コンピューターやデータ通信,各種制御装置などの電子的ディジタルシステムにおいて,情報を処理するために必要なデータや手順などの情報を誤りなく蓄えておき,それらが必要なときに取り出して使用できるようにした装置を記憶装置,またはメモリーと総称する。電子回路で構成されるシステムを他のシステムから特徴づけるもの,システムの能力,機能を決定するのも記憶装置であり,その重要性と進歩発展は顕著である。
記憶装置は人間の記憶・記録能力を電子的に実現する装置と考えられるが,構造,機能は異なる点が多い。大部分の記憶装置は,記憶する場所(これに一連番号をつけて番地と呼ぶ)を仲介として情報を書込み,読出しする単純な方式を用いている。人間は,内容別や時系列的などに記憶する豊富な機能をもっているが,正確さ,高速さなどでは記憶装置がはるかに優れており,これが積極的に活用されている。とくに動作速度はシステムの性能上限を決めるのでつねに高速化が要求され,最高速のものでは1秒間に1億回(アクセス時間約10ns)以上使えるものもある。
記憶装置は記憶素子や記録素子の集合体(これらを一括して記憶部品と呼ぶ)とその制御・サポート部分から構成される(図1)。記憶部品は記憶用半導体LSIのようにその内部に電子的番地選択機能をもつものが多い。しかし,大量の情報を経済的に蓄積,保管することを主眼とした記録用部品では,番地選択機能を他の機構的手段によって機能分離して総合経済化を図るものが多く,この場合は記録(録)媒体と呼ばれる。磁気テープや磁気ディスクはその例である。おもな記憶部品・媒体の大略の記憶容量と大きさの例を表に示す。書籍は優れた記憶媒体であるが,電子的操作との親和性は薄く情報蓄積密度も最近の記憶部品に及ばなくなっている。コンピューター第1号であるENIAC(エニアツク)のメモリーは双三極真空管によるフリップフロップ回路を集合したものであった。
進歩の早いエレクトロニクス技術の中でも,記憶技術の進歩速度は半導体技術とともに最高速である。1983年現在の平均的なメモリーと約40年前のENIACのそれを比較すると,速度はアクセス時間で10μsから0.1μs以下に約2桁,ビット当りの必要電力では6Wから数μW以下に6桁以上,ビット当りの体積では0.3lから10⁻8cm3以下と10桁以上,記憶容量では12桁を超える向上を示している。
主要な記憶装置や記憶部品の代表的記憶容量とアクセス時間の値を図2に示す。この分布は技術,時代の進展とともに右上方向に移動する。高速なものほど小容量にならざるをえない。この関係は動作原理についてはもちろん,同一材料・原理を用いたものについても同じである。この相反する高速性と大容量化の必然性から,システムの必要とするメモリーを同一動作原理・材料のメモリーですべてまかなうのは実際的,経済的ではない。ある処理過程内の短時間に使用する情報は,互いに関連をもつあまり多くない情報群であることが多い。この性質を利用して,低速大容量のメモリーから適切な時刻に必要部分の情報を高速小容量のメモリーに移し替えて使用して,総合的に全体を高性能・経済化する手段が広く用いられている。これを記憶装置の階層構成,もしくは記憶多重構成と呼ぶ。その概念を図3に示す。図の五つの階層はシステムの大きさにより省略される部分もある。オフラインファイル以下にあるものは,一般に使用頻度が少なく人手操作を伴うものが多い。この人手操作も自動化してオンライン化しようとするものが超大容量記憶装置(マスストレージシステムmass storage system。略してMSS)である。
主記憶装置は番地指定により演算・制御装置などと直接(場合によっては緩衝記憶装置を介して)情報授受を行うメモリーで内部記憶装置ともいう。従来,磁気コアメモリーが広く,かつ長期間主記憶装置として使用されていたが,現在は半導体集積回路で記憶セルを構成する半導体記憶装置が主流となっている。主記憶装置以外のメモリーは補助記憶装置,もしくは外部記憶装置と呼ばれ,多量の情報を安価に蓄えることを主務とする場合はファイル記憶装置とも呼ばれている。また入出力装置や情報交換媒体としても使用される場合もある。外部(補助)記憶装置は演算・制御装置とは直結せずに主記憶装置との間で情報を授受する。磁気テープ装置,磁気ディスク装置,フロッピーディスク装置などが一般に使用される。
