見得(読み)ケントク

デジタル大辞泉 「見得」の意味・読み・例文・類語

けん‐とく【見得】

仏語。自らの智慧ちえを働かせて真理を悟ること。
会得すること。理解すること。
「この二つを継ぐものを―すれば」〈都鄙問答・三〉

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精選版 日本国語大辞典 「見得」の意味・読み・例文・類語

けん‐とく【見得・見徳】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 仏語。みずから法を見て理を得ること。また、その人。声聞乗(しょうもんじょう)の人で、修道の位にはいる優れた素質のもの。
    1. [初出の実例]「不還開中、開十一人。一中般〈略〉九信解。十見得」(出典:八宗綱要(1268)上)
    2. [その他の文献]〔法華玄義‐四下〕
  3. ( ━する ) 見きわめること。理解し、会得すること。認識すること。
    1. [初出の実例]「証究のときの見得」(出典:正法眼蔵(1231‐53)道得)
    2. 「此二つを継ものを見得(ケントク)すれば、形なきものにして、万物の体となるものなり」(出典:都鄙問答(1739)三)
  4. ( 「見徳」「賢徳」とも書いた ) 狂言面の一つ。犬、牛、馬、蟹(かに)、蛸(たこ)などを表わすのに用いる鬼畜面。「止動方角(しどうほうがく)」「蛸(たこ)」などに用いる。
    1. 見得<b>③</b>
      見得
    2. [初出の実例]「茶やつねのことく、犬けがはをき、けんとくのおもてなり」(出典:虎明本狂言・犬山伏(室町末‐近世初))
  5. ( 多く「見徳」 ) 江戸時代に行なわれていた富くじの一種。
    1. [初出の実例]「富、無尽、けんとく御夢品々」(出典:滑稽本・古朽木(1780)二)
  6. くじなどの吉兆を予想し、占うこと。転じて、何ごとかの前兆予兆。縁起。
    1. [初出の実例]「なんぞ聞や能見徳と嬉しがり」(出典:雑俳・川柳評万句合‐宝暦一一(1761)智二)
    2. 「宿を貸すか、貸さぬか、この石を持ち上げて、見得を見るでござりませう」(出典:歌舞伎・初冠曾我皐月富士根(1825)五立)
  7. 相場の目安標準をいう。〔取引所用語字彙(1917)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「見得」の意味・わかりやすい解説

見得 (みえ)

歌舞伎演技の独特の手法の一つ。身体を彫刻的に美しく見せて,固定した像を形成する。江戸の荒事から出発しているが,市川家が信仰した不動明王の姿を写したものもあるので,仏像の影響を受けていると見てもいい。戦闘その他,激しい動きのあとにみごとに形をきめるのに,むずかしい呼吸があり,きまった瞬間,目を寄せてにらむという場合が多い。動詞としては〈見得をする〉が正しいが,〈見得をきる〉ともいう。同じ型の見得でも,俳優の芸風で微妙な味の違いがある。きまったときに〈ツケ〉という音の効果を入れるのが原則である。〈石投げの見得〉は右手で石つぶてを投げた直後の形できまる見得。《勧進帳》の弁慶,《車引》の松王丸に見られる。〈絵面(えめん)の見得〉は2名以上の演者が形をきめて,一つの絵を形成する手法であるが,ことに時代物の幕切れのように大勢の登場人物が,対立した形で舞台の居どころをととのえて見得をするときにいう。《車引》の三兄弟が袋入りの傘を小道具にしてきまるのもその一つである。〈元禄見得〉は初世市川団十郎が工夫した見得。右手を水平にのばし,左の肘を曲げ,左足を大きく踏み出して,武勇の力を誇示した手法。《暫》の主人公のが特に名高く,9世団十郎の銅像(今はない)もこの形を写した。《車引》の梅王丸,《勧進帳》の弁慶,《押戻》《毛抜》にもある。〈三猿の見得〉は見ざる・聞かざる・言わざるの三つの猿の形をする,おどけた見得。〈天地の見得〉は2人の演者が引っ張りあう形できまる見得の俗称。姿態が上と下にひろがることが多いからである。《勧進帳》の弁慶と富樫に見られる(義経も含めて〈天地人〉とすることもある)。〈柱巻きの見得〉は建物の柱または薙刀(なぎなた)のようなものに手と足をかけてきまる見得。見得を連続的に演じるのを目的とした〈だんまり〉の場合は,座頭が演じることになっている。別に《鳴神》,《千本桜》の覚範などに見られる。〈引張りの見得〉は絵面の見得の一種あるいは同義語でもあるが,〈だんまり〉で白旗の小道具を俳優が持ってきまる場合にもいう。〈不動の見得〉は不動明王の形をする見得。《鳴神》,《勧進帳》の弁慶にもある。〈横見得〉は横顔を見せて立った見得。《車引》の松王丸に見られる。このほか,《毛剃》の元船の主人公の〈汐見の見得〉,《鎌倉三代記》の佐々木の〈地獄見得〉というように,特定の演目にのみいわれる見得もある。芝居絵には,特に多く描かれた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「見得」の意味・わかりやすい解説

