西原借款(読み)ニシハラシャッカン

デジタル大辞泉 「西原借款」の意味・読み・例文・類語

にしはら‐しゃっかん〔‐シヤククワン〕【西原借款】

第一次大戦中、寺内内閣が北京軍閥段祺瑞だんきずいに供与した1億4500万円の借款首相の私設秘書西原亀三が担当した。段派の権力失墜により回収不能となり、内外非難を浴びた。

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精選版 日本国語大辞典 「西原借款」の意味・読み・例文・類語

にしはら‐しゃっかん‥シャククヮン【西原借款】

  1. 第一次世界大戦中、日本と中国の結んだ八借款。下交渉に当たった西原亀三の名をとっていう。寺内内閣が、北京の段祺瑞政権を助けるため、軍部・外務省の対華政策と異なる経済提携策をうちだし、西原を私設の使節として秘密交渉にあたらせて、大正六年(一九一七)一月から同七年九月まで八回行なった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西原借款」の意味・わかりやすい解説

西原借款
にしはらしゃっかん

寺内正毅(まさたけ)内閣下の1917~1918年(大正6~7)に、中国北京(ペキン)政府に供与された借款のうち、対中国国際借款団(当時は英・仏・露・日の四国団)の規制の外で、経済借款の名目でまとめた借款。正規の外交ルートによらず、寺内首相の私設秘書の西原亀三(かめぞう)が、首相および勝田主計(しょうだかずえ)蔵相の意向を受けて交渉にあたり契約をまとめたので、この名がある。通常次の8件、総額1億4500万円をいう。第一次交通銀行借款500万円、第二次交通銀行借款2000万円、有線電信借款2000万円、吉会(きっかい)(吉林(きつりん)―会寧(かいねい)間)鉄道借款前貸し1000万円、黒吉林鉱(こくきつりんこう)(黒竜江(こくりゅうこう)・吉林両省の森林・鉱産物)借款3000万円、満蒙(まんもう)四鉄道(長春(ちょうしゅん)―洮南(とうなん)間、吉林―開原(かいげん)間、洮南―熱河(ねっか)間、洮熱線一地点から海港まで)借款前貸し2000万円、山東二鉄道(済南(さいなん)―順徳(じゅんとく)間、高密(こうみつ)―徐州(じょしゅう)間)借款前貸し2000万円、参戦借款2000万円。別に兵器代借款3200万円を含める説もある。

 当時の中国国内は、北京の段祺瑞(だんきずい)政権に対して、広東(カントン)軍政府を中心とする南方勢力が対立していた。この借款は、第一次世界大戦中に日本に流入した外資を中国に投資して、段祺瑞政権による中国統一を援助すると同時に、経済利権の確保をねらったものであった。原資には、大蔵省預金部資金と政府保証興業債券収入をあて、日本興業銀行(現、みずほ銀行、みずほコーポレート銀行)、朝鮮銀行、台湾銀行の3銀行を通じて供与された。しかし投資の大半は、南北争乱中の段政権の政費に費消され、段派の失墜で回収不能となった。日本では担保不確実な焦付(こげつき)債権として、また中国では高利(八分内外)の国恥借款として非難を浴びた。1926年、焦付債権は公債に肩代りされて日本国民の負担となった。一方中国では国民政府が成立し、段祺瑞政権の負債には責任がないと債権の棚上げを主張し、西原借款は全額回収されなかった。

[大森とく子]

『北村敬直編『夢の七十余年――西原亀三自伝』(平凡社・東洋文庫)』『勝田龍夫著『中国借款と勝田主計』(1972・ダイヤモンド社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「西原借款」の意味・わかりやすい解説

西原借款 (にしはらしゃっかん)

第1次世界大戦期に寺内正毅内閣によって推進された政治的な対華借款。1917年1月,寺内内閣はそれまでの大隈重信内閣による干渉主義的中国政策を修正し,日中親善をたてまえとした中国の政治・軍事・経済改善のために指導と援助を与えるとした。そのためにとられたのが第1次大戦の輸出超過による国内の過剰資本を中国に借款供与する政策である。これを推進したのは寺内首相,勝田主計蔵相および首相の私的使節の役割を担った西原亀三である。寺内内閣は日本興業銀行,朝鮮銀行,台湾銀行の3行に対中国実業借款の引受けにあたらせ,西原を北京に派遣して交渉にあたらせた。借款の最初は,中国発券銀行で交通通信事業の機関銀行であった交通銀行に17年1月500万円の第1次借款を行った。これは東北,華北の銀行と鉄道の支配をねらいとした。ついで同年9月には中国の連合国側への参戦を条件に第2次交通銀行借款2000万円を与えた。18年になると,有線電信借款2000万,吉会鉄道借款前貸金1000万,黒竜江・吉林両省金鉱森林借款3000万,満蒙4鉄道借款前貸金2000万,山東2鉄道借款前貸金2000万,参戦借款2000万と計8口1億4500万円の借款が確実な担保もなしに供与された。これらはほとんどが段祺瑞政権の南方革命派勢力の鎮圧のために費消された。その意味で西原借款は経済借款の形をとった政治借款であった。これらのうち第1次交通銀行借款を除いて,他のすべては元利とも返還が延滞し,最終的には政府と日本興業銀行ほか2行との間で政治的決済がはかられた。
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百科事典マイペディア 「西原借款」の意味・わかりやすい解説

