許容線量に関する概念と評価は,いくたびかの変遷を経て今日に至っているが,1954年の国際放射線防護委員会(International Commission on Rediological Protection:ICRP)の勧告は,これを「現在の知識に照らして,生涯のいずれの時期にも感知されうる程度の身体的障害を起こさないと思われる電離放射線の量」と定義した.ここに,「感知されうる程度の身体的障害」とは,「平均的な個人が不愉快と思う身体的障害または影響,あるいは適当な医学の権威者が個人の健康と幸福に有害とみなす障害または影響」を意味する.許容量に近い概念は,1925年にアメリカのA. Mutschellerによってはじめて提案された.ただし,当時は今日とは異なって,ある線量以下の照射であれば,長期にわたり連続的に被ばくしても,すなわち,一生の間に受ける総線量はたとえ大きくても,人体はこれに耐えうると考えられ,tolerance doseという概念が生まれた(この訳語は耐容線量であって,許容線量といってはあたらない).しかし,人が一生ばく射されていても耐えうる放射線量がどのくらいかを明確に答えることはできない.そこで,1950年にICRPは,この不適当な表現のかわりに,今日のいわゆる許容線量(permissible dose)という用語を用いるようになった.これは,人類にとって電離放射線の使用が不可避と認める一方,個人またはその子孫に対し,まったく無害な放射線量というものはありえない,との考え方に立って設定する制限線量のことである.具体的な数値は,最大許容線量の名称で定められており,許容線量と区別されるが,週に100 mrem(年間5 rem)というのが1957年に勧告され,今日に至っている.以上は管理区域内における職業上の短期間内の被ばく限度であるが,管理区域外の一般人の被ばく限度は,さらに1けた厳しい数値となっている.放射線の身体に及ぼす影響についての知見が深まるにつれ,許容線量は今後さらに下げられることが予想される.また,一定の年齢に達するまでの総線量,すなわち,蓄積線量を制限するという考え方も,1956年以来ICRPが導入し,生殖腺と造血器官,そのほかの身体の部分の被ばくに対して,最大許容蓄積線量が定められている.
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…急性障害については早くから認められていたが,受ける放射線がある量以下であれば害はないものと考えられていた。その量を許容線量と呼んだが,許容線量の最初の国際勧告値は1日当り0.2レントゲン(1レントゲン=2.58×10-4C/kg)という高いものであった。広島,長崎の原爆によるそれまで考えられなかったほど多数の人々の集団被曝,核実験にもとづく放射性降下物による全地球的汚染とそれにもとづく低線量被曝など核エネルギーの軍事利用と核軍拡競争の過程で発生した放射線障害についての調査研究の結果,少なくとも障害防止のためには,いかに微量であっても放射線はそれなりの危険性をもつと考えるべきであるとする〈比例説〉が大多数の見解となった。…
…放射線の有害作用から人体を防護するため国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告した放射線の被曝量の限度。以前,最大許容被曝線量(許容線量)といわれていたものである。世界中のほとんどの国で,放射線防護に関する法律をつくるにあたって,原則的にこの勧告を採用している。…
※「許容線量」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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