虚空(読み)こくう

精選版 日本国語大辞典 「虚空」の意味・読み・例文・類語

こ‐くう【虚空】

(「こ」は「虚」の呉音)
[1] 〘名〙
① 天と地の間。空。空間
※性霊集‐一(835頃)遊山慕仙詩「三密遍刹土、虚空厳道場
※百座法談(1110)六月一九日「われらこそ虚空へもえとばね鳥は空をとぶことをえたり」 〔勝鬘経‐十受章〕
仏語。一切のものの存在する場所としての空間。ものの存在を邪魔しないのが特徴。
法華義疏(7C前)一「借虚空譬喩。以釈此義也」
日蓮遺文‐法華題目鈔(1266)「此経の一字の中に十方法界の一切経を納めたり、〈略〉虚空の万象を含めるが如し」 〔入阿毘達磨論‐下〕
③ (形動) 事実無根であること。不確かで漠然としていること。架空であること。むなしく実体のないこと。また、そのさま。〔日葡辞書(1603‐04)〕
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「全く作者意匠に成(なり)たる虚空(コクウ)仮説人物なるのみ」
④ (形動) 思慮分別のないこと。また、そのさま。むやみ。やたら。むてっぽう。
大乗院寺社雑事記‐文明七年(1475)七月二九日「一向人も不付して虚空に駄を付は」
[2] 普化(ふけ)尺八の曲名「こくうれいぼ(虚空鈴慕)」の略称

きょ‐くう【虚空】

〘名〙
① 天と地の間。空。こくう。〔広益熟字典(1874)〕
② むなしいこと。実体がないこと。架空のこと。こくう。
※小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「夫れ小説は〈略〉作者の想像もて仮作(つく)りいだせる虚空(キョクウ)のものにて」

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デジタル大辞泉 「虚空」の意味・読み・例文・類語

こ‐くう【虚空】

[名]
何もない空間。大空。「虚空に消える」「虚空にのぼる」
仏語。何も妨げるものがなく、すべてのものの存在する場所としての空間。
[名・形動ナリ]
事実にもとづかないこと。また、そのさま。架空。
「―仮設の人物」〈逍遥小説神髄
とりとめがないこと。また、そのさま。漠然。
「―なることを申す者かな」〈幸若夜討曽我
思慮分別がないさま。むやみ。やたら。
「―におやぢが煮え返る」〈浮・禁短気・三〉
[補説]書名別項。→虚空
[類語]天空大空天穹てんきゅう穹窿きゅうりゅう蒼穹そうきゅう太虚たいきょ上天天球青空青天井ちゅうくう空中中空ちゅうくう中天上空低空高空空間スペース空き空洞空虚から空っぽがら空きがらんどううつろうろもぬけの殻

こくう【虚空】[書名]

長谷川櫂句集。平成14年(2002)刊行。第54回読売文学賞詩歌俳句賞受賞。

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普及版 字通 「虚空」の読み・字形・画数・意味

【虚空】きよくう・こくう

大空。唐・岑参〔高適・拠と、同(とも)に慈恩寺の浮図に登る〕詩 勢、出するが如く 高、天に聳(そび)ゆ 登臨して世界を出で 磴を盤(めぐ)る

字通「虚」の項目を見る

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世界大百科事典 第2版 「虚空」の意味・わかりやすい解説

こくう【虚空】

尺八楽古典本曲の一つ。その伝説的起源は次のとおり。中国から日本へ普化尺八を伝来した覚心は,門弟寄竹(のちの京都明暗寺の祖虚竹禅師)に《虚鈴(霊)(きよれい)》を伝授し,寄竹はそれを吹いて行脚中,伊勢朝熊山の虚空蔵堂に参籠し,通夜仮眠中に霊夢を見る。すなわち,みずからは水上の孤舟にあり,あたりは深い霧に閉ざされ,天空から妙音が聞こえる。やがて霧は消え,晴れ渡った虚空から別の妙音が響く。夢さめた寄竹は2種の妙音を尺八曲となし,帰参して師の覚心に聞かせ,覚心はその2曲に《霧海篪(むかいぢ)》と《虚空篪》の名を与えた。

こくう【虚空】

サンスクリットのアーカーシャākāśaの漢訳で,一般に大空,空間,間隙などを意味するが,古来インド哲学では万物が存在する空間,あるいは世界を構成する要素,実体として重要な概念の一つである。地・水・火・風の〈四大〉に虚空を加えて五元素ともいわれ,これに五感(香・味・色・触・声)を関連づけるサーンキヤ学派やバイシェーシカ学派の思想のもとでは虚空が聴覚と結びつき,音声は虚空の属性とされた(西洋哲学の〈エーテル〉の概念に相当)。

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デジタル大辞泉プラス 「虚空」の解説

虚空

米国の作家ロバート・B・パーカーのハードボイルド小説(1995)。原題《Thin Air》。「スペンサー」シリーズ。

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世界大百科事典内の虚空の言及

【真空】より

…何ものも存在しない空間。例えば仏教的な概念系の中では,空間概念に相当する虚空ākāśaはむしろ真空である。もちろんそれは真空のことばが運びがちな科学的な文脈での意味とは無縁であるが,虚空とは,事物が生起し,運動するための空間的余地という意味合いを含んでいる。…

※「虚空」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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