精選版 日本国語大辞典 「装身具」の意味・読み・例文・類語
そうしん‐ぐ サウシン‥【装身具】
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装飾のために身体や衣服につける服飾付属品。英語のパーソナル・オーナメントpersonal ornament(または単にオーナメント)にあたり、こまごまとした小さい装身具はトリンケットtrinketとよばれる。通常、装身具の語はアクセサリーと同義に用いられることが多いが、厳密にはアクセサリーの一分類である。
一般に装身具は、実用よりも装飾を目的とし、服装の一部ではあるが不可欠なものではなく、それがあることによって服装をより効果的により完璧(かんぺき)にするものである。たとえばブローチ、ピン、ネックレス、ブレスレット、イヤリング、指輪、髪飾り、コサージなどの、装飾性の強い服飾付属品(服飾工芸品)をさす。広義のアクセサリーには、これら装身具のほかに、靴、手袋、ハンドバッグ、帽子、パラソルなどの実用を目的としている服飾付属品と、さらにリボン、ブレード、ビーズ、飾りボタンなどの手芸的なトリミングが含まれる。しかし一般にアクセサリーの語は、装身具のみを、あるいは装身具とファッション性の強い装飾的な服飾小物類(ベルト、スカーフ、眼鏡、キーホールダー、ライターなど)をさすのが習わしとなっている。原始的社会でしばしば用いられる足輪、首輪、鼻輪などは、その集団によっては装飾以外に特別の意味合いをもつものもあるが、一般にはこれらも装身具として考えられる。
[平野裕子]
装身具のうち、宝石や貴金属製のものをとくにジュエリーjewel(le)ry、フランス語ではビジューbijou、ドイツ語ではエーデルシュタインEdelsteineとよんで、ほかのものと区別している。宝飾工芸品すなわち宝飾品の装身具である。また宝石を主体とした超高級な宝飾品の装身具はハイ・ジュエリーとよばれている。コスチューム・ジュエリーは模造装身具のことで、本物のジュエリーに対して、模造品のガラスや準宝石をはめ込んだ卑金属製の安価な装身具をさす。もともとこれは舞台衣装や歴史服などの特殊なコスチュームにあわせたイミテーションであった。第一次世界大戦後ジュエリーの価値感が大きく変化し、宝石や貴金属としての価値よりも、色や形などの外観の美しさが重視され、劇的な雰囲気、斬新(ざんしん)な感覚、奇抜な着想などの表現として、今日まで独特の用い方がされてきた。なお、コスチューム・ジュエリーをモードの世界に持ち込んだのは、1950年代のシャネルで、なんの変哲もないツィード地のスーツやジャージーのプルオーバーなどに、高価な宝石も模造宝石も安物のガラス玉も全部いっしょにした何連ものネックレスを用いたのが始まりである。
[平野裕子]
装身具の多くは衣服に先行するものとされ、原始宗教や呪術(じゅじゅつ)に始まって、しだいに身体装飾として発展したものと考えられる。今日的な装身具の基本の型は、すでにほとんどが先史時代に確立していた。初期の段階では、おそらく鳥獣、魚貝、植物など、身を飾るにふさわしい、ありとあらゆるものが装身具として役だっていたに違いない。ついで玉石が登場し、玉石と金属類の無機物による装身が行われ、工芸品としての装身具が誕生した。新石器時代から青銅器時代への移行は、ある意味で装身具の黄金期へ向かうものであり、装身具は急速な発展をみせるようになる。歴史時代に入ってからの装身具は、素材、技法の面でいちだんの発展を示す一方、複雑さや入念さが増してくる。長い歴史のなかで、それぞれの時代の服型の影響を受けながら、さまざまな装飾デザインが登場した。19世紀イギリスのビクトリア朝でその装飾は最高潮に達し、飽和状態ともいえる装飾過多の時代を迎える。繊細で凝ったデザインのジュエリーがもてはやされ、この傾向は20世紀のアール・デコの時代まで続く。第一次大戦後、価値の平等化はジュエリーにも及び、これまでの財産としての価値は軽視され、装身具はコスチューム・ジュエリーの時代に移行する。単純化された服型が確立すると、装身具はその従属的な価値がより重視されるようになり、素材、デザイン、技法はますます多様化し今日に至っている。
