貧困は時代や社会によりそのあらわれ方は大きく異なるが,現代資本主義社会における社会問題としての貧困は資本主義そのものの所産である。また貧困の原因は,怠惰,無知などの個人的責任や天変地異その他にあるとされていたが,資本主義の進展とともに,むしろ社会そのものにあると考えられるようになった。労働力以外に生産手段をもたない労働者階級が成熟するなかで,極貧の過剰人口が累積し,膨大な沈殿層を形成していく。こうした貧困者は生活が非常に低位にあり,必然的に肉体的・精神的荒廃をもたらし,社会的に見放され,制度的に遠ざけられ,陰蔽される。これらは集合して層bandを形成し,固定され,長期化する性格をもつ。さらに再起しえない悲惨な貧困地域を随所に発生せしめる。
生存充足の絶対量を確保しえないものを絶対的貧困というが,この絶対的貧困の測定方式として,生活必需物資の量を積み上げて貧乏線poverty lineを算定するマーケット・バスケット方式などがある。やがて絶対的貧困から脱して,一般社会の平均とか標準とかの生活水準との比較による相対的貧困がとり上げられる。絶対的から相対的へという貧困認識の変化の過程で,貧困の再発見rediscovery of povertyが行われている。B.S.ラウントリーが1950年調査で貧困率の極度の減少を実証し,イギリス福祉国家による貧困解消がなされているとしたのに対し,逆にピーター・タウンゼントは60年ころの貧困の膨大な存在を再認識することを主張した。同じころアメリカでM.ハリングトンは,3種の新しい貧困(技術進歩に追いつけない非熟練労働者,社会的脱落者,はみ出た農業労働者など社会経済発展の目まぐるしさの陰に生じた貧困)を指摘した。イギリスではさらに〈働く貧困者working poor〉がつけ加えられている。相対的貧困の測定方式としては,エンゲル係数方式,公的扶助基準方式その他がある。P.タウンゼントは69年調査により,相対的多様化貧困relative deprivationを提唱している。それは,一般社会生活を規定する食事,サービス,快適さなどの生活条件を剝奪されていることであり,その算定方法は,所得と60にのぼる貧困項目とを縦横にグラフ化して,資源の不つり合いを表す転換点を求める,というものであった。
今日の貧困対策としては,旧来の単なる救貧では解決しえない。老人,障害者などに対する個々の施策の充実もいうまでもなく必要である。しかしそれのみでなく,貧困地域に対して地域ぐるみの施策が必要である。アメリカの貧困戦争は,特定の地域に差別的優遇を行い,職業訓練,就職,威厳ある生活維持などの機会を与え,そのコミュニティの生活全体を蘇生させよう,というものであった。またイギリスでも,コミュニティ全体が教育的危機の問題を抱く地域に対しての1960年代後半の教育優先地域Educational Priority Areas(EPAs)政策,あるいは内務省による69年のコミュニティ開発計画National Community Development Projects(CDPs)などがあった。また国際連合などでも〈第四世界(カトル・モンド)〉ということばを用いて,従来の福祉対策で救剤しえない極貧層(コア・ポバティ,不定住貧民等)への対策が模索されている。
執筆者:小沼 正
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…金融論,銀行論,農業経済学,工業経済学等々,また最近ではサービス経済学という分野も出てきている。
【社会科学としての経済学】
経済学は,人間の営む経済行為を直接の対象とし,現実の経済現象の根底にひそむ本質的な側面を引き出し,経済社会の基本的な運動法則を解明することを試みるとともに,貧困の解消,経済的発展の可能性等を探ろうとする。経済現象は,一つの社会ないしは複数の社会において,数多くの人間が,相互に深いかかわりをもちつつ,それぞれの置かれた歴史的,文化的,技術的,制度的な諸制約条件のもとで,どのような経済的行動を選択するかということによって,その特徴が定まってくる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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