軍記物語(読み)グンキモノガタリ

デジタル大辞泉 「軍記物語」の意味・読み・例文・類語

ぐんき‐ものがたり【軍記物語】

中世文学で、戦争・合戦を主題として時代の展開を描いた叙事的物語。保元物語平治物語平家物語太平記など。広義には義経記曽我物語なども含む。文体は、多く和漢混交文戦記物語軍記物

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精選版 日本国語大辞典 「軍記物語」の意味・読み・例文・類語

ぐんき‐ものがたり【軍記物語】

  1. 〘 名詞 〙 合戦を主題として、その時代や人物を描いた叙事的な文学作品。主として鎌倉・室町時代に作られた。保元物語、平治物語、平家物語、太平記などをさしていう。戦記物語。軍記物。軍記。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軍記物語」の意味・わかりやすい解説

軍記物語
ぐんきものがたり

日本古典文学のジャンル名の一つ。「軍記」の用語は江戸初期にさかのぼるが、「軍記物語」は明治以後の用語。古くは「合戦状」などとよばれた。その名称が示すように、戦闘を中軸として、激しく動く時代、社会の変化を動乱の進行と並行して、もしくは乱後まもなく記録した作品。作者の体験や見聞、伝承を素材として、全体をいわゆる和漢混交文体をもって説話風に展開する。軍記物語とよばれるわけである。動乱の原因、戦闘、後日談の3部からなるのを基本形とする。動乱を描くのに、その渦中にあって描くあり方と、外からこれを鎮定する者の側から描くあり方とがある。そこから両様の作品が成立するのであるが、前者の、動乱のなかにあって描くものは、動乱の原因を探り、その動乱の中心人物や、その周りの群雄の英雄的な行動から、その悲劇的な結末までを見届け、その経過をたどることに英雄たちの霊魂の救済を意図する。

 そのもっとも古い作品として936年(承平6)に始まる関東の土豪たちの争乱を平将門(たいらのまさかど)を中心に描く『将門記(しょうもんき)』がある。さらに武士の行動を躍動的に、完結した説話として描く『今昔(こんじゃく)物語集』の武士説話を介し、保元(ほうげん)の乱を、これに参加した源為義(ためよし)とその子息為朝(ためとも)らの行動を軸として描く『保元物語』、平治(へいじ)の乱に参加した源義朝(よしとも)とその子息らの悲劇を描いて、後の浄瑠璃(じょうるり)の芽生えをなしながら、源氏再興をも見通す『平治物語』、治承(じしょう)・寿永(じゅえい)の動乱に群雄の行動と平家一門の運命をたどる『平家物語』、正中(しょうちゅう)の変から元弘(げんこう)の変、さらに建武(けんむ)中興以後の武士社会の内訌(ないこう)のなかに、楠木正成(くすのきまさしげ)、新田義貞(にったよしさだ)、足利尊氏(あしかがたかうじ)、同直義(ただよし)らを登場させ、いつ果てるとも知れぬ動乱の行方を執拗(しつよう)に追う『太平記』がある。これらは動乱を主題とするものであるが、このほかに動乱期の個人の運命を描く『義経記(ぎけいき)』や『曽我(そが)物語』がある。これらはいずれもその作者を特定することが困難で、成立と同時に琵琶(びわ)法師や物語僧らにより広く語られたため、複数のテキストを生み出し、語られることを通して、その物語としての構成や劇的性格を濃くした。それに『平家物語』に典型がみられるように、能や、中世舞曲としての幸若(こうわか)舞曲をはじめ、浄瑠璃や歌舞伎(かぶき)などの演劇、中世・近世の、物語・小説にも素材を提供し、古典として生き続けた。こうした意味で国民文学と称せられるにふさわしい。

