精選版 日本国語大辞典 「認知症」の意味・読み・例文・類語
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後天的な原因により認知機能が障害された結果、自立した生活ができなくなった状態。加齢とともに患者数が増加するため、高齢化が進む現在、世界中で注目されている。とくに日本における高齢化率は2022年(令和4)時点で世界でもっとも高いだけに、認知症への対応は喫緊の課題となっている。
なお、「認知症」は2004年(平成16)まで「痴呆(ちほう)」という名称が使われていたが、これは侮蔑的な表現であり、実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の支障となっているとして厚生労働省により病名が変更された。
[朝田 隆 2022年9月21日]
世界的に有名な認知症の定義はいくつかある。しかしいずれにも共通するのは、「後天的な認知機能の低下によって、自立して日常生活や仕事ができなくなった状態」とする点である。
[朝田 隆 2022年9月21日]
認知症の経過は普通、前期・中期・後期に分けられる。最近では、前期の前に前駆期としての「軽度認知障害」(mild cognitive impairment:MCI)という概念が置かれて注目されている。注意すべきは、MCIは軽い認知症という意味ではなく、軽度認知症の前の「予備群」だということである。
こうした段階別分類は、認知症の定義にある「生活の障害」という観点からなされる。自立した生活がわずかな支援だけで可能なら軽度(前期)、全面的な支援が必要なら重度(後期)とされる。中期はその中間である。なおMCIは、不具合ながらもなんとか自分でやれる段階である。
認知症になってどれぐらい生きられるかについてはさまざまな説があるが、これに対する回答はないだろう。なぜなら、何歳のときに認知症になるかがポイントとなるためである。50歳代で発症すれば余命30年もありうるし、90歳代なら数年が多いであろう。一般論として、認知症になればそうでない者より余命は短くなる。しかし最近では、小幅ながら余命は延びているという報告もある。なお日本では、認知症は死亡原因になる疾患としては扱われない。
[朝田 隆 2022年9月21日]
2012年の厚生労働省による全国調査においては、認知症の人が462万人、その予備軍であるMCIが400万人とされた。この時点で、65歳以上の全人口の15%程度が認知症であると考えられた。なお2025年には認知症者は675万人程度に達すると推定されている。
また認知症になる危険性は、65歳以降、年齢が5歳あがるごとに倍増することが知られている。たとえば、65~70歳であれば100人に2人だが、これが90歳を超えると60%以上の人が認知症ということになる。
[朝田 隆 2022年9月21日]
認知症には遺伝性があるものもないものもある。認知症をもたらす原因疾患は多く、70以上あるともいわれ、一般にも広く知られた病名である「アルツハイマー病」はその一つに過ぎない。認知症をもたらす疾患にはアルツハイマー病以外にも、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症などがある。これらはよく四大認知症といわれるが、実際、認知症の原因の9割以上を占める。日本では以前は血管性認知症がもっとも多いとされていたが、近年ではアルツハイマー病に置き換わっており、認知症の原因の約3分の2がアルツハイマー病だとされる(なお「アルツハイマー病」が基本的に65歳未満で発症した例を意味するのに対し、65歳以上で発症した例を「アルツハイマー型認知症」とよんで区別することがある。ただし一般には二つをまとめてアルツハイマー病とすることが多いので、本稿も両者を区別せず「アルツハイマー病」と表記している)。
認知症が生じる原因は脳の神経細胞死である。原因となる疾患に特徴的な脳内の構造物(たとえば、アルツハイマー病なら「アミロイド」、レビー小体型認知症なら「レビー小体」とよばれる物質)が脳に蓄積していく過程で細胞死が起こる。また脳血管が破れたり詰まったりすることでも神経細胞が殺傷されてしまう。
[朝田 隆 2022年9月21日]
診断の基本は、記憶や実行機能あるいは言語などの認知機能が、どれか一つでも本来のレベルから低下したことで、生活に支障をきたしていることの確認である。そしてMRIなどの脳画像検査や、バイオマーカーといわれる血液や脳髄液中の物質測定などは、診断上の副次的なものと位置づけられる。なお、こうした認知症疾患の当事者の家系では、遺伝要因があるもの、ないもの、また不明なものがある。原因遺伝子がわかっている疾患では、遺伝子検査が確定診断につながる。
ポイントになる認知機能を評価するためには、神経心理学的なテストが用いられる。簡便なスクリーニング(認知症の可能性がある人の検出)用としての「長谷川式簡易知能評価スケール」や「ミニメンタルステート検査」は有名である。もっとも、厳密な診断ではより詳細なテストが求められる。いずれであれ、各々のテストの基準得点と個人の得点の比較に基づいて機能を評価する。
