火で焼いても土に埋めても不朽である点が重んじられ,丹の最高のものは九転の丹で,焼けば焼くほど,霊妙に変化する点が重んじられた。…
…中国,道教に説く身体の部位の名。晋の葛洪の《抱朴子》では,両眉の間の3寸入った所を上丹田,心臓の下にあるのを中丹田,臍下(せいか)2寸4分にあるのを下丹田と呼び,この三丹田には,衣服を着,名前を持つ具象的な神である〈一〉が居り,この神を守ること,すなわち守一の道術が説かれる。北宋の中期ごろに起こった紫陽真人張伯端(987‐1082)の金丹道では,とくに臍下丹田が注目され,体内における不死の金丹の結実するところとされた。…
…その山中には周囲一千里にも及ぶ大洞窟があって,外界同様の世界が広がり仙人が住むと考えられて,古来厚い山岳信仰の対象とされてきた。神仙術の大成者として著名な東晋の葛洪(かつこう)も,その晩年には羅浮山に隠棲して,著述と練丹に専念している。【麦谷 邦夫】。…
※「葛洪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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