(読み)フ(その他表記)fù

デジタル大辞泉 「賦」の意味・読み・例文・類語

ふ【賦】

詩や歌。「惜別
詩経」の六義りくぎの一。比喩ひゆなどを用いないで感じたことをありのままによむ詩の叙述法。
漢文文体の一。対句を多用し、句末で韻をふむもの。「赤壁
[類語]うた詩歌韻文詩賦しふ吟詠ポエムバース詩編叙情詩叙事詩定型詩自由詩バラードソネット新体詩

ふ【賦】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉)(漢)
税を取りたてる。租税。「賦役賦税/田賦」
割り当てる。割り当て。「賦課割賦月賦年賦
授け与える。「賦活賦与天賦稟賦ひんぷ
詩歌を作る。また、詩歌。「賦詠早春賦
古代中国で、韻文の一体。「辞賦赤壁賦
[名のり]ます

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精選版 日本国語大辞典 「賦」の意味・読み・例文・類語

ふ【賦】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 割り当てること。割りつけること。配ること。
  3. みつぎもの。年貢。租税。また、賦役。
    1. [初出の実例]「熊有精麤賦無貴賤」(出典:続日本紀‐養老元年(717)一一月戊午)
    2. [その他の文献]〔書経‐禹貢〕
  4. 「詩経」の六義(りくぎ)の一つで、比・興とともに、表現上の方法の分類を示すもの。事実や風景、心に感じたことなどをありのままに述べたもの。
    1. [初出の実例]「詩六義者風賦比興雅頌也」(出典:作文大体(1108頃か))
    2. [その他の文献]〔詩経大序〕
  5. 漢詩になぞらえて、紀貫之がいう和歌の六義の一つ。ありのままに詠むもので、仮名序のかぞえ歌に相当する。
    1. [初出の実例]「和歌有六義。一曰風、二曰賦、三曰比、四曰興、五曰雅、六曰頌」(出典:古今和歌集(905‐914)真名序)
  6. 漢文の韻文体の一つ。事物の様子をありのままに表わし、自分の感想を付け加えるもの。対句を多く用い、句末は必ず韻を踏む。
    1. [初出の実例]「未旦求衣賦一首」(出典:菅家文草(900頃)七)
    2. [その他の文献]〔班固‐両都賦序〕
  7. 転じて、広く一般的に韻を含んだ詩文。
    1. [初出の実例]「二上山賦一首」(出典:万葉集(8C後)一七・三九八五・題詞)
  8. 俳文で、の様式をとり入れ、故事や成句などを交じえ、対句を多く用い自分の感想などを述べるもの。〔俳諧・本朝文選(1706)〕

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普及版 字通 「賦」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 15画

[字音]
[字訓] おさめる・あたえる・となえる

[説文解字]
[金文]

[字形] 形声
声符は武(ぶ)。〔説文〕六下に「斂(をさ)むるなり」と訓し、賦斂(ふれん)の意とする。金文の〔毛公鼎〕に「命を(し)き、政をき、小大の楚賦(ふそ)を(をさ)めよ」とあり、政令の実質は賦斂を徴することにあった。賦斂の意より分賦・賦予の意となり、天性のものを天賦・賦稟(ふひん)という。文学としての賦は、その対象を詩的な言語で賦陳することによって、その内的な生命との交感を目的とする、一種の魂振り的な言語呪術から発したもので、いわゆる辞賦の文学はその系統に属する。〔万葉〕の「寄物陳思(きぶつちんし)」も、本来はそのような呪誦文学の系列に属するものであった。

[訓義]
1. おさめる、とる、とりたてる、みつぐ。
2. わりあて、わかつ、くばる、うける。
3. ほどこす、あたえる、うごかす。
4. となえる。詩の六義の一、ならべあげてうたう。辞賦の文学、その文体。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕賦 ムクユ・マダラナリ・カハル・ナヤム・クバル・シク・ハフ・ユタカナリ・イコフ・ヒク・ウタフ 〔字鏡集〕賦 シク・ウツ・ノブ・ハフリ・アカツ・ヒク・イコフ・ヲロス・トル・ウタフ・カハル・ハフ・ユタカナリ・ハカル・ムクユ・クバル・マダラナリ・ナヤム

[熟語]
賦韻・賦詠・賦役・賦課・賦額・賦間・賦帰・賦給・賦形・賦貢・賦才・賦彩・賦算・賦詩・賦事・賦質・賦・賦政・賦性・賦税・賦籍・賦租・賦粟・賦調・賦田・賦得・賦入・賦納・賦稟・賦分・賦命・賦有・賦与・賦予・賦輿・賦里・賦斂・賦禄
[下接語]
課賦・丘賦・均賦・軍賦・軽賦・献賦・公賦・厚賦・貢賦・財賦・作賦・算賦・詞賦・詩賦・辞賦・重賦・征賦・税賦・租賦・治賦・徴賦・定賦・天賦・田賦・俳賦・倍賦・比賦・分賦・敝賦

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改訂新版 世界大百科事典 「賦」の意味・わかりやすい解説

賦 (ふ)

