しつ【質】
〘名〙
※
高野山文書‐
永享二年(1430)正月一二日・大法師針海宝鏡寄進状「右件宝鏡者、弘法大師天照大神御対面之時、為
二仏法護持
一、忝奉
レ鋳
レ写
二大神之御質
一、皈
二本国
一、納
二御誕生院
一給」 〔礼記‐曲礼上〕
② ある物を形づくっている材料を、
良否・粗密などその
性質の面から見たもの。ある組織、団体の構成員などについてもいう。
※弁名(1717)下「性者、生之質也」
※
新撰和歌(930‐934)序「抑夫上代之篇。義尤幽而文猶質」 〔論語‐雍也〕
※菅家文草(900頃)五・弓「細月空驚
レ質、清風自発
レ声」 〔
荀子‐勧学〕
しち【質】
〘名〙
① 契約を履行する
担保として物を預けること。またはその物。
※竹取(9C末‐10C初)「もし、金(かね)給はぬ物ならば、彼衣のしち返したべ」
(ロ) 借金の担保として預けておくもの。借金のかた。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
※虎明本狂言・吃(室町末‐近世初)「わらはがよめいりをした時、十二ひとえをきてまいりたるを、あのおとこが、酒手のしちにしはてて御ざる」
(ハ) 質屋から金を借りるための担保。また、担保として質屋に渡す物品。しちぐさ。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)三「そなたゆへにおきなくしたがくやしい。質(シチ)はさかさまにゃアながれ申さぬ」
② 人質。
※今昔(1120頃か)二五「此奴、糸哀れに此の質を免したり」
※太平記(14C後)九「或は又其子を質(シチ)に出して、野心の疑を散ず」
[語誌]中世までは、占有質(今日の質)と無占有質(抵当)との区別がなく、特に必要のあるとき、前者を「入質(いれじち)」、後者を「見質(みじち)」または「差質(さしじち)」と呼んだ。江戸時代には、田畑・家屋敷・家財・什宝・人身等の占有物件を抵当とする庶民金融が、質の主体となった。
たち【質】
〘名〙
① 人が生まれながらに持っている性質や体質。資質。うまれつき。タイプ。また比喩的に、動物、植物、病気などについてもいう。性(しょう)。
※浮世草子・好色貝合(1687)上「銭のかずよみて、袂の中でにぎりつめて、〈略〉あたたかなをもてくるたちなれば」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「ハイ僕なぞも、矢張因循家のたちで、あんまり肉食はせなんだが」
② 物の品質。物の種類。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉五「同じ糸織でも今の糸織とは、たちが違ひます」
③ 広く、物事の性質。「たちの悪い風邪」
※由利旗江(1929‐30)〈岸田国士〉裏庭に開く潜戸「『性(タチ)』の悪い弥次を浴びせかけられた」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「質」の意味・読み・例文・類語
しち【質】
1 約束を守る保証として相手に預けておくもの。「不足代金の質として時計を預ける」
2 質屋から金銭を借りるときに、保証として預けておくもの。また、その物品。質草。「着物を質に入れる」「質流れ」
3 質権またはその目的物となる質物。
4 人質。
「或いは又其の子を―に出だして、野心の疑ひを散ず」〈太平記・九〉
[類語]担保・抵当・形
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質
しち
債権に対する優先弁済権を確保するための物的担保。日本法制史上は現行法上の質権に相当する占有質と,抵当に相当する無占有質との2つの概念を含む。律令には,前者に関する条規がみえ,また,奈良時代正倉院文書月借銭解などにおいて,すでに不動産について,無占有質の実例が見出される。中世法においては,占有質は入質 (いれじち) ,無占有質は差質 (さじち) と称される。動産の入質は,帰属質であり,鎌倉幕府法により,利息が元本の1倍をこえた場合には,流質となった。しかし,流質の期間は室町幕府法により緩和されている。不動産の入質は,その収益により利子を消却する利質と,元利を消却する元利消却質とがあった。しかし,室町幕府の永享 12 (1440) 年の法令により,この両者の区別はほとんど失われた。差質は,主として不動産について行われ,利息が元本の1倍となると流質となった。近世においては,入質は質入 (しちいれ) と称され,特に不動産中の田畑の質入れが重視された。田畑の質入れには,年期明け流地のもの,年期明け請戻しのもの,有合せ次第請戻しのものの3者があったが,幕府法により,いずれも 10年を限度として,10年を経過すれば流地となった。書入は,主として,不動産について行われ,債務不履行により流地となる書入,不履行の場合に質入に変更する書入,不履行の場合に,目的物を売却する書入の3種があった。なお,中世,近世を通じて質権の客体として人間があてられる場合もあり,それは占有質,無占有質の双方にわたって認められていた。
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質
しち
