西(読み)にし

精選版 日本国語大辞典 「西」の意味・読み・例文・類語

にし【西】

[1] 〘名〙 (「し」は風の意。風位からその方角をもいう。「に」は「去(い)に」の「い」の脱落で、日の入る方角の意という)
① 方角の名。日の沈む方向十二支では酉(とり)の方角にあたる。
※続日本紀‐光仁即位前(770)歌謡「葛城の 寺の前なるや 豊浦の寺の 西なるや おしとど としとど」
西風をいう。
※古事記(712)下・歌謡「大和へに 爾斯(ニシ)吹き上げて 雲離れ 退そき居りとも 我忘れめや」
③ 仏語。西方(さいほう)極楽浄土
※安法集(983‐985頃)「老ぬれは南おもてもすさましやひたおもむきに西を頼む」
歌舞伎劇場で、京坂では舞台に向かって右側江戸では左側の称。
※浮世草子・嵐無常物語(1688)下「けふは嵐がにしの二軒目の桟敷に、提たばこ盆の火入に初瀬といへる名の木を焼ば」
相撲などの左右対称に記された番付で、左側の称。「東」より半枚格が下がる。
義太夫節竹本派の称。豊竹派を「東」というのに対していう。
※洒落本・煙華漫筆(1750頃)供唱「竹本を西といひ豊竹を東といふ」
※歌舞伎・処女翫浮名横櫛(切られお富)(1864)中幕みのにしろ西(ニシ)にしろ、破れた日にゃあ反故同然」
西洋のこと。西欧
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「泰西(ニシ)の国々の文章にもいまだ知られざる旨趣(うまみ)あれども」
[2]
[一] 大坂の新町遊郭の俗称。
※浄瑠璃・双蝶蝶曲輪日記(1749)三「実(げ)に新町を西々と彌陀の、御国をいふ如く、救ひ取られて粋となり」
[二] 京都の島原遊郭の俗称。
※雑俳・三国市(1709)「うけだそも西は三ねんふさがりて」
[三] 西本願寺、または、西本願寺派のこと。お西。
[四] 東京・名古屋方面の取引市場で、大阪市場をいう。〔取引所用語字彙(1917)〕
[五] 札幌市の行政区の一つ。新川運河から西側の区域。商業地区の琴似を含み、住宅地と工業地域を形成している。昭和四七年(一九七二)成立。平成元年(一九八九)手稲区を分区。
[六] 横浜市の行政区の一つ。横浜港の西部に面する。横浜駅があり、中区とともに横浜市の都心部を形成。昭和一九年(一九四四)中区から分離して成立。
[七] 名古屋市の行政区の一つ。名古屋市の北西部に位置。明治四一年(一九〇八)成立。
[八] 大阪市の行政区の一つ。市の中西部にあり、土佐堀川、安治川、西横堀川(埋立て)、境川(埋立て)、西道頓堀川に囲まれる。中央を木津川が流れて区を二分し、その西岸には、明治初年に外国人居留地が置かれた。西船場は商都大阪の基盤となる商業地区の一部。明治二二年(一八八九)成立。
[九] 神戸市の行政区の一つ。市の北西部にあり、大規模なニュータウン計画が進む。昭和五七年(一九八二)垂水区より分区成立。
[十] 広島市の行政区の一つ。市の中南部にあり、中心市街の一部を成す。広島西飛行場、商工センターがある。昭和五五年(一九八〇)成立。
[十一] 福岡市の行政区の一つ。市の西部にあり、博多湾に面する。海岸線の大部分は玄海国定公園の一部。昭和四七年(一九七二)成立。同五七年、城南区・早良区を分区。
[十二] さいたま市の行政区の一つ。平成一五年(二〇〇三)成立。市西部、荒川沿いの地域。旧大宮市の西部にあたる。

せい【西】

[1] 〘名〙
① にし。夕方、太陽の沈んでゆく方角。
② 西洋のこと。東洋に対して、ヨーロッパ地方をいう。〔中華大字典‐西部・西〕
[2] 「スペイン(西班牙)」の略。

にし‐・す【西】

〘自サ変〙 西に傾く。また、西に向かって行く。
※山鹿語類(1665)二一「日既に西するときは」

にし【西】

姓氏の一つ。

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デジタル大辞泉 「西」の意味・読み・例文・類語

せい【西】[漢字項目]

[音]セイ(漢) サイ(呉) [訓]にし
学習漢字]2年
〈セイ〉
にし。「西部西方以西北西
ヨーロッパのこと。西洋。「西哲西暦泰西
スペイン。「日西米西戦争
〈サイ〉にし。「西下西国西方浄土関西東西とうざい
〈にし〉「西風西側西日真西
[名のり]あき
[難読]西比利亜シベリア西瓜すいか西班牙スペイン西蔵チベット