代表的大型コンピューターシステムの装置価格構成例を図4に示す。記憶系が過半を占めている。中・小型システムでは相対的に入出力装置が増大しチャンネル・通信系が縮小するが記憶系が主要部であることは変わらない。J.フォン・ノイマンにより蓄積プログラム方式が提案されて以来,記憶装置の重要性は決定的となったが,記憶装置の発達がコンピューターやエレクトロニクスシステムの発達にどれだけ寄与したかを総合的に示しているのが図5である。コンピューターの使用料金と記憶装置価格は四半世紀の間にそれぞれ数千分の1になっているが,価格構成比からメモリーの進歩発展が決定的役割を果たしてきたことが明らかであろう。記憶装置は高性能で安価になるに従いコンピューター以外の分野にも広く利用されるようになっている。すなわちテレビ画像の静止・変速・帯域圧縮などの処理,音声の超高品位蓄積や速度変換,通信情報の蓄積・変換やディジタル信号処理,各種計測器応用や文書作成編集への応用などがそれである。またコンピューターシステムにおいても変化が生じている。すなわちメモリー系諸装置が高価で特性がよくなかった1970年代までは情報処理システムはメモリーにより制限され,メモリー使用の効率化などを中心にシステムが設計されていた。しかし最近はソフトウェア作成・保守費の高騰とメモリーの低価格化が蓄しく,メモリーの使用量が増加してもソフトウェア負担を軽くする方向に変わってきている。
なお記憶装置に関する用語については用語集を参照されたい。
→光学的記憶装置 →磁気記憶装置 →半導体記憶装置
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
コンピュータシステムにおいて、プログラムおよびデータを格納、保持し、取り出すことができる装置。メモリー、ストレージともいう。コンピュータでは、プログラムとデータをともに記憶しておき、順次、プログラムを構成している命令を実行し、データに(場合によっては命令にさえも)操作を施していくことによって、自動的に処理が行われる。そこで、コンピュータにとって記憶装置は必須(ひっす)の構成要素であるといえる。
[土居範久]
記憶装置は高速で、しかも容量が大きいほうが望ましいが、設計上および経済上おのずと限界がある。そこで、一般には、CPU(中央処理装置)で直接アクセス(情報を取り出す)できる記憶装置には、容量は比較的小さいが高価な高速の素子を用いて、実行の際に実際に必要とするプログラムとデータだけを記憶させ、残りは、それに比べて低速ではあるが、安価で容量が大きい記憶装置に記憶させるようにする。前者を主記憶装置(メインメモリー)といい、後者を外部記憶装置という。さらに、主記憶装置も、容量は少ないがより高速な記憶と大容量のそれ程高速でない記憶とで構成することが多い。より高速な記憶をキャッシュメモリーとかバッファメモリーという。この場合、CPUが実際にアクセスするのはキャッシュメモリーである。外部記憶装置に記憶させた内容は、必要に応じてそのつど主記憶装置に転送して使用する。主記憶装置以外の記憶装置を補助記憶装置という。主記憶装置を内部記憶装置、入出力チャネルを通してだけアクセスできる記憶装置を外部記憶装置ということもある。また、インターネットを利用してウェブ上のサーバーにデータを保存することができるオンラインストレージというサービスもある。
[土居範久]
初期には、超音波を利用した遅延回路や、ブラウン管を用いた静電記憶などがあり、ついで磁気ドラム記憶装置が用いられたが、1950年代の第1世代の後半からは磁気コアがおもに用いられた。
1970年代のなかば、第3世代後半になって、半導体メモリーsemiconductor memory(ICメモリー)が出現し、磁気コアにとってかわった。半導体メモリーには、読出しや書込みができるRAM(ラム)(random access memory)と、記憶内容の読出ししかできないROM(ロム)(read only memory)がある。
