翻訳|process
印刷に用いる版を製作すること。インキジェット印刷のように版を用いない方法も開発されているが,現在の印刷は,まず原稿から版を作り,これにインキをつけて,紙,あるいは他の物体に押しつけて原稿と同じ模様をうつすという方式がほとんどである。版があるために印刷作業において機械的な圧力をあたえる必要が起こり,印刷速度も非常に制約されるという点はあるものの,版はじょうぶで何十万部の印刷にも耐え,保存ができ再度の印刷もでき,比較的安価であるという利点をもち,当分の間,その存在価値はあるものと考えられる。製版方法は,手工的な方法によるもの,機械的方法によるもの,写真的方法によるもの,電子的方法によるものの四つに大別できる。
手彫のゴム凸版,木版,石版における描版(かきはん),凹版におけるエッチング,彫刻凹版などがある。エッチングは薬液によって銅板を腐食するのであるが手工的とみなされる。また,活字は機械的に鋳造されたものであるが,これを集めて活版とする組版作業は手工的な方法が多い。以上のような手工的製版は,製版者の技術的能力によってそのできばえが左右される。いわば工芸的な版画の要素を多分にもっているものであり,機械的製版に近い活版においてさえすこぶる工芸的である。
これには活字を鋳造しながら組んでいく鋳植機がある。一般にキーボードで文字を選んで対応する穿孔(せんこう)テープを作り,これを鋳植機にかけると1字ずつ母型を選んで活字を鋳込み,連続的にその活字を並べて指定された長さの1行を組む。行間には自動的にインテルが入り,いわゆる棒組が排出されるから,作業者は指定の行数をとり出して1ページに組む。また,活字の原版から紙型をとり,これに鉛合金を流し込んで作る鉛版も機械的製版であり,原版からプラスチック型をとり,さらにこの型からプラスチック版やゴム版を作るのも機械的方法である。日本ではあまり行われないが,原版から電型(鉛,蠟,プラスチックなどで原版から型取りした凹凸反対になっている型)をとり,電気分解を利用して電型の上に金属を電着する電鋳版(電気版,電胎版ともいう)も機械的な製版方法である。
いわゆる写真製版photomechanical processと呼ばれているもので,活版とその複製版を除いてほとんどがこの方法によっている。ひとくちにいえば光に感じて性質を変える物質をうまく利用して版を作るのが写真製版であって,4版式,つまり凸版,平版,凹版,孔版いずれにも利用される。凸版に利用したものは,線画凸版(例えば週刊誌の漫画部分の版),網版(例えば週刊誌の活版組込みの写真の部分),ハイライト版(例えば週刊誌の小説の挿絵の部分),原色版(例えば高級美術印刷)などがある。平版に利用したものは平凹版,多層平版,PS版などがあり,これらはたいていオフセット印刷方式の版として用いられる。ほかに高級写真印刷のコロタイプ版がある。この中でいちばん多いのはPS版(メーカーから感光液塗布の板が供給されるもの)である。凹版に利用したのはグラビア印刷であり,孔版に利用したのはステンシルを写真製版によって作る方法である。
写真製版の原理は19世紀末に確立され,実際の作業は次のとおりである。まず原稿を写真撮影してフィルムのネガを作る。一方,金属板に感光液を塗布したものを準備しておき,これをネガと密着して強い光を当てると,光に当たったところは水に不溶となり,したがって,水洗いすれば光に当たった部分の感光膜が板上に残る。これはネガの白いところ,つまり原稿の黒い部分であるから,この部分だけを残して他の部分を腐食によって低くすれば凸版ができる。平版の場合は,腐食するかわりにインキを受けつけない性質をこの部分の金属表面にあたえれば,同じ平面でありながら,インキのつかない部分を作ることができる。ネガから焼き付けるよりポジから焼き付けるほうが便利なこともあるので,感光液の性質をくふうし,どちらにも対応できるPS版が多用される。これは平版の特徴である。
写真製版の手法は,重クロム酸塩類とコロイドとの混合物の感光性を利用したものであるが,有機合成化学の進歩により新感光剤も製造され精密な金属加工にも応用されるようになった(フォトファブリケーション)。
これには2通りあって,一つは電子写真やレーザーを応用して原稿から写真原板を作ることなく直接金属板に平版を作るもので,前者を電子写真製版,後者をレーザー製版ということもある。もう一つは原稿を光電的に走査して,電流の強弱によって彫刻針を動かしグラビア用版胴を作るものである。いずれも1960年代に実用になった。
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執筆者:山本 隆太郎
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