金属を分類するときの用語の一つで,卑金属に対する語。通常は,金Au,銀Ag,および白金族元素のルテニウムRu,ロジウムRh,パラジウムPd,オスミウムOs,イリジウムIr,白金Ptをいう。化学的には,単体として産し,イオン化傾向が小さく,酸類などとは直接反応しにくく,空気中では酸化されにくい,ということで,上記の金属以外に銅Cuおよび水銀Hgをも含めていうのが普通である。
執筆者:中原 勝儼
金属材料の分類では,金,銀,白金族金属およびそれらの合金をまとめて貴金属precious metalという。化学的性質の一つであるイオン化傾向から分類すると,上記の金属のほかに水銀,銅なども貴金属noble metalに含まれる。金,銀,銅は周期表では同じⅠb族に属し,古代から貨幣用金属coinage metalとして使われた。現在,貴金属商が取り扱う工芸品,装飾品,装身具,メダルなどは金,銀,白金が用いられるが,純金属だけでなく,他の白金族金属,銅,ニッケルなどとの合金も使われる。
貴金属は工業用材料としても重要な位置を占めている。後述するように金は半導体機器の配線や接点に用いられる。銀は写真感光材料,接点や鑞付用の材料とされる。白金族金属は化学工業用の触媒として優れた性質をもっており,また高融点,耐酸化性,耐化学薬品性などを利用して特殊な装置材料の表面被覆材などとして用いられる。
砂金など単体として産出し,また古代エジプトの金製品が美しく保存されていることが示しているように,通常の自然環境では侵されず美しい表面を保っている。このことは装飾用としてはもちろん,変質や表面の劣化を強くきらう電子素子の材料として利用される。酸にも強く,硝酸と塩酸をまぜた王水には溶けるが,単独の酸には溶けない。純金はきわめて軟らかく,そのまま利用することは少ないが,他の貴金属はじめ多くの金属と合金として用いられる。装飾用として使われる金合金の金の含有率はカラットという単位で表す。24カラットが純金で,18カラットは18/24,すなわち75%が金の合金である。残りに何を使うかは,価格,硬さ,光調などで決まるが,銅を入れると赤みがかかり,銀を入れると黄色となる。ICチップの接合には金の極細線が使用され,またプリント基板,接点など電子関係の用途が多い。これは,金が半導体との間のオーム接触に優れ,また低電圧,低電流で作動するものではとくに,表面が清浄に保たれること,化学的に安定で腐食しないことが要求されるからである。
貴金属のなかでは産出量も多く,価格も安いので利用上有利である。室温では酸化はしないが,空気中に硫黄分が含まれていると黒変する。これは表面に硫化物Ag2Sができるためである。そのような欠点はあるものの,その落ちついた色調は好まれる。スターリングシルバーは銀を92.5%以上含み,残りはふつうは銅が用いられる。装飾品やナイフなどテーブルウェアとして歴史がある。銀の電気と熱の伝導度は金属中で最大で,耐酸化性のよいこととあわせて,接点材料としての用途が広い。とくに銀中に酸化カドミウムCdOを内部酸化によって生成させたものは,かなり大電流の電磁開閉器の接点材料となる。また,反射率のよさから鏡としても利用される。銀合金は鑞材としても重要で,多くの金属の接合に使用され,融点が約600℃と比較的低く,作業性がよい。
金属以外の利用形態としては,ハロゲン化物が写真フィルムや印画紙の感光物質として使われ,銀の使用量のおもな部分を占める。定着廃液からの銀回収は比較的処理が容易なため,再生されることが多い。
互いに性質が似ていて,いっしょに産出することが多い。共通の特徴はきわめて耐食性がよいこと,融点が高く,耐熱性のあることで,この性質を利用した広い用途がある。たとえば,化学繊維を製造するときに必要な紡糸口金はきわめてきびしい化学環境で使用されるが,ここで使えるものは白金-ロジウムPt-Rh合金あるいは金-白金Au-Pt合金くらいしかない。また,白金とPt-Rh合金の線は高温用熱電対である。光学ガラスを溶解するるつぼには白金が使われる。白金族は触媒としても重要であり,各種の反応に利用されている。アンモニアと空気とから硝酸をつくる工程にはPt-Rh合金の細線の網が使われている。石油化学用触媒としても重要である。パラジウムも触媒として使用されるほか,高温での水素の透過能がよいため水素の精製用の膜材料とされる。オスミウムとイリジウムには耐食性と硬さを利用しての用途がある。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
化学的にみてイオン化エネルギーが水素のそれよりもはるかに大きく、酸および酸化剤に侵されない金属。金、白金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムなどがある。銀は溶存酸素がなければ非酸化性の酸に溶けず、一般に貴金属の仲間に入れられることが多い。貴金属は通常の使用環境中では高い耐食性をもち、通貨、装飾品、電極、電気接点、めっき、歯科用材料、化学器具などに使用される。
貴金属は合金にして使用されることも多い。たとえば装飾用には14または18カラット(カラットは純度を表す尺度で、純金を24カラットとする)、歯科用の金冠には22カラットの金‐銀‐銅合金を用いる。ニッケルを10~20%、銅を2~20%、亜鉛を2~10%含む金合金は銀白色で、ホワイトゴールドとよばれ装飾用や歯科用に用いる。ロジウムを10または13%含む白金合金は測温用熱電対(つい)として、イリジウムを15および20%含む白金合金はそれぞれ標準尺度用および標準重量用に使用される。
金や白金も特殊な環境中では腐食される。金は乾燥ハロゲン、とくに臭素には侵される。塩酸と硝酸の混酸である王水や、溶存酸素を含む青化カリ溶液には溶解する。白金も王水中では腐食する。高温の塩化第二鉄溶液も白金を侵食する。
[杉本克久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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金,銀,白金族の元素.これらは空気中で酸化されず,酸などにも溶けにくく,また化学的親和力が小さいため,自然界には単体として産出する.金属は空気中で光沢を失わず産出量も少ないので,貴金属といわれる.これに対する用語として卑金属がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…最も重い金属はオスミウム(22.57)で,イリジウム(22.42)がこれに次ぐ。
[貴な金属と卑な金属noble metal and base metal]
元素の化学的性質の一つである水溶液中での標準電位系列(イオン化傾向序列の逆)で水素よりも高い電位にある金属を一般に貴な金属といい,金,銀,白金,水銀,銅などが含まれる。他の多くは卑な金属である。…
…他の多くは卑な金属である。装飾的な用途では金,銀,白金およびその合金を貴金属precious metalという。金,銀,銅は貨幣として用いられるところから貨幣金属coinage metalとも呼ばれる。…
※「貴金属」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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