中国,清朝の最高政務機関。正式には辦理軍機処という。清初,皇帝を補佐する最高機関としては議政王大臣と内閣があったが,ジュンガル出兵に関する機密の保持のため,1730年(雍正8)に軍需房(のち軍機房,ついで軍需処と改称)が設置された。軍需房は内閣の分局にすぎなかったが,1732年に独立し,正式に軍機処と呼ばれることになった。このように雍正年間の軍機処は北方遊牧民族に対する軍事力行使のために臨時に設けられた小委員会にすぎなかったが,つづく乾隆朝になると内閣の実権を奪い,以来清代を通じて重要政務全般をつかさどる最高機関であった。軍機処の長官を軍機大臣という。軍機大臣は専任の官ではなく,また定員もなく,内閣大学士,六部の尚書・侍郎のなかから特命で任命された若干名が兼務した。皇族は原則として任命されず,満州人と漢人の比率は統計上ほぼ同数であった。軍機大臣の下に軍機章京と呼ばれる書記官が置かれて文書を処理した。軍機章京の定員は満漢各16名で(光緒年間に漢人は20名に増額),やはり他の官庁の中堅役人が兼務した。なお,軍機処には胥吏(しより)がいなかった。軍機処の職務は文武いっさいの重要国務をつかさどることにあったが,おもなものは次のとおりである。(1)毎日,皇帝に進見して諮問に応じること。(2)〈題本〉という,内閣を経由する上奏文を処理し,また〈奏摺〉という,皇帝へ直接届けられる上奏文の処理を補佐すること。特に奏摺は独裁君主制の確立に重要な役割を果たした制度であり,その維持運営にとって軍機処は不可欠な機関であった。(3)〈上諭〉という皇帝の命令を起草すること。(4)重要な人事を扱うこと。なお,清末の官制改革の結果,1911年に責任内閣制が実施されると,軍機処は消滅したが,新官制の最高官職である総協理大臣には軍機大臣が充当された。
執筆者:井上 裕正
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中国、清(しん)代中期以後の最高政治機関。1729年、青海地方のジュンガル征討の際、用兵の迅速と軍機の保持を図るため、紫禁城(しきんじょう)内の皇帝の居所に近い隆宗門の内側に軍需房が設けられた。これはその後、辦理(べんり)軍機処と称するようになり、略して軍機処といった。35年乾隆帝(けんりゅうてい)が即位すると、軍機処を廃し、その事務を総理事務王大臣が兼務したが、37年復活され、清朝滅亡直前の1911年まで存続した。もともと臨時に設けられたものにすぎなかった軍機処は、やがて常設の機関として軍事ばかりでなく重要な一般政務をも扱うようになったので、最高政治機関である内閣の実権はここに移り、議政王大臣は有名無実化した。軍機処には内閣大学士、六部(りくぶ)の尚書、侍郎(じろう)などのなかから選ばれた数名の軍機大臣が出仕して、実質的に宰相の役割を果たし、そのもとで内閣舎人(しゃじん)などのなかから選ばれた軍機章京(ジャンギン)が文書の処理にあたった。
[神田信夫]
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清代の軍事行政上の最高機関。雍正(ようせい)年間(1723~35年)に軍機の処理を目的として臨時に設置され,ついで正式の機関となった。清初は議政王大臣や内閣が行政上の重要機関であったが,軍機処がこれに代わり,軍事・行政両面の実質的な最高機関として重要視されるようになった。数名の軍機大臣が任命され皇帝のもとで枢機に参与したが,清末の1911年に廃止された。
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…具体的にいえば,天子の決裁の下書きをひとつひとつの上奏文に貼付して天子に差し出す,天子はそれを自筆で写して書きこめばよいのである。つまり中央政府は内閣・六部というのが根幹の体制であるが,しかし清朝になると軍機密保持の便宜上,天子の側近にさらに軍機処(参謀本部)が設けられ,これがいつしか恒常的な政務機構となって,内閣の取り扱うべき政務を軍機処が扱うようになり,内閣は有名無実のごとくなったが,旧中国の特徴として,いったん存在しはじめた内閣を廃止してしまうことはしない。このような,誰が考えても任務や権限が重複し,実質的に無用に帰した官庁を廃止しようとせず,いつまでも存しておくのは,例えば2000年前,漢代の九寺という行政最高官庁(法務庁たる大理寺,対属国外務庁たる鴻臚(こうろ)寺など)が六部その他と重複するにもかかわらず,重複したままで,ごく一部分でも職務を分け与えて,歴代綿々として存続せしめられたごとき,今日の常識からは到底理解できない。…
※「軍機処」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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