 軍記物語には、いま一つ、動乱を平定する中央の側からとらえ、その追討軍の大将を賛美しつつ追討の経過を記録するものがある。奥州の安倍(あべ)一族の反乱、前九年の役の、源義家(よしいえ)らによる平定を記録する『陸奥話記(むつわき)』がその古い例であるが、室町期の動乱を描く『応永記(おうえいき)』『嘉吉記(かきつき)』『明徳記(めいとくき)』など、いわゆる室町軍記の大部分がこの追討記で、太閤(たいこう)秀吉の伝記太閤記』は、秀吉の天下平定を記録するとともに、秀吉の栄華を賛美する作品である。これら室町軍記は、その名称「記」が示すように、物語というよりは記録としての性格が濃厚であるが、なかには、動乱、戦闘の経過を記録すること自体に、戦乱に対する慟哭(どうこく)と、戦没者に対する鎮魂の意を込めた『応仁記(おうにんき)』のような作品もある。しかし文学史に名を残す作品は、この記録としての「記」よりは、前の軍記物語であって、いずれも南北朝期よりは前の作品である。室町時代以後も、合戦の記録としての軍記が数多く生み出されたけれども、軍記物語の時代は、群雄の動きをたどるなかに、中世への時代の変化をとらええた南北朝期までの作品をもって終わったとみられる。

[山下宏明]

『永積安明著『軍記物語の世界』(1978・朝日新聞社)』『山下宏明著『軍記物語の方法』(1983・有精堂出版)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軍記物語」の意味・わかりやすい解説

軍記物語
ぐんきものがたり

日本古典文学の一ジャンル。軍記物,戦記物語ともいう。合戦を中心に,ある一時期を描いた叙事文学,歴史文学の一種。語り物として琵琶法師,物語僧によって語られた。平安時代漢文体の『将門記 (しょうもんき) 』『陸奥話記 (むつわき) 』がある。鎌倉時代には『保元物語』『平治物語』『平家物語』 (その異本『源平盛衰記』) がつくられ,次いで承久の乱を扱った『承久記』が書かれ,合せて「四部合戦状」と呼ぶ。南北朝時代末には『太平記』が出たが,のち軍記物語は衰え,安土桃山時代に秀吉の事績を描いた大村由己の『天正記』があるのみ。江戸時代初期の『太閤記』『信長公記』も,その流れとみられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「軍記物語」の解説

軍記物語
ぐんきものがたり

中世に流行した,戦乱を中心素材とする戦記文学
平安朝の漢文体の『将門記』『陸奥話記』に始まり,鎌倉期の『保元物語』『平治物語』『平家物語』『源平盛衰記』,室町期の『太平記』『義経記』『曽我物語』などが代表的作品である。明快・律動的な和漢混交文で,栄枯盛衰の激しかった中世の世態・人情をよく写しとり,広く国民の間に愛好された。多くの作品が,作者・成立年代不詳であることは多数の人びとの共同製作と考えられる。特に『平家物語』は平曲として語られ広く流布した。江戸時代の文学へ大きな影響を与えた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「軍記物語」の解説

軍記物語
ぐんきものがたり

戦(いくさ)物語・戦記物語とも。合戦を主要な題材とし,その背後にある社会と人間,思想を描いた物語。平安時代の「将門記」や「陸奥話記」などにその性格の一端が認められるが,質的には中世初期の「保元物語」「平治物語」をへて「平家物語」で頂点を迎える。中世後期の「太平記」は半世紀にわたる南北朝動乱をみつめた40巻に及ぶ膨大な作品だが,とくにその後半部は戦争のもたらす絶望的な状況を冷徹な目で描写し,「平家物語」とは異なる表現世界を構築した。

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世界大百科事典(旧版)内の軍記物語の言及

【軍記】より

…この武者の登場による動乱を作品の主題とするのが〈軍記〉である。〈軍記物〉〈軍記物語〉〈戦記〉〈戦記物〉〈戦記物語〉とも呼ばれるが,いずれの名称も新しく,明治以後の用語である。現存の作品は,〈記〉〈物語〉の名称を有するが,古くは〈合戦状〉〈戦物語〉などと呼ばれた。…

※「軍記物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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