今日では一般に病気や災害など不幸なできごとに遭遇した者を慰めるために訪問することをいい,またその際なされる贈物を呼ぶ。火事や水害などの見舞はもっぱら経済的援助を旨とする。ただしかつての伝統的な村落生活などにおいては,見舞と呼ばれるものは必ずしも不幸なときのみなされたものではなく,葬式の際の通夜見舞・忌中見舞といった例に加えて,出産時の産見舞,家を新築する際の普請見舞,旅行者の家族への留守見舞,また農繁期の田植見舞や季節的な暑中見舞・寒中見舞など,なされる状況は多様であった。これを強いて概すれば,慶事を除く各種とり込みごとに際した訪問であり,祝いと呼ぶにははばかるような贈答を見舞と称する。産見舞は産屋(うぶや)見舞・小屋見舞ともいい,7日目(七夜)の出産祝とは別にこれに先だって近親の女たちが餅(糯)米などを持ち寄ることであり,これで力餅をつき産婦に食べさせる地方もある。病気見舞も贈られる品には食べ物が多く,つい近年までは病人はこれを見舞人とともに食するものとされ,重態で食べられない場合でも見舞人にはまくら元で馳走するのがしきたりと考えられていた。他の見舞においてもその贈答品には餅や酒など飲食物が多用され,また不幸事以外の見舞は一種の過渡期的段階においてなされ,のちに祝いごとの催される場合が多い。普請見舞は建築の始めや中途において親類が酒や食事を持参し大工らにふるまうもので,完成後の建前や新築祝とは贈答の意味が異なる。留守見舞も旅行者の帰省には坂迎えの祝宴があり,田植見舞も秋の収穫には刈上祝が,また現在選挙の際などにみられる陣中見舞も当選すれば再び当選祝として酒などを贈る。結局見舞とは,わざわいごとやとり込みの過渡的段階にあって人が不安定な状態にあるとき,それをおおぜいの者が飲食物等を持ち寄りともに食することで,すなわち合力と共食の呪力により,その者を力づけさせまたとり込みごとの成就を願った行為といえよう。暑中見舞や寒中見舞も互いに食物等を贈りあい,精神的に結びつくことによって,季節的に気分の弛緩する不安定な状況を乗り切ろうとしたものである。
→贈物
執筆者:岩本 通弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…貢物も献上品である。これに対し地位にかかわりなく相手への援助を旨とする贈物は見舞と称される。また旅の帰りや訪問など人の移動に伴う贈物が土産(みやげ)であり,このほか祝福や感謝の印としての御祝や御礼など,日本の贈物には状況に応じて名目の区別がある。…
※「見舞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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