中国の韻文の文体の一種。詩とちがって一句の長さは一定せず,長短さまざまな句を用い,押韻の方法にも定式はないが,一般に対句(ついく)によって構成されることが多く,また韻文の諸形式のうちでおおむね最も長い。〈賦〉の字義は,ものごとを鋪(し)き陳(つら)ねることで,その名のごとく種々の事物を羅列的に描写して,豊富な景観を作り出すことを本来の役割とした。また〈賦〉には朗誦するという意味もあり,この形式が元来《詩経》の詩のように歌われるものではなく,朗誦されるものであったことを暗示している。

 賦の起源は,戦国末期の《楚辞》にあるとされ,その中心的な作者屈原の作品も賦と称されることがある。漢代に入ると,賦はしだいに《楚辞》的な世界から独立して,この時代を代表する特色ある文学様式として発展した。賦およびその系列に属する様式は,〈辞賦〉の名で呼ばれるのが一般だった。漢賦の初期の作者である賈誼(かぎ)の作品には,まだ《楚辞》的な抒情性のなごりがあるが,やがて叙事をこととする方向に大きく傾斜していった。漢賦が全盛期に達したのは,前2世紀末の武帝の時代においてである。当時,文学の中心は宮廷にあり,宮廷文人たちは君主の心を慰めるべく創作を行ったが,その主要な様式となったのが賦である。そうした文人たちの中で,賦の最大の作家といえば,だれしも司馬相如(しばしようじよ)に指を屈する。彼において,〈鋪陳(ほちん)〉を生命とする賦の様式は,事実上完成をみたといえる。その後も王褒(おうほう),揚雄などすぐれた作者が輩出して,華麗な修辞を競い,漢賦の伝統を確固たるものにした。賦にはまた諷諭(ふうゆ)の機能が託されていたが,作者である宮廷文人たちには,君主への奉仕者という性格が強かったために,本来の意図が十分に生かされなかった。

 後漢になっても,班固や張衡(ちようこう)のような賦の大家が現れた。班固の〈両都の賦〉,張衡の〈二京の賦〉は,ともに前漢の都長安と後漢の都洛陽をうたった壮大な規模の作品で,前者は4600字,後者は7000字を超える巨編である。このように後漢の賦は,前漢のそれよりもいっそう長編化する傾向にあり,また細密で写実的な描写が増えたが,その半面,司馬相如らの賦が特色とする誇張された華麗な文辞のおもしろさは薄れた。

 六朝時代の初期になると,それまでの叙事をこととする雄大な長編のほかに,抒情的な短編の賦が現れて,新しい境地を開拓した。王粲(おうさん)の〈登楼の賦〉や曹植の〈洛神(らくしん)の賦〉などは,抒情小賦の代表的な成果である。さらに六朝後期には,駢文べんぶん)の発展と呼応して,対偶表現は一段と徹底し,ほとんど全編が対句から構成されるまでになったほか,平仄(ひようそく)を整えて音声上の効果をよくするくふうも導入された。賦の規律化は唐に入っても推進され,いわゆる律賦(駢賦)の型ができた。それに対し,散文における〈古文〉の盛行の刺激を受けて,規則の制約を受けることの少ない文賦が,唐末から宋にかけて出現した。杜牧(とぼく)の〈阿房宮(あぼうきゆう)の賦〉や欧陽修の〈秋声の賦〉,蘇軾(そしよく)の〈赤壁の賦〉は,その代表的な作品である。
執筆者:


賦 (くばり)

鎌倉幕府室町幕府における訴訟手続上の用語。訴状が幕府に受理されて,担当の法廷に送付される手続をいう。またこの手続にあずかる幕府の機関も賦と称された。この手続を担当する役人は賦奉行であるが,単に賦とも呼ばれた。鎌倉幕府は訴訟制度を発達させたが,執権北条時頼の時代には,訴訟専門の審理機関として引付(ひきつけ)が設けられた。これは若干名の引付衆と若干名の奉行人とから成るチームで,〈一番引付〉〈二番引付〉などと呼ばれ,その数は時代によって変化があった。賦奉行は受理した訴状を,いくつかある引付に順次に送付した。これが賦である。賦を受けた引付では被告に対して陳弁を求める問状を発する。こうして裁判が開始されるわけである。以上のような訴訟手続は室町幕府においてもおおむね踏襲された。なお鎌倉・室町両幕府における訴訟手続については,《沙汰未練書》《武政軌範》という書物にそれぞれ記されている。
引付方
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「賦」の意味・わかりやすい解説


中国古典文学の代表的な文体の一つ。辞賦(じふ)ともいう。賦とは、元来、敷き延べる意。したがって全編にわたり華麗な辞句を連ね、数十句から数百句にも及ぶ長編作品がほとんどを占める。戦国末期の楚(そ)国の宮廷文壇からおこり、漢魏六朝(かんぎりくちょう)時代(前2世紀~後6世紀)をその全盛期とする壮麗な朗誦(ろうしょう)文学で、対句を主体にしつつ、問答形式を用いたり、長短句を適宜織り交ぜたりするので、『文選(もんぜん)』以来いちおうは「散文」として取り扱っているが、押韻(おういん)や平仄(ひょうそく)に留意するなど韻文的要素も多分に含んでおり、正確には韻文と散文の折衷様式と考えてよい。中国古代貴族文学の典型的文体。

