デジタル大辞泉
「蛙」の意味・読み・例文・類語
あ【蛙】[漢字項目]
[音]ア(慣) [訓]かえる かわず
〈ア〉両生類の名。カエル。「蛙声/井蛙」
〈かえる(がえる)〉「青蛙・赤蛙・雨蛙」
かいる【×蛙】
「かえる(蛙)」の音変化。室町時代以後、話し言葉で多く使用された。
「鼠―を請じて、いつきかしづきもてなす事極まれり」〈仮・伊曽保〉
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かえるかへる【蛙・蛤・蝦】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 両生綱無尾目に属する動物の総称。外形は頭、胴の二部からなり、胴部には四肢(しし)をもち、前足に四本、後足に五本の指をもち、しばしばみずかきがある。幼生はおたまじゃくしと呼ばれ、水中で暮らすものが多い。成体は水から離れるものもいる。水田、沼などに多く見られるが、樹上や地中にすむものもある。トノサマガエル、ヒキガエル、ウシガエルなど種類は多く、食用、または美声のため飼育される種もある。かわず。びき。ひき。かいる。かえら。《 季語・春 》
- [初出の実例]「夫れ国樔は其の人と為り甚だ淳朴(すなほ)なり。毎に山の菓を取りて食ふ。亦蝦蟆(カヘル)を煮て上(よ)き味と為」(出典:日本書紀(720)応神一九年一〇月(熱田本訓))
- ② まじないのために、紙で折った蛙。その背に待ち人の名を書いて針をさし、人目に触れないようにしておくと、その人がかならず来るという。願いがかなったら、その針を抜き、水にはなす。主として花柳界で行なわれた。
- [初出の実例]「待かねて女郎蛙へはりをさし」(出典:雑俳・柳多留‐五七(1811))
- [ 2 ] ( 原題[ギリシア語] Batrakhoi ) 古代ギリシアの喜劇。アリストファネス作。紀元前四〇五年初演。演劇の神ディオニソスが地獄でアイスキュロスとエウリピデスの悲劇の判定を行なうという設定で、文学批評を展開したもの。
蛙の語誌
上代に、「かへる」の確実な例はないが、「万葉‐一六二三」に、楓(かへるで)を「蝦手(かへるて)」と書いた例があるので、「かえる」の語は存したとみられる。「かはづ」が歌語であるのに対し、「かへる」は日常語であったと思われる。
かわずかはづ【蛙】
- 〘 名詞 〙
- ① 「かえる(蛙)」の異名。《 季語・春 》
- [初出の実例]「夜ひごとにかはづのあまたなく田には」(出典:伊勢物語(10C前)一〇八)
- 「蛙(カワヅ)其の数を知らず」(出典:太平記(14C後)四)
- ② 「かじかがえる(河鹿蛙)」の異名。《 季語・夏 》
- [初出の実例]「川豆(かはヅ)鳴く清き河原を今日見てはいつか越え来て見つつしのはむ」(出典:万葉集(8C後)七・一一〇六)
- 「かはづなくゐでの山吹ちりにけり花のさかりにあはまし物を〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春下・一二五)
- ③ 能楽で、「善知鳥(うとう)」「阿漕(あこぎ)」等に用いる面(めん)。〔わらんべ草(1660)〕
蛙の語誌
( 1 )「万葉集」では、①か②か判別困難な場合が多いが、主に声を賞美される②は、季を問わず「万葉集」以後も和歌に詠まれる。
( 2 )「(井手の)山吹」とともに詠まれることが多く、②の「古今」の歌はその代表。
( 3 )「かえる」が口語、俗語であるのに対して、「かわず」は歌語、雅語として用いられたといわれる。
かいるかひる【蛙】
- 〘 名詞 〙 「かえる(蛙)」の変化した語。室町時代以降の用語で、特に口語で多く用いられた。
- [初出の実例]「井の中のかいるにはかまいて大海のことかたるべからず」(出典:玉塵抄(1563)一六)
蛙の補助注記
本項関連の子見出し項目は「かえる(蛙)」の項にまとめた。
かえろかへろ【蛙】
- 〘 名詞 〙 「かえる(蛙)」の変化した語。
- [初出の実例]「帰(カヘ)ろ、ひょこひょこ三(み)ぴょこぴょこ」(出典:洒落本・辰巳之園(1770))
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普及版 字通
「蛙」の読み・字形・画数・意味
蛙
12画
(異体字)
19画
[字音] ア・ワ
[字訓] かえる
[説文解字]
[字形] 形声
声符は圭(けい)。圭に哇(あ)・(わ)の声がある。〔説文〕十三下にを正字とし、「蝦なり」という。もも、その鳴き声をとる。
[訓義]
1. かえる。
2. 邪の意がある。
[古辞書の訓]
〔新字鏡〕蛙・ 加留(かへる)〔和名抄〕蛙黽 阿末加倍(あまがへる)〔名義抄〕蛙 アヲガヘル/蛙黽 アマガヘル 〔字鏡集〕蛙 アマガヘル・カイル・カハヅ
[熟語]
蛙蚓▶・蛙泳▶・蛙歌▶・蛙蝦▶・蛙角▶・蛙▶・蛙群▶・蛙鼓▶・蛙羹▶・蛙市▶・蛙吹▶・蛙声▶・蛙井▶・蛙怒▶・蛙鬧▶・蛙吠▶・蛙黽▶・蛙鳴▶