[平野裕子]
個性の表現にもっとも重きを置き、自分の感覚にあったデザインや色を選ぶことが装身具の大きな魅力となっている。目的にあわせて変化をもたせることが一つの課題で、従来の装いにとらわれない新しい装い方が試みられている。クールな現代感覚の表現として、プラスチックや金属のシンプルなものをさりげなく用いたり、ポップ調のカラフルなものを楽しく、あるいは象牙(ぞうげ)やウッドなどの自然素材をしゃれた感じに用いたりする。新しい傾向としては、衣服とトータルなイメージでつくられたデザイナーズ・ブランドの装身具が売られている。一般に野性的でビッグなもの、繊細で凝ったデザインのロマンチックなもの、新しい素材の超モダンな装身具などが流行の主流となっている。
[平野裕子]
装身具の大半は、護身用呪具(じゅぐ)として衣服に先行して生まれた。すなわち、古代あるいは原始的社会では、病気、けが、死などの災禍は、悪霊が人体に侵入しておこすものと考え、その防止のため、侵入口とみなされる人体の穴の部分や通路に、侵入阻止の呪具をつけた。耳飾り、鼻飾り、首飾りがそれである。これは、今日的にいえば予防にあたる。次に、人体各部にはそこを管理する生霊がいるのだが、これら生霊たちは仕事を忘れ体外に遊びに出て、その留守中に悪霊が入り込み病禍をおこす、と考える。そこで、生霊を体内に閉じ込め身体管理に専念させようと、身体の主要部位を紐(ひも)で縛ったり輪をかけた。これが、鉢巻、胸飾り、腰飾り、腕紐または腕輪、指輪、足輪であり、今日的にいえば健康管理にあたる。超自然力に接するとき人体はねらわれやすく危険なので、このような呪具を、とくに祭礼の日には身体の各所につけた。こうして装身具の原型ができた。
しかし、それでも人間は、けが、病気、死を防ぎきれない。そこで護身の呪具の効力を強化することを考えた。すなわち、この世で貴重なものを材料にしたり、装飾化して目だつようにしたり、ライオンのたてがみや動物の角(つの)や鳥の羽などをつけ自分の戦闘力を強化しようとした。しかし、それらを十分にできる者たちは、その社会の支配層の人々に限られるので、高級で豪華な呪具はステータス・シンボルにもなっていく。すなわち、このように呪具は、財宝的なものを材料に使用したり豪華な装飾を施すことによって、装身具となる。呪具から装身具への転換でもある。
一方、単に実用品にすぎなかったものにも、材料を選び装飾を施すことによって装身具となったものがある。たとえば、櫛(くし)、かんざし、杖(つえ)、御守り入れケースなどである。
要するに、呪具あるいは実用品に財宝的あるいは装飾的要素が加わり、りっぱさや美しさが重視されることにより、装身具は生まれた。
[深作光貞]
オセアニアでは、犬やブタの牙(きば)、イルカやコウモリの歯が珍重され、首飾りにする。貝殻からつくるビーズや美しい木の実も数珠(じゅず)つなぎにして、首に巻いたり胴を飾り巻いたりする。ニューギニアでは、ゴクラクチョウやヒクイドリの美しい羽根で頭を飾りたて、カンガルーのしっぽを胸に垂らし下げ、鼻には骨を棒状に差し渡したり、彫刻した貝を飾ったりする。胸には大きな貝をぶら下げる。
