賭博(読み)とばく

精選版 日本国語大辞典 「賭博」の意味・読み・例文・類語

と‐ばく【賭博】

〘名〙 金銭品物などをかけて勝負をあらそうこと。また、そのもの。かけごと。ばくち。ばくえき。
※通俗赤縄奇縁(1761)二「小官人外に在て、賭博(トハク)(〈注〉バクチ)をなし、店の銀子を偸み玉ふ」 〔義山雑纂‐悩人

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デジタル大辞泉 「賭博」の意味・読み・例文・類語

と‐ばく【賭博】

金品をかけて勝負を争うこと。かけごと。ばくち。
[類語]博打賭け賭け事ギャンブル一か八かるか反るか乾坤一擲けんこんいってき賭けるする

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「賭博」の意味・わかりやすい解説

賭博
とばく

広く賭(か)け事のこと。刑法第185条に「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する」とある。旧刑法では博戯(はくぎ)(当事者の行為によって勝敗が決まるもの)と賭事(とじ)(当事者の行為には関係のないもの)とに区別し、これを総称して賭博といったが、1995年(平成7)の刑法改正でこの区別を廃した。

[倉茂貞助]

歴史

賭け事の歴史は古く、紀元前3000年から前2000年ごろにはエジプトやインドなど古代文明を創造した民族の間で、それぞれ定型化した賭け事が行われていたことが、遺跡や出土品によって立証されている。日本の賭け事の発祥は、『日本書紀』に「天武天皇ノ一四年(685)、大安殿ニ御シ、王卿(おうけい)ヲシテ博戯セシム」とあり、文中の博戯が双六(すごろく)(盤双六)であったと考えられることを根拠に、7世紀の中ごろ、大陸から双六が伝えられたことに始まるとしている。しかし当時、双六のほかに意銭(いせん)および樗蒲(ちょぼ)とよばれる賭け事が行われていたという記録もあり、これらの賭け事がどんな賭け事で、どこからいつごろ伝えられたかはわからない。また、大陸から双六が伝えられる以前に、日本人が独自に考案した賭け事があったとする説もあるが、それを証明する資料は何も発見されていない。

 双六の伝来が日本の賭け事史に重要な意味をもつのは、その用具の一部として、日本人が知らなかった「さいころ」が伝えられたことにある。伝来後まもなく攤(だ)という賭け事が考案され、平安時代の七半(しちはん)、鎌倉時代の四一半(しいちはん)を経て今日の丁半(ちょうはん)まで、さいころは日本の賭け事の主流として伝えられてきた。

 日本の賭け事は689年(持統天皇3)に「雙六(すぐろく)禁断之令」が発布されて以来、江戸時代に寺社修復の資金調達を理由に一時富籤(とみくじ)を公許した例があるが、1923年(大正12)に競馬法が制定されるまで、一貫して禁じられてきた。しかもその間、賭け事は、歴代為政者の取締りにもかかわらず、一度も下降線をたどったためしがなく、発達し続けてきている。

 賭け事の立場から日本の歴史を概観すると、奈良時代に大陸からの伝来によって芽生えた日本の賭け事は、平安時代に一斉に開花し、鎌倉時代から室町・安土(あづち)桃山時代にかけて広く庶民の間に浸透した。江戸時代には、賭け事の種類、内容などの完成とともに万果成熟の時代を迎えた。そして、明治・大正時代には諸外国の影響を受けて、刑法の制定をはじめさまざまな変革があった。第二次世界大戦後になって社会情勢の変化とともに国民の賭け事に対する考え方も変わり、刑法の賭博罪は廃止されないが、公共のための資金の調達を目的として競馬、競輪、競艇(きょうてい)、オートレース、宝くじがそれぞれ特別法によって公認され、有史以来初めて賭け事の公認時代になった。

 賭け事には、暴力を背景に賭博の開帳など、賭け事を業とする博徒が存在することが多い。日本の博徒は平安時代に発生し、その後消長はあったが、江戸時代には賭け事の隆盛とともに、演劇、文芸などで紹介されているように、多くの組織化された博徒が輩出した。その後社会情勢の変化に伴い組織の形態や内容は変わったが、今日なお社会的に大きな影響力をもって存在している。

 世界の先進諸国の賭け事の歴史も、ほぼ日本と軌を同じくしているが、19世紀の中ごろから公共のための資金の調達を目的に競馬、ドッグレース、ロッテリー(宝くじ)など、20世紀になってトトカルチョを公認する国が急激に増加した。またイギリスは、1959年に「ギャンブルはコントロールすべきであるが禁ずべきではない」とする王室委員会の答申に基づいて、すべてのギャンブルを解放したが、この考え方は、一部の賭け事を資金調達のためやむをえず公認している現状よりもさらに一歩進めて、賭け事を国民の娯楽の一つとして認めたものであり、世界各国の将来の賭け事のあり方を示唆しているように思われる。

[倉茂貞助]