[下接語]
蚓蛙・蛙・詠蛙・渇蛙・蛙・群蛙・呪蛙・春蛙・食蛙・井蛙・青蛙・蟄蛙・泥蛙・怒蛙・憤蛙・暮蛙・鳴蛙・乱蛙・霊蛙
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蛙
かえる
Batrachoi
古代ギリシアの喜劇作家アリストファネスの喜劇。紀元前405年、レナイア祭の喜劇コンテストで上演、一等賞を得る。三大悲劇詩人のうちアイスキロスはすでに前456年に亡くなっていたが、前406年にはエウリピデスとソフォクレスも相次いで世を去った。このためアテネに残るのは二流、三流の詩人ばかりとなり、アリストファネスは喜劇のなかでエウリピデスを地上に連れ戻そうと考える。そこでこの劇では、演劇の神ディオニソスがかつて冥界(めいかい)降りしたことのあるヘラクレスに扮(ふん)して地下に降り、エウリピデスを連れ帰ろうとする。ところが冥界では、古典主義的完成の体現者として局外にたつソフォクレスは別として、旧世代のアイスキロスと新世代のエウリピデスが悲劇の第一人者の椅子(いす)をめぐって争っている。そこで、来あわせたディオニソスが二大詩人の歌合戦の審判者となる。このような筋(すじ)書きを進めるために、アリストファネスは2詩人の詩句を思うままに引用して茶化す。このことから、この劇は世界最古の文芸批評ともなっている。なお題名は、三途(さんず)の川で鳴き騒ぐ蛙のコーラスに由来する。
[中務哲郎]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
蛙 (かえる)
草野心平の第4詩集。1938年(昭和13)刊。処女詩集《第百階級》(1928)以後の蛙を素材とした詩18編を収録。同じ蛙の詩集といっても,ここには《第百階級》に見られたアナーキスティックな反逆精神や荒々しい生の賛歌は影をひそめ,かわりに無限の時空を意識したところに生まれた諦念によって生を凝視する姿勢がうかがわれる。それは一方では無限の時空への一体化の願望となり,また一方では美しい自然を背景にした蛙のはかない生への詠嘆となっている。なお,彼にはこの後,《定本蛙》(1948,読売文学賞受賞),《第四の蛙》(1964),《蛙の全体》(1974)等の蛙の詩集や合詩集がある。
執筆者:飛高 隆夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
蛙
かえる
Batrachoi
ギリシアのアリストファネスの喜劇。前 405年初演。「文芸批評物」の一つ。三大悲劇詩人が亡くなったアテネの舞台に昔日の面影を取戻そうとして,悲劇の神ディオニュソスは冥府に下り,アイスキュロスとエウリピデスのいずれかを連れ戻そうとする。冥王の前で2人が技を競って相手の悲劇をこきおろし,論争と実演を繰広げ,両詩人のパロディーがみごとに展開される。最後にアイスキュロスが勝って,ディオニュソスとともにアテネに戻ることになるが,負けたエウリピデスに対しても作者は称賛を惜しまない。題名はディオニュソスが三途の川を渡るときに聞えてくる蛙の合唱隊による。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の蛙の言及
【アリストファネス】より
…そして,このアッティカ古喜劇という世界の文学史のなかできわめて特異な場所を占める文芸分野の完成者であり,またその死の証人でもある。彼の創作した喜劇は,20歳前の作と伝えられる《宴の人々(ダイタレス)》(前427)から,《福の神(プルトス)》(前388)に至るまで44編に及ぶと伝えられているが,そのうちの11編,すなわち《アカルナイの人々》(前425),《騎士》(前424),《[雲]》(前423),《蜂》(前422),《平和》(前421),《[鳥]》(前414),《[女の平和]》《テスモフォリアを祝う女たち》(ともに前411),《蛙》(前405),《女の議会》(前392),《福の神》はほぼ完全な形で残っており,そのすべては邦訳によっても読むことができる。 民会,将軍,煽動政治家,戦争,平和条約等の高度に現実的な問題や状況を舞台に乗せ,そこに登場したひとりの,現実的な意味では無力のアテナイ市民(典型的には,ペロポネソス戦争によって耕地を荒らされ最も大きな被害を受けている郊外の農民)が,個人に残されている最後の力であるところの想像力,表現の力によって現実を逆にひざまずかせるというのが,アリストファネスないしはアッティカ古喜劇の独自の世界である。…
【能面】より
…(3)は年齢や霊的な表現の濃淡で区別される。瘦男(やせおとこ)や蛙(かわず)は死相を表し,三日月や阿波男,怪士(あやかし)などは神性の表現に特徴がある。平太(へいた)と中将は特に武将の霊に用い,頼政や景清,俊寛など特定の人物への専用面も現れた。…
※「蛙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」