アフリカでは、タカラガイとビーズが多用される。ただし、オセアニアと違ってビーズはガラス製なので、青色のものもある。頭髪飾り、鉢巻、耳飾り、鼻飾り、首飾り、腕飾り、腰飾り、足飾り、襷(たすき)掛け式の胴飾りなど、木の実も混ぜて身体を飾りたてるが、なかでもマサイ人の女性の三段式円盤形の巨大な首飾りと、ドゴン人のタカラガイ製の仮面とがとくに圧巻である。蜻蛉玉(とんぼだま)も愛用される。
一方、文明の発祥地といわれるメソポタミアのウルク期の遺跡からは、紅玉髄(こうぎょくずい)、トルコ玉、水晶、めのう、真珠などの玉石類や、紀元前2000年のシエプ・アド王妃の墓から黄金の花冠などが発掘されている。古代エジプトになると、頭上に高く彫刻的装飾がそそり立つ冠と、金や陶器やビーズやカーネリアンなどの色石を豪華に使ったよだれ掛け状の大きな首飾りが印象的である。これらは、ツタンカーメン王の玉座背面の図柄で、われわれにもなじみ深い。
古代インドでは、ヒンドゥー教の女神たちの彫刻や絵画でもわかるように、頭も鼻も耳も首も胸も腰も腕も足も、やたらに黄金や玉石で飾りたてている。特異なのは、片方の鼻翼に穴をあけ黄金か玉石をはめ込むことであろう。中国では、3000年前の殷(いん)代に白玉や青玉製の首飾りがあるが、周代になると、めのうなどの玉石を使った腰飾り(佩玉(はいぎょく))が盛んになり、秦(しん)・漢代になると、銅に金銀、玉、ガラス、緑松石などをちりばめた豪華なバックル(帯鉤(たいこう))が、佩玉にかわって流行し、玉石・金銀を使用した髪飾り、耳飾り、腕輪、指輪などの装身具が愛用された。それ以後、中国では耳飾りは姿を消すが、満洲民族出身の清(しん)朝で復活することが注目される。
日本では、縄文時代に竹製や骨製の櫛、土製の小玉あるいは環状の耳飾り、貝製の腕輪、貝片や骨角や石に穴をあけて吊(つ)るす垂れ飾り(首飾りか腰飾りかは不明)などの装身具があった。弥生(やよい)時代になると、大陸との交通も進み、勾玉(まがたま)や管玉(くだたま)などの玉石製の首飾り、金銅の冠や耳飾りや金の指輪も現れる。佩飾や玉杖(ぎょくじょう)も現れる。古墳時代になると、翡翠(ひすい)、めのう、ガラスなどの美しい色彩の装身具が出現した。
以上、いわゆる未開社会や古代社会の装身具をみてきたが、文化の発達とともに装身具も変化していくことは、いうまでもない。鼻飾りのように廃れてしまったものもあるが、かつて呪具をつけたところにいまでも装身具をつけていることは興味深い。
[深作光貞]
『宮本悦也著『アクセサリーの流行学』(1981・流行学研究所)』▽『北山晴一著『おしゃれと権力』(1985・三省堂)』
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…人体の装飾は膚に直接加工される〈入墨〉や〈つけほくろ〉のほかに,部分に取り付けられる髪飾(冠,鉢巻,櫛,簪(かんざし),笄(こうがい)),イアリング,首飾,腕輪,指輪などがあり,民族によっては鼻飾や足飾をつける風習をもつものがある。これらの装身具は帯留(おびどめ)やスカーフや各種のアクセサリーとともに〈服飾〉という語の中に含められている。広い空間の装飾としては住居内部や墓室の室内装飾,劇場内の舞台装飾,ショーウィンドーを含む店舗装飾,植込みや泉池の間に天然の石や人工品(灯籠(とうろう),彫像,腰掛の類)を配置する庭園装飾,街路を美化するための街頭装飾(広場の花壇,彫像,並木,モザイク舗装,広告塔)などが数えられる。…
※「装身具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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