RAMには、スタティックRAMと、ダイナミックRAMの2種類がある。スタティックRAMはフリップフロップなど順序回路を利用したもので、反対の入力信号があるまでは現在の状態に対応する出力を出し続ける。SRAM(エスラム)ともいう。ダイナミックRAMはコンデンサー(キャパシター)の電荷の有無を利用したもので、時間の経過とともにコンデンサーに蓄積された電荷が失われてしまうので、定期的に電荷を補う。この動作をリフレッシュという。DRAM(ディーラム)ともいう。スタティックRAMのほうが使いやすいが、ダイナミックRAMのほうが構造が簡単であることから安い。RAMは、多少の例外はあるが、一般に電源を切ったら記憶が失われる揮発性メモリーである。
ROMは電源を切っても記憶が失われない不揮発メモリーで、製造の段階で内容を設定するマスクROM(mask ROM)と、使用者が1回だけ電気的に情報を書き込むことができるPROM(ピーロム)(programmable ROM)、内容を消去しふたたび書き込むことができるEPROM(イーピーロム)(erasable PROM)がある。EPROMは紫外線照射によって消去可能なUV-EPROMと電気的に消去が可能なEEPROM(イーイーピーロム)(electrically erasable and programmable ROM)などがある。EPROMは、近年、フラッシュメモリーにとってかわられつつある。フラッシュメモリーはEEPROMの一種で、書き換え可能な不揮発性メモリーである。フラッシュEEPROMとかフラッシュROMともいう。また、CD-ROMやDVD-ROMなどのように、半導体メモリーでなくても、記憶内容の読出ししかできない補助記憶装置をROMと表現することもある。
半導体メモリーは128メガビット、256メガビットのものが主流であるが、今後ますます集積度は高まっていくものと思われる。
[土居範久]
外部記憶装置としては、普通、磁気ディスク記憶装置、磁気テープ記憶装置(ストリーマー)、フロッピーディスク記憶装置が用いられるが、半導体記憶装置や光磁気記憶装置(MO)なども用いられる。CD-R/RW、USBメモリーなどは外部記憶装置である。
[土居範久]
インターネット上にあるサーバーを使って、自由にデータを読み書きできるサービスをオンラインストレージとよぶ。これは、前項に示した物理的なメディアを使わずに、データを使用中のコンピュータの外部に保管するシステムである。このうち、クラウドサービスを利用して提供されるオンラインストレージをとくにクラウドストレージとよぶ。個人用サービスの代表格であるDropbox(ドロップボックス)やマイクロソフト社のOne Drive(ワンドライブ)、グーグル社のGoogle Drive(グーグルドライブ)など、有償・無償を問わず、さまざまなサービスが提供されている。
[編集部]
『情報処理学会編『新版情報処理ハンドブック』(1995・オーム社)』▽『アイテック情報技術教育研究所編著『コンピュータシステムの基礎』第13版(2005・アイテック情報処理技術者教育センター)』▽『志村正道著『コンピュータシステム』(2005・コロナ社)』▽『デイビッド・A・パターソン、ジョン・L・ヘネシー著、成田光彰訳『コンピュータの構成と設計――ハードウエアとソフトウエアのインタフェース 下』第3版(2006・日経BP社、日経BP出版センター発売)』
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出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
…32ビットや64ビットのデータ(や命令語)を扱うときは,4バイトや8バイトごとにデータを区切って考える――そうしやすいように回路が工夫されている。 主記憶だけでは,大量のデータを扱うことが困難なので,ハードディスク,光磁気ディスク,磁気テープ,フロッピーなどの補助記憶装置を使う。このうち,ハードディスクのように,コンピューターから切り離せないような記憶媒体をもつ装置は,主記憶に対して2次記憶と呼ばれる。…
※「記憶装置」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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