賭け事の分類

賭け事の種類は多く、いろいろな分類ができるが、使用する用具と賭けの対象によって、(1)さいころを使用するもの、(2)牌(はい)を使用するもの、(3)機械を使用するもの、(4)スポーツの勝敗を対象とするもの、(5)その他のもの、に大別することができる。そのほか刑法では、賭博と区別しているが、くじ(抽選)による賭け事がある。

(1)さいころを使用する賭け事 さいころは、人類がくじに次いで考え出した賭け事の用具だといわれる。さいころを使用する賭け事は世界で日本がもっとも発達していて、1個を使用するちょぼいち、大目小目、2個を使用する丁半(ちょうはん)、四下(しした)、緩急、3個を使用する狐(きつね)、よいど、4個を使用する狢(むじな)、ちいっぱ、5個を使用する天災など二十数種類ある。欧米では3個、5個または10個を使用するダイスが有名である。方法を大別すると、さいころが何個であろうと、個々のさいころの出目がいくつになるか、2個以上のさいころの出目の合計が奇数か偶数か、またはいくつになるか、2個以上のさいころの出目がどうそろうか、のいずれかで勝負を争うようにできている。

(2)牌を使用する賭け事 牌は、くじやさいころに比べてはるかに遅く遊びの用具として考案されたもので、それが賭け事にも使用されるようになった。欧米のトランプ、中国の麻雀(マージャン)、日本の花札は、それぞれ特色があり有名である。遊び方は、麻雀はほぼ統一されているが、トランプと花札にはいろいろな方法がある。また牌を使用する賭け事は、さいころやくじの賭け事に比べてやり方が複雑で、いろいろと牌を組み合わせて勝負を争うところに特色がある。

(3)機械を使用する賭け事 もっとも新しい賭け事で、欧米のルーレット、スロットマシン、日本のパチンコなどが代表的なものであるが、それらは機械を相手に1人で楽しむところに特色がある。また、第二次世界大戦後、遊びの用具としていろいろな機械が考案され、コンピュータを応用した賭け事の用具も出ている。

(4)スポーツの勝負を対象とする賭け事 世界的には競馬、ドッグレースが有名であるが、日本とデンマークには競輪があり、ほかに日本では競艇とオートレースが公認されている。これらのスポーツを対象とする賭け事は、1860年にフランスでトータリゼーター・システムの投票方法が発明されてから急激に発達したもので、そのほかスペイン系の国にはハイアライがある。また、1921年にイギリスで始められたサッカー試合を対象にしたトトカルチョは、もっとも新しい形式のスポーツを対象とする賭け事である。これらは、いずれも公共のための資金を調達する目的で公認されていて、第三者の行うスポーツの勝敗を予想するところに特色がある。

(5)くじによる賭け事 くじは、さいころとともに古くから賭け事の方法として使われている。日本の古くは富籤、現在は宝くじ、欧米のロッテリーが有名で、ビンゴやナンバーズなどの数当てもくじの応用と考えられる。くじによる賭け事は世界中のほとんどの国が公共のための資金の調達を目的に公認している。

(6)その他の賭け事 以上の分類による賭け事のほか、囲碁、将棋、チェス、ビリヤードなどの勝負事、闘牛、闘犬、闘鶏など動物の勝負、そのほか射的(しゃてき)、吹き矢、凧(たこ)揚げ、こま、福引なども賭け事として行われることがある。賭け事が偶然の事情の成否に金品を賭けることであれば、翌日の天気、めくった本のページ数、すれ違う自動車のナンバー、鳥が鳴くかどうかなども賭け事の対象となり、賭け事の種類や手段は数えきれないほどである。

[倉茂貞助]

賭け事の心理と背景

日本をはじめ世界中のほとんどの先進諸国が、過去の歴史のなかで賭け事を禁じようと努力しているが、成功した国はない。むしろ賭け事はますます盛んになるばかりで、イギリスが1959年に結論を出したように、人間社会における賭け事は、コントロールすべきではあるが、禁じることには無理があるように思われる。人間が賭け事を楽しむ心理は、直接には一攫(いっかく)千金を夢みる射幸心によるが、さらに本質的に人間には賭け事を創造し楽しもうとする欲求がある。

 人間には、生産活動つまり生活のほかに娯楽を楽しむ本能がある。人間が娯楽のなかに求めている潜在欲求は、優越感と解放感の満足とされているが、数えきれないほどある娯楽のなかで、もっとも簡単でかつ強く優越感と解放感を満たすことができる娯楽が賭け事といえる。したがって、単調で個性に乏しい日常生活をしている人々が賭け事に深入りしやすい。つまり、日常生活のなかで優越感と解放感を満たす機会が少ない人ほど、その不満を賭け事のなかで満たそうとする。一般的には、社会情勢の変動によって日常生活に不安と焦燥がおこると賭け事が流行する。ただ賭け事はほかの娯楽に比べて中毒症状をおこしやすい特色がある。とくに長時間にわたって反復していると、興奮を冷却する余裕がなく、知性を失い正常な判断を欠く危険がある。