[朝田 隆 2022年9月21日]
認知症ではさまざまな症状がみられる。これらを便宜的に「認知機能の低下」、「日常生活動作(activity of daily living:ADL)の障害」、そして「行動・心理症状(BPSD)」に3分するとわかりやすい。認知機能とは、いわゆる知能である。たとえば、記憶力、注意力や視空間能力などがある。歩くこと、排泄(はいせつ)すること、また食事をすることなどの日常的な動作をまとめてADLという。また、BPSDは従来「行動障害」ともよばれたものであり、認知症でみられる暴言や暴力、そしてうつなども包括した概念である。
[朝田 隆 2022年9月21日]
治療法には「薬物療法」と「非薬物療法」がある。薬物療法で用いられる治療薬は、いわゆる根本治療薬とほぼ同じ意味をもつ「疾患修飾薬」と、症状に応じて用いられる「対症療法薬」とに分けられるが、2022年現在、認知症に対して日本で得られるのは後者のみである。アルツハイマー病についていえば4種類の薬が使える。しかしこうした薬によって、認知症が治るわけではない。あくまで進行を遅らせたり症状を軽くしたりするにすぎず、疾患修飾薬として日本で認可されたものはまだない。
非薬物療法としては認知機能訓練や芸術療法、また作業療法等がある。なお介護保険のデイ・サービスなどもとくにADLの悪化を防ぐうえで有用なことが知られている。
[朝田 隆 2022年9月21日]
「痴呆」という用語は、以前から学術用語として一般に使われてきた言葉です。しかし、高齢化社会になってこの言葉が広く使われるようになると、これが差別用語的であって一般には使いにくいという声が聞かれるようになりました。似たような言葉として「ボケ」という言葉も使われますが、これはもっと漠然とした状態を指しており、しかも使い方によってはやはり差別用語的になる場合があり適当な言葉ではありません。
そこで2004年に厚生労働省では委員会を設けてこの問題の検討を依頼しました。しかし「痴呆」という用語は学術用語ですから、本来専門の学会が審議すべき問題なので、ここでは行政用語として「痴呆」に代わるよい呼び方を審議するということを目的としていたわけです。その結果、行政用語としては「痴呆」という言葉を使わずに「認知症」という言葉を使うこととしました。そして新聞・放送などの一般のマスコミでもこの言葉を使用してほしいと要請しました。
しかし「認知症」は、専門の学会とは無関係に厚生労働省の委員会が提唱した用語にすぎず、学術用語としてはなじまない異質な言葉でもあったために、学会ではしばらくこの用語を用いませんでした。ところがマスコミが盛んにこの言葉を使って世間的にも広まったために、これを使わざるをえなくなりました。
「認知症」はこのような経緯で生まれて使われるようになった言葉なので、学術用語として古くから使われ、その定義や診断基準などが確立されてきた「痴呆」という言葉に比べて
したがって次のような「痴呆」の特徴、すなわち「正常に発達した知能が脳の後天的な障害によって正常なレベル以下に低下した状態」を指し、「知能の発達がもともと悪い状態(知的障害)とは区別が必要であること」、「意識障害、統合失調症、うつ病などや、記憶障害のみの健忘とも区別されるべきであること」という特徴をもつことは当然です。
もっと厳密にいうならば、従来の「痴呆」という用語の定義としてDSMⅣという基準における各痴呆性疾患に共通する項目として表3のようなものがあげられてきましたが、認知症も同様な項目が満足されなければならないと考えます。
認知症とはこのように病態を示す言葉であり、ひとつの疾患を指す言葉ではありませんので、この状態は多くの疾患で起こりえます。
主な疾患としては表4にあげたようなものがあります。なかでも認知症が前景に出る代表的な疾患が、アルツハイマー病であるといえます。
最も肝心なのは早期発見です。早期発見・治療によって認知症にならずにすむこともあります。予防可能な認知症、治療可能な認知症などと呼ばれます。脳外科的疾患、たとえば
しかし、原因が不明だったり、よい治療法がないか、あっても不十分な場合も残念ながらまだ多いのです。アルツハイマー病の場合には、治療薬のドネペジル(アリセプト)を早期に使うと、ある期間はかなりの例に効果があることが知られています。しかし、残念ながら効果の程度もこれが効く期間も限度があります。
「キュア(治療)よりもケア(介護)」といわれるように、やはりケアが重要です。ケアの原則は患者さんの身になって、患者さんと「なじみ」になり、患者さんを叱らず、自尊心を傷つけず、説得よりも納得のケアを心がけることが大切です。
平井 俊策
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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