西原借款【にしはらしゃっかん】

1916年―1918年にかけて寺内正毅首相の私設公使西原亀三と蔵相勝田主計(しょうだかずえ)によって中国の段祺瑞(だんきずい)政権に供与した借款。交通・電信・鉄道借款など1億4500万円。大部分が段政権の政費,軍費に流用された。中国の五・四運動による反対,ワシントン会議によって中絶。→寺内正毅内閣
→関連項目曹汝霖

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西原借款」の意味・わかりやすい解説

西原借款
にしはらしゃっかん

1917~18年寺内正毅内閣が北京の段祺瑞内閣と結んだ2億 4000万円の借款のうち,特に寺内首相の私的代表西原亀三を通じて提供した借款1億 4500万円をさす。 17年1月の第1次交通銀行借款から 18年9月の参戦借款にいたるまで,名目はさまざまであったが,実質的にはことごとく軍閥政府の強化に用いられた。西原は対露同志会の一員で,対中国経済進出論者であった寺内首相,勝田主計,坂西利八郎らとグループを構成していた。この借款は担保不確実で利子回収さえ困難なため,25年当時の残高1億 3800万円は国庫に肩代りされ,実質的に解消された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「西原借款」の解説

西原借款
にしはらしゃっかん

1917~18年(大正6~7)に寺内内閣が北京政府(段祺瑞(だんきずい)政権)と契約した一連の借款。段政権の強化によって中国の統一と安定を実現させ,日本の勢力を扶植するという援段政策の柱であった。借款の立案と実施は寺内のブレーンであった民間財界人西原亀三が担当した。資金は日本興業銀行・朝鮮銀行・台湾銀行などから調達し,17年1月の交通銀行借款500万円を手始めに,同第2次借款・吉会鉄道借款・満蒙4鉄道借款など8件,総額1億4500万円にのぼった。しかし段政権は安定した基盤を築きえず,18年10月に瓦解して効果はあがらず,次の原内閣は対支不干渉政策を採用し,借款政策は放棄された。

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旺文社日本史事典 三訂版 「西原借款」の解説

西原借款
にしはらしゃっかん

1917〜18(大正6〜7)年にかけて,寺内正毅内閣が,中国の段祺瑞 (だんきずい) 政権に対して与えた借款
中国の反革命勢力を援助することで日本の優位を確立しようとして,民間人西原亀三を仲介として実施。交通銀行・鉄道・参戦借款など総額1億4500万円を,興業銀行・朝鮮銀行・台湾銀行から無担保で貸し付け,その大半は回収不能。この借款は,中国の混乱を助長するものとして内外の強い非難をあびた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「西原借款」の解説

西原借款
にしはらしゃっかん

1917〜18年にかけて寺内正毅 (まさたけ) 内閣が特使西原亀三を通じて段祺瑞 (だんきずい) 政権に与えた借款
第一次世界大戦中,列強の後退に乗じて中国に独占的地位を築こうとして日本はいわゆる援段政策をとり,銀行・鉄道事業などを中心に総額1億4500万円の借款を与えた。中国民衆からは侵略政策と反対され,列強からも非難を受け,大部分は未償還に終わった。

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世界大百科事典(旧版)内の西原借款の言及

【借款】より

…通常は政府対政府の間の貸借を意味するが,外国の準政府機関や民間の金融機関から,資金を必要とする政府や企業が資金を借り入れる場合にも,借款という言葉が使われる。日本が関係した具体的な事例としては,古くは第1次大戦後に日本政府が対中国政府向けに貸した西原借款があり,また1954年に日本の商社がアメリカのワシントン輸出入銀行(現,アメリカ輸出入銀行)からアメリカ綿花の輸入代金を借りた綿花借款,さらには高度成長期に東名高速道路や東海道新幹線建設のために日本道路公団や国鉄(現JR)が世界銀行から借りた世銀借款などがある。 借款にはいろいろな条件が課せられるが,とりわけ重要なのは返済方法に関するものと,資金の使途に関するものである。…

※「西原借款」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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