薄い(読み)ウスイ

デジタル大辞泉 「薄い」の意味・読み・例文・類語

うす・い【薄い】

[形][文]うす・し[ク]
厚みが少ない。「板を―・く削る」⇔厚い
物の濃度や密度などが少ない。
㋐色や光などが濃くない。「―・い紅色」⇔濃い
㋑雲・液体などの密度、濃度が高くない。「―・い霧」「―・い紅茶」⇔濃い
㋒味があっさりしている。「塩味が―・い」⇔濃い
㋓物の密度が低い。まばらである。「頭髪が―・くなった」⇔濃い
物事の程度がはなはだしくない。
気持ち・感情の度合いが弱い。「情が―・い」「感銘が―・い」
㋑利益が少ない。「利鞘りざやが―・い」
㋒病気などの症状が軽い。「痛みが―・い」
㋓関係などが浅い。「なじみが―・い」「縁が―・い」
㋔可能性があまりない。「当選する見込みは―・い」⇔濃い
㋕財産がとぼしい。
「身のまはりは―・し」〈鳩翁道話・二〉
囲碁で、石の配置のしかたが堅固でない。⇔厚い
芸能界・興行界で、客の入りが悪い。また、ふところぐあいが寂しい。
[派生]うすげ[形動]うすさ[名]うすみ[名]
[類語](1希薄薄っぺら薄べったい薄めうっすら薄手薄地薄口/(2浅い淡い淡淡しい薄める薄れる薄らぐ/(3)㋓無関係局外無縁疎遠没交渉人事ひとごと他人事余所よそ風馬牛別問題縁遠い対岸の火事遠い遠遠しい遠縁とおえん懸隔開き疎い

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「薄い」の意味・読み・例文・類語

うす・い【薄】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]うす・し 〘 形容詞ク活用 〙
  2. [ 一 ] 物の厚みが少ない。⇔厚い
    1. [初出の実例]「わが背子(せこ)が著(け)る衣(きぬ)(うすし)佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで」(出典:万葉集(8C後)六・九七九)
  3. [ 二 ] 物の密度や濃度などが少ない。⇔濃い
    1. 物や、人の群がる密度が少ない。まばらである。
      1. [初出の実例]「畝傍山(うねびやま) 木立于須家苔(ウスケど) 頼みかも」(出典:日本書紀(720)舒明即位前・歌謡)
      2. 「人足うすく成にけり」(出典:浄瑠璃・心中天の網島(1720)上)
    2. 気体、液体の密度、濃度が少ない。濃くない。淡い。
      1. [初出の実例]「雲のうすく渡れるが鈍(にび)色なるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)薄雲)
      2. 「この世の濁りもうすく」(出典:徒然草(1331頃)四九)
    3. 色合いや光が淡い。鮮明でない。
      1. [初出の実例]「さほ山のははその色はうすけれど秋はふかくもなりにけるかな〈坂上是則〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二六七)
      2. 「鳴く声も高き梢のせみのはのうすき日影に秋ぞちかづく〈伏見院〉」(出典:風雅和歌集(1346‐49頃)夏・四四二)
    4. 物の匂いや味わいなどが淡い。濃くない。
      1. [初出の実例]「移り香のうすく成り行くたき物のくゆる思ひに消えぬべきかな〈清原元輔〉」(出典:後拾遺和歌集(1086)恋三・七五六)
  4. [ 三 ] 心、考え、経験などが深くない。浅い。
    1. 愛情、徳、恵み、その他の感情が深くない。薄情である。
      1. [初出の実例]「佐保川に凍り渡れる薄氷(うすらび)の宇須伎(ウスキ)心をわが思はなくに」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四七八)
      2. 「世のすゑの習ときけとあさ布のうすく成り行くたみもいとほし〈公朝〉」(出典:夫木和歌抄(1310頃)三三)
    2. 思慮、知識などが乏しい。浅い。浅薄である。浅学である。
      1. [初出の実例]「朕い学浅(ウすク)心拙ければ」(出典:大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃))
    3. 洗練されていない。野暮ったい。
      1. [初出の実例]「こちは一分(ぶん)(すい)のやうに思へど、そなた達の目からは、まだ薄(ウス)う見へるかして」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)五)
    4. 知能程度が低い。おろかである。
      1. [初出の実例]「貧なれば智恵もうすうなるぞ」(出典:古活字二巻本日本書紀抄(16C前)二)
  5. [ 四 ] 物事が豊かでない。乏しい。十分でない。
    1. 効果、利益、収入などが少ない。
      1. [初出の実例]「阿闍梨(あざり)の験(げん)のうすきにあらず」(出典:紫式部日記(1010頃か)寛弘五年九月一一日)
      2. 「年貢をもうすう取て」(出典:京大二十冊本毛詩抄(1535頃)一七)
    2. 幸運、才能に恵まれない。
      1. [初出の実例]「身運は本より薄ければ」(出典:海道記(1223頃)序)
      2. 「こよひ見へぬはうんのうすいお人やと」(出典:浄瑠璃・曾我扇八景(1711頃)紋尽し)
    3. 財産が乏しい。たくわえが少ない。
      1. [初出の実例]「うすき身上(しんしゃう)の者なれども」(出典:仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)一)
      2. 「すこし身躰(しんだい)(ウス)く成ては」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)二)
    4. 身なりがみすぼらしい
      1. [初出の実例]「お前は、ても薄(ウス)いお姿で」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油屋)
  6. [ 五 ] 物事の程度が強くない。弱い。軽い。かすかである。
    1. 病、傷、痛み、苦難などが軽い。
      1. [初出の実例]「うすく御おこりあり」(出典:御湯殿上日記‐文明一六年(1484)一〇月二二日)
    2. 勢いが弱い。力が弱い。存在感が乏しい。
      1. [初出の実例]「少秊の時は〈略〉血気薄いほとに」(出典:足利本論語抄(16C)季氏第十六)
      2. 「ヤアこたつの火がうすひ」(出典:浄瑠璃・心中重井筒(1707)中)
    3. 関係などが浅い。
      1. [初出の実例]「まだ御馴染も薄きに」(出典:不言不語(1895)〈尾崎紅葉〉二)
      2. 「関係の薄い所には同情も自(おのづ)から薄い訳である」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇)
    4. 物事に対する気持の程度や感じ方の程度が弱い。
      1. [初出の実例]「信心も薄なり」(出典:史記抄(1477)九)
      2. 「追剥の親方が抜衣紋に成て居ちゃア恐怖(こは)みが薄い」(出典:滑稽本・七偏人(1857‐63)三)
    5. 視力が弱い。目がよく見えない。
      1. [初出の実例]「視力の薄い眼で」(出典:鳥羽家の子供(1932)〈田畑修一郎〉)
    6. はっきりしない。かすかである。
      1. [初出の実例]「薄い笑ひを浮べてゆくのであった」(出典:冬の宿(1936)〈阿部知二〉五)
  7. [ 六 ] 特殊な分野で用いる。
    1. 囲碁で、石の形(布石)がしっかりしていない。
    2. 芸人仲間で、客の入りが悪い、また、ふところぐあいがさびしい。
      1. [初出の実例]「よい客は見限て来ず自然と客もうすく成なり」(出典:洒落本・風俗八色談(1756)五)

薄いの派生語

うす‐さ
  1. 〘 名詞 〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例