貸借契約などの契約の保証物件。古代の令の規定では,返済が滞ると質物を売却し,代価から元利分だけを債権者がとる売却質が原則だった。しかし,平安時代に質物の所有権自体を移す帰属質が派生し,以後主流となり,中世の質には入質(いれじち)・見質(現質(げんじち))の区別が生じた。前者は,契約と同時に質地・質物の占有が債権者に移転する質(現在の質)で,後者は,債務不履行の場合はじめて所有権が債権者に移転する質(抵当)であった。このような質入れ・質取りの対象は,不動産だけでなく人間にもおよんだ。見質としての人質のほか年貢を滞納した百姓の妻子を地頭が差し押さえて身代(みのしろ)とする人質,戦国大名の同盟の保証物としての人質など,広範囲の質が設定された。近世には,動産質庶民金融(質屋)がさらに発展したほか,妻子を債権者の下で働かせて債務を返済する質奉公などが現れた。不動産の質入れも盛んに行われ,これが田畑永代売買の禁令の抜け道になるとして禁圧した江戸幕府も,名主の加判など一定の要件を備えた質入れは認めざるをえなかった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
しち【質】
一般に契約の保証物件をいう。古く《類聚名義抄》に〈ムカヘリ〉(《日本書紀》では〈ムカハリ〉)あるいは〈シロ〉の訓が与えられているように,質の原義は本物・本人に代わって本物・本人と同じ機能を果たすものの意である。その意味で身代(みのしろ)は質の原型の一つを示している。質権
[古代]
律令法における質は,占有質と無占有質(こんにちの質と抵当)とを含んだものであり,また動産質と不動産質を区別していなかった。
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質【しち】
質権および質物を総称した言葉だが,法制史上,律令時代〜中世には今日の意味での質(占有質)だけでなく抵当(無占有質)をも含めて用いられた。中世には両者を区別するため,前者を入質(いれじち),後者を見質(みじち)または差質(さしじち)と呼んだ。江戸時代には質の語はもっぱら前者の意に用いられ,後者は書入(かきいれ)と呼ばれた。→質屋
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質
しち
債務返済の証拠(担保)として債権者に渡す財産(人・動産・不動産)
返済期限を過ぎると債権者の所有となった(質流れ)。古代,出挙 (すいこ) の形で質をとる例があるが,貨幣経済が普及した鎌倉時代以後,高利貸業者(借上・土倉・酒屋)が現れて質をとった。江戸時代,質屋のほか,御用商人や札差 (ふださし) が年貢・俸禄などを担保に大名・旗本らに金融をし,農村では田畑永代売買は禁止されたが,富農が貧農の田畑を担保にして金融をし,貧富の差を増大させた。また武士間では人質,庶民では質奉公なども行われた。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
質
諸種の用いられ方をする.例えば,食事タンパク質の質といえば栄養価をいい,食品の質といえばその市場価値などをいう.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典内の質の言及
【人質】より
…日本の現行法では,人を人質にとる行為は禁じられ,逮捕監禁罪,ときには誘拐罪でも処罰しうる。しかし,これらにおいては人質の目的である各種の不法な要求の強要に処罰の主眼が置かれていないばかりでなく,実際上は人質の生命の危険にも質的差異のあるのが一般である。…
【本銭返し】より
…(1)買戻しの時期を定めず,売主がいつでも本銭をもって買い戻すことを契約した無年季有合(ありあい)次第請戻(うけもどし)特約。これは当時〈有合に売る〉とも表現され,売却人の買戻権は原則上は永久的性質をもち,相続人に移転するものであった。(2)一定期間経過後に代価を支払って買い戻すことができることを契約した年季明(ねんきあけ)請戻特約。…
【無尽】より
…一定の口数を定め加入者を集め,一定の期日ごとに各口について一定の出資(掛金)をさせ,1口ごとに抽選または入札によって所定の金額を順次加入者に渡す方式でお金を融資するものである。明治以降新しい銀行制度が移植,確立され,特殊銀行や一般金融機関は整備されたが,一般の人々の間では質屋や無尽が多く利用された。しかし資本主義の発達につれて,無尽も会社組織で経営するもの(営業無尽)が増加し,その数は1913年末には1151社を数えるに至った。…
【利子】より
…もちろん,同一の主体が上記の4分類のいくつかを同時に兼ねることは可能である。たとえば,企業所有者は同時に自分の企業への(実質的な)資金供給者となりうる。その場合には,その主体は利子と利潤との双方を同時に受け取ることになるであろう。…
【量】より
…ある性質を有する任意の二つの物を,その性質によって順序づけることができるとき,その性質を〈量〉という。そして,そうでない性質は〈質quality〉といわれる。…
※「質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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