死者を送るために演奏される行進曲。通常の行進曲よりも,葬列の歩調に合わせるためにゆっくりしたテンポをもち,おごそかな気分を表すため短調の作品が多い。起源はフランス鍵盤音楽の死者を悼む作品〈トンボーtombeau〉にさかのぼり,ヘンデルのオラトリオ《サウルSaul》(1738)の《死者の行進》に初期の例が見られる。これはまだ長調の作品であるが,短調の葬送行進曲はベートーベンの《ピアノ・ソナタ》作品26第3楽章《ある英雄の死を悼む葬送行進曲》と《第3交響曲》第2楽章によって確立された。しかし全世界で最も多く演奏される葬送行進曲はショパンの《ピアノ・ソナタ第2番》作品35第3楽章で,その他ワーグナーの楽劇《神々の黄昏》第3幕の《ジークフリートの葬送行進曲》,プッチーニのオペラ《トゥランドット》,マーラーの《第5交響曲》の葬送行進曲が知られている。
執筆者:児島 新
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般には葬儀で用いられる荘重かつ哀感のこもった行進曲をさすが、実用から離れた芸術音楽としての楽曲も多い。独立した小品としてはショパン(作品72の2)やリスト(『巡礼の年』第3年)のピアノ曲があげられるが、有名な葬送行進曲はむしろ大規模な作品の一部をなしている。代表的なものとしてはベートーベンの交響曲第3番(英雄)の第2楽章、ピアノ・ソナタ第12番の第3楽章、ショパンのピアノ・ソナタ第2番の第3楽章、そしてワーグナーの楽劇『神々の黄昏(たそがれ)』の「ジークフリートの葬送行進曲」などがある。なお、シューベルトの『美しい水車屋の娘』第18曲のように、ピアノの重苦しいリズムの刻みで葬送を暗示する例も多くある。
[三宅幸夫]
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