 南方の楚国に発生したこの文学様式が、やがて中央文壇の主流を占めるに至った経緯は、初め宋玉(そうぎょく)らを中心として楚の宮廷文壇で盛んにつくられていた辞賦が、楚の王室の東遷とともに江淮(こうわい)地方に伝播(でんぱ)され、前漢初期、この地方で枚乗(ばいじょう)、荘忌(そうき)、鄒陽(すうよう)の三大辞賦作家をはじめ多くの作家の活動が始まり、ついで辞賦を愛好した武帝のとき、枚乗らの作風を継承する司馬相如(しばしょうじょ)、枚皋(ばいこう)、荘助(そうじょ)らが漢室の文壇に大挙招かれたことにより、初めて辞賦が宮廷貴族文学の中枢的地位を獲得したといえる。

 代表作家には、前述の諸家に続き、前漢の揚雄(ようゆう)、後漢(ごかん)の班固(はんこ)・張衡(ちょうこう)・蔡邕(さいよう)、魏(ぎ)の曹植・王粲(おうさん)、西晋(せいしん)の潘岳(はんがく)・陸機・左思、東晋の郭璞(かくはく)・孫綽(そんしゃく)、南朝の謝霊運・鮑照(ほうしょう)・沈約(しんやく)・江淹(こうえん)、北朝の庾信(ゆしん)らがある。賦の修辞が漢魏六朝の詩や駢文(べんぶん)に与えた影響も大きい。

[岡村 繁]

『小尾郊一著『全釈漢文大系26・27 文選』(1974・集英社)』

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百科事典マイペディア 「賦」の意味・わかりやすい解説

賦【ふ】

中国の韻文の一体。対句によって構成されることが多いが,押韻の方法,句の字数,一編の句数に規定はなく,長編が多い。戦国時代の楚に起こり(《楚辞》),漢代に〈辞賦〉として盛行,魏晋〜南北朝時代には対句や音調を重んじる〈駢賦(べんぷ)〉が行われ,唐代以後も作られた。
→関連項目賈誼菅家文草宮廷文学司馬相如曹植

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賦」の意味・わかりやすい解説



Fu

中国の韻文の一体。形式としては,対句を用い,句末に適宜押韻するもので,1句の字数にも,1編の句数にも決りはない。『楚辞』の系統をひくもので,「辞賦」と並称するが,特に区別はなく,『楚辞』の各編を賦の始りと考えることが多い。漢代に入ると華麗な叙述がふえ,宮廷でもてはやされ,文学の最も重要なジャンルとして発展,「漢賦」と呼ばれ,賈誼 (かぎ) ,司馬相如揚雄班固らが出た。六朝時代には駢文 (べんぶん) 盛行のなかにあって,さらに美文化して「駢賦」と呼ばれ,唐代にはさらに対句,音調を重んじる「律賦」が行われた。宋代には古文運動が盛んとなるにつれ,賦は散文化し,単に各所に押韻するだけのいわゆる「文賦」が生れた。蘇軾の『赤壁賦』はその代表作。宋以後は衰微の一途をたどった。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【賦役】より

…君主や領主への農民の負担が,現物や貨幣の支払によるのではなく,生の労働の形で提供される場合,これを賦役という。
[ヨーロッパ]
 賦役は,英語でlabour service,ドイツ語でFrondienst,フランス語ではcorvéeという。…

【詩】より

…《楚辞》の詩形は〈三言〉を基調とするもので,リズムを整える助字〈兮(けい)〉が頻繁に用いられている。しかし,この形式すなわち〈辞〉は漢代に入ると〈賦(ふ)〉とよばれる長編の美文へと転化して,韻文と散文の中間的な性格をもつものとなり,伝統的なジャンルの区分においては〈詩〉のなかには入れられなくなった。 漢代になると,民間の歌謡のなかから〈五言〉の形式が知識人たちによって採り入れられて,〈五言詩〉が成立する。…

【中国文学】より


[楚辞]
 戦国時代,中国南部の長江(揚子江)流域でさかえた楚の国で起こった新しい韻文文学が〈楚辞〉である。その書は漢代に編集されるが,そのおもな部分は屈原の作25編で,祭礼の舞歌(《九歌》など)と独白体の〈賦〉(《離騒》など)の2類に分かれる。前者はかつては歌唱されていたであろうが,後者は初めから朗誦されたと思われ,句形は《詩経》より長く,韻のふみかたは1句おき(隔句韻)に定まっている。…

【百科事典】より

…そして,こうした分類とその体系は後の類書に大きな影響を与えた。第2はである。賦は,漢代に盛んになった韻文の一形式であって,《文選》ではこれを京都・郊祀・耕籍・畋臘(でんろう)・紀行・遊覧・江南・物色・鳥獣・志・論文・音楽・情の13類に分かっている。…

※「賦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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