見得
みえ

歌舞伎(かぶき)の演技・演出用語。劇の進行中、俳優が動作を一時静止して、固定した像をつくること。映画のクローズアップと共通した性格をもつ技巧だが、俳優の魅力を印象づけるため、体を彫刻的に美しく見せ、つねに絵模様になるようくふうされているところに、歌舞伎としての特色がある。劇的な盛り上がりと役の感情の興奮を示す手法なので、多くは「にらむ」という動作を伴い、効果を強めるために、決まった瞬間「つけ」を打ち、太鼓その他の鳴物も加える。江戸の荒事(あらごと)から発生したもので、形態のうえでは仁王(におう)その他仏像の影響が考えられる。

 とくに誇張の大きい印象的な見得を大見得というが、一般に種類としては、1人で行うものと、2人以上で行うものに大別され、形態では束(そく)に立つ(両足をそろえて直立する)見得と、足を割った見得とに分かれる。役の性格や見得の形が何かを表していることにより、特定の名称がついているものが多く、個人の見得では、元禄(げんろく)見得、石投げの見得、不動の見得、柱巻きの見得、地獄見得、汐見(しおみ)の見得など、2人以上の見得では、天地の見得、天地人の見得などのほか、舞踊劇のせり出し、時代物の急所や幕切れに行われる絵画美豊かな絵面(えめん)の見得、引張りの見得(登場人物の心理的なつながりを形に込めたもの)などが有名である。

 動詞としては、「見得をする」が正しいが、「見得をきる」ともいい、日常語でも、とくに人目をひくような言動をすることをさして使われる場合が多い。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「見得」の意味・わかりやすい解説

見得
みえ

歌舞伎の演技の一種。演技者の感情が高潮したとき,動きを停止させてポーズをとる方法で,見得の演技をすることを「見得を切る」という。ときには個人,あるいは相手役と,または登場人物全部が見得を切ることがある。舞台全体の場合は,それらの人物を配した画面のような感じを与えるところから「絵面 (えめん) の見得」と呼ばれる。この種の見得は,幕切れなどで多く用いられる。主役を中心に居流れた形になるので「引っ張りの見得」の名もある。特殊な型の見得としては「元禄見得」「石投げの見得」「不動の見得」などがある。「大見得を切る」という一般語は,自信たっぷりな態度を示す意に用いられている。

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百科事典マイペディア 「見得」の意味・わかりやすい解説

見得【みえ】

歌舞伎演出の一技巧。劇の進行中,役の心理的盛上りを現すため,俳優が動作を一時停止し絵画的なポーズをとることをいう。印象を強くするため,多くはツケや鳴物を入れ,効果をあげる。1人の場合と2人以上の場合がある。

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とっさの日本語便利帳 「見得」の解説

見得

歌舞伎独特の演技。感情や動作の頂点を目立たせるために一瞬静止のポーズをとる。ストップモーションまたはクローズアップ効果を生む。花道から揚幕に入る際、大きく手足を振って引っ込む六方(ろっぽう)、宙返りをするとんぼと共に、歌舞伎の重要な演出法。

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世界大百科事典(旧版)内の見得の言及

【歌舞伎】より

…江戸末期の〈生世話〉も徹底した写実主義の演劇になったわけではなかった。たとえば,正面を向いてする演技,見得立回りだんまりといった様式,大道具,小道具,化粧,扮装などは,いずれも絵画的もしくは彫刻的な景容の美しさを目標とし,下座の音楽や効果,ツケの類は写実性をめざすものではなく,情緒的な音楽性をねらい,あるいは擬音を様式化して誇張したものである。どんな場面の,どんな演技・演出も,舞台に花があり,絵のように美しい形に構成されていなければならない。…

【立回り】より

…〈天地〉=双方の刀を上と下とで打ち合わせる。〈陰陽の見得(または上下のきまり)〉=甲が上に刀をふりかぶって立ち,乙は片足を蹴り出して左手を前にきまる。 ほかに見得の種類として,シテには〈かつぎ〉〈脇構え〉〈八双〉〈片手上段〉があり,ウケには〈ウケの構え〉〈裏向き八双崩し〉などがある。…

※「見得」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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