 賭け事の流行は、そのときの社会環境に大きく左右されるが、第二次世界大戦後現在に至るまで、日本ばかりでなく世界中の国でギャンブル・ブームを招いている。そのおもな理由として次のことが考えられる。(1)終戦によって戦時中の緊張から解放され、同時に社会的あるいは経済的な混乱、焦燥、虚脱などの心理的不安がおこったこと。(2)世界的に全体主義が崩れ民主主義が勃興(ぼっこう)し、個人主義の普及とともに、禁欲倫理観に対する反抗から賭け事に対する罪悪感が薄らいだこと。(3)農漁村の解放、女性の解放、生活の機械化、生活様式の変化などによって、レジャー時代の出現が促され、余剰エネルギーが賭け事に振り向けられる結果となったこと。(4)物価の高騰と貨幣価値の低下によってインフレの傾向が強まり、投機とともに賭け事の流行を誘ったこと。(5)賭け事を公認する傾向が強まるとともに、その施設が充実し、同時にマスコミが賭け事に関する報道を多く取り扱うようになり、国民の賭け事に対する興味をそそるようになったこと、などがあげられる。

[倉茂貞助]

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百科事典マイペディア 「賭博」の意味・わかりやすい解説

賭博【とばく】

財物を賭(か)けて勝敗を争う行為。賭博対象は,ダイス(丁半,双六(すごろく)等),カードや牌(パイ)(トランプ,花札,マージャン等),競技やスポーツ(競馬,競輪,トトカルチョ等),くじ,自己の技能(碁,将棋,ビリヤード,射的等),機械(スロットマシン,ルーレット等)と数限りなくある。社会的弊害が大きく各国とも制限するが,逆に専門の遊戯場カジノを設けて観光客を呼び寄せるところもある。日本では刑法に賭博罪が規定されている。→博打(ばくち)
→関連項目暴力団

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世界大百科事典 第2版 「賭博」の意味・わかりやすい解説

とばく【賭博 gamble】

金銭や物品を賭けて勝負をあらそうことで,〈ばくち〉〈かけごと〉ともいう。
【日本】

[古代]
 かけごとの習俗は古くからみられ,《古事記》に秋山之下氷壮夫(あきやまのしたびおとこ)と春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)が伊豆志袁登売(いずしおとめ)をめぐり妻争いをし,衣服をぬぎ山河の産物を備えて,かけごとを行ったとある。遊戯としての賭博の初見は,685年(天武14)9月に天武天皇が大安殿に御して王卿らを呼び行わせた博戯で,御衣,袴,獣皮などを下賜した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賭博」の意味・わかりやすい解説

賭博
とばく

金銭や物品を賭けて勝敗を争うこと。起源は有史以前にさかのぼる。日本では賭け事の偶然性のゆえに,古くは生産を占う年占の一つとしてその方法が利用された。祭礼のときなどに行う綱引きや相撲などの勝負事と相通じるものであった。福引などはもちろん,さいころやかるた,花札などを,金銭や物品を賭けて遊ぶことも,正月や祭礼のときには全国的に普通に行われていた。のちに職業としてのばくち打ちが現れて,刑法に禁止規定が設けられた。

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世界大百科事典内の賭博の言及

【遊び】より

…すなわち言葉のレベルをちがえて生活を楽しむ法である。近代ヨーロッパでjeuというと,トランプなどを使っての賭博遊びを指す。A.デュマ(父)の《三銃士》などを見ても,剣士たちは暇さえあれば手なぐさみをしている。…

【過料】より

…幕府刑法においては,1718年(享保3)以降体系化が進み,過料(3貫文または5貫文),重き過料(10貫文),身上(しんしよう)に応じ過料(財産にしたがって納付額が定められる),小間(こま)に応じ過料(家並みに課し,間口に応じて割り付ける),村高に応じ過料(村に対し,石高に応じて課する)などに整理された。いずれも庶民に対する刑罰として,賭博罪,隠売女(かくしばいじよ)をはじめ各種の犯罪に広く適用され,また過料のうえ戸〆(とじめ)など二重しおきとされることも多い。3日間の納期限を過ぎると手鎖(てじよう)で代えられ,逆に手鎖刑も過料で代替しえた。…

【賽】より

…すごろくや賭博などに用いる道具。現在一般的に使われているのは,立方体の各面に1~6の点を記し,1の裏が6,2の裏が5というように両面の和がいずれも7になるように配したもの。…

【博徒】より

…博奕を専業とする者。中世には博打(ばくち)がいるが,江戸時代には賭博者の集団である博徒が多数生まれた。
[都市博徒]
 江戸時代の初期に賭博常習者として知られているものは旗本,御家人,浪人からなる旗本奴(はたもとやつこ)の一団である。…

※「賭博」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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