にし【西】

太陽の沈む方角。西方。⇔
西洋。
「―に航せし昔の我ならず」〈鴎外舞姫
西風。「西が吹く」
西方浄土
相撲の番付で、向かって左側の称。
歌舞伎劇場内で、江戸では舞台に向かって左側、京坂では右側をいう。
[類語]

にし【西】[地区の俗称]

江戸城の西の新宿の遊里、また、大坂の新町遊郭、京都の島原遊郭の俗称。→

にし【西】[浜松市の区]

浜松市の区名。浜名湖東岸に位置し、舘山寺かんざんじ温泉、弁天島がある。

にし【西】[姓氏]

姓氏の一。
[補説]「西」姓の人物
西周にしあまね
西加奈子にしかなこ

にし【西】[熊本市の区]

熊本市の区名。金峰山きんぽうざんを中心とする山地が広がる。

にし【西】[さいたま市の区]

さいたま市の区名。市西部、荒川両岸を占める。

にし【西】[名古屋市の区]

名古屋市の区名。庄内川が東西を貫流する。

さい【西/斉】[漢字項目]

〈西〉⇒せい
〈斉〉⇒せい

にし【西】[福岡市の区]

福岡市の区名。昭和57年(1982)城南・早良の2区を分区して現在の区域となる。

にし【西】[神戸市の区]

神戸市の区名。昭和57年(1982)垂水区の北西部が分離して成立。

にし【西】[札幌市の区]

札幌市の区名。平成元年(1989)手稲区を分区。

にし【西】[堺市の区]

堺市の区名。市の西部に位置し、大阪湾に臨む。

にし【西】[新潟市の区]

新潟市の区名。旧黒埼町・旧巻町の一部を含む。

にし【西】[大阪市の区]

大阪市の区名。近年、人口の増加が著しい。

にし【西】[西本願寺]

西本願寺、また、西本願寺派のこと。お西。

にし【西】[広島市の区]

広島市の区名。広島西飛行場がある。

にし【西】[横浜市の区]

横浜市の区名。横浜駅周辺。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西」の意味・わかりやすい解説

西
にし
west

太陽の沈む方向。さまざまな語源説があるが、「日のイニシ(往にし)方」の意とする説もある。日の沈む方向は季節によって異なるので、漠然とその方向をいうこともあるが、正確にいう場合は北より左に90度離れた方向(これは彼岸(ひがん)のときの日没の方向にあたる)をいう。十二支名では西は酉(とり)の方角にあたる。南西諸島では本土で北を示す方向をニシとよぶ。これは、冬の季節風の方向が、本土では西寄りであるのに対し、南西諸島では北寄りとなるため、卓越風の方向の違いが、方角名にまで影響しているものと思われる。

 地学上、西という方向は、(1)地球の自転の方向は西から東に向かう、(2)前記(1)の影響などで中緯度地方では上層で西寄りの風が卓越している、などの特徴をもっている。

[根本順吉]

 語源的には、日の「いにし(往)方」とする『日本釈名(しゃくみょう)』『和訓栞(わくんのしおり)』などの説、日没する意の「ひねし」の転とする『東雅(とうが)』などや、「にぎし(和風)」の義とする『大言海』などの諸説がある。仏教で阿弥陀(あみだ)仏の極楽浄土をいうのをはじめとして、歌舞伎(かぶき)では舞台に向かって左側(上方(かみがた)では右側)半分をいい、相撲(すもう)などの左右対称に記された番付でも左側をさし、東方より一枚格が下とされる。太陽が沈む方向であるため、絶対にありえないことのたとえに「西から日が出る」の諺(ことわざ)があるほか、まったく分別のないことを「西も東も知らない」との諺もある。

[宇田敏彦]

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世界大百科事典 第2版 「西」の意味・わかりやすい解説

にし【西】

観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに,北……東,……南,南南西,南西,西南西,西……など16方位で呼ぶのが一般的である。西は,観測者から見て太陽の沈む方向にあたっており,英語のwestも,ギリシア語のhesperos,ラテン語のvesper(ともに〈夕方〉の意)に由来している。古来,中国や日本では十二支(干支(かんし))で方位を呼び,西は酉にあたる。
[西と日本人]
 日本人の伝統的習俗のなかに,西(西の方角)に対してどのような宗教感情や価値意識が見いだされるだろうか。

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世界大百科事典内の西の言及

【北】より

…観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに北,北北東,北東,東北東,東……など16方位で呼ぶのが一般的である。北は,観測者が太陽の昇る方向(東)に向いたとき左手に当たる方向で,英語のnorthもインド・ヨーロッパ語系のner(on the leftの意)に由来している。…

※「西」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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