転炉(読み)てんろ(英語表記)converter

精選版 日本国語大辞典 「転炉」の意味・読み・例文・類語

てん‐ろ【転炉】

〘名〙 前後傾斜しながら回転できるように造った金属精錬用の溶融炉。溶銑(ようせん)・溶鈹(ようひ)を炉に入れて空気を吹き込み、不純物を酸化してそれぞれ鋼・粗銅を製する。コンバーター
※現代経済を考える(1973)〈伊東光晴〉III「鋼をつくるための転炉からは酸化鉄ダスト

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デジタル大辞泉 「転炉」の意味・読み・例文・類語

てん‐ろ【転炉】

製鋼用の炉で、中で精製した金属を、炉体を回転させて取り出すもの。洋ナシ形をし、底部から空気または酸素を吹き込んで精製する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「転炉」の意味・わかりやすい解説

転炉
てんろ
converter

高炉からの溶銑(ようせん)を溶鋼に精錬する製鋼炉銑鉄を鋼に転化convertする炉という意味。また洋ナシ形の炉体は両側で支持されて前後に回転でき、これも転炉という名称と呼応する。

 転炉は1856年イギリスのベッセマーにより発明された酸性底吹転炉に始まり、1879年イギリスのトーマスによる塩基性底吹転炉、第二次世界大戦後の純酸素上吹転炉、酸素底吹転炉、さらに上下吹複合吹錬転炉へと発展を続けている。

[井口泰孝]

ベッセマー転炉

炉体は珪石(けいせき)れんがで内張りされ、上部に炉体中心線より偏心した装入、排滓(はいさい)、出鋼用の炉口をもつ。炉底は空気吹き用羽口(はぐち)をもち交換可能である。炉の容量は1回で精錬できる溶鋼のトン数で示し、30トンに近いものもある。溶銑を装入し、吹き込んだ空気中の酸素により溶銑中のシリコンマンガン、さらに炭素が燃焼し温度が上昇する。約20分間で鋼になるという、燃料を要しない非常に効率のよい製鋼炉である。炉の加熱面が酸性材料で裏張りされているため酸性スラグで精錬する。したがって、溶銑中のリン、硫黄(いおう)を除去できないので、低リン、低硫黄のヘマタイト銑が必要であり、高品位鉱を産するアメリカ、ソ連、北欧で発展したが、現在は用いられていない。

[井口泰孝]

トーマス転炉

形状はベッセマー転炉と変わらないが、耐火物に塩基性ドロマイトを用い、塩基性スラグで精錬するため、脱リン、脱硫が可能である。ただし塩基性であるからシリコンの低い溶銑を必要とし、シリコンの酸化発熱を利用できないため2~2.5%のリンの酸化熱を必要とする。高リン鉄鉱石を産する西欧で発展し、かつてフランス、ベルギー、ルクセンブルクでは製鋼法の主流を占めていた。本法によるリン含有量の高いスラグはトーマスリン肥として肥料になる。

 これら空気底吹転炉では耐火物の種類と発熱源に対応して溶銑成分に制限があり、空気吹きのため窒素による熱損失と同時に、窒素が溶鋼に吸収され、鋼の性質に悪影響を及ぼす。これが、転炉が生産性が高く、省エネルギーの製鋼炉でありながら平炉に圧倒された大きな原因である。このため酸素富化が行われ、窒素の問題は改善されたが、脱リンによる溶鋼中の酸素が高くなる欠点は残った。また酸素富化による羽口溶損の点で富化に限界があった。

[井口泰孝]

純酸素上吹転炉

LD転炉ともいう。炉体の中心線上の炉口よりランスを溶銑直上に降ろし、純酸素ガスを吹き付け吹錬する。炉底は羽口がなく炉腹と一体で、炉腹上部に出鋼孔がある。耐火物は塩基性で、マグネシア、タールドロマイト、マグカーボンれんがが用いられている。酸素上吹きはベッセマーの特許にもみられるが、当時は酸素が高価で実現しなかった。その後リンデ‐フレンケル法により高純度の酸素が安価になり製鋼への利用も可能になった。純酸素上吹転炉法はドイツのデューラーR. Durrerにより1946年スイスで半工業化に成功、その後オーストリアのリンツとドナビッツで工業化された(1953)。LD法という名称はこれらの地名の頭文字によるともいわれている。本法は低窒素鋼が容易に得られ、廃ガスへの熱損失が少なく熱効率が高く、溶銑成分にとくに制約がなく、また30%程度のくず鉄の配合も可能である、など非常に大きな特徴をもつ。そのため第二次世界大戦後の復興期の日本、ヨーロッパで急速に発展した。高リン銑を産するヨーロッパでは、酸素とともに粉状の生石灰を吹き付け脱リンに有効なスラグの生成を促進させるLD‐AC法(OLP‐OCP)、またスラグと金属間の反応を促進させるため炉体を傾斜あるいは横型として回転させるカルドー法、ローター法なども開発された。

[井口泰孝]

純酸素底吹転炉

溶鋼の攪拌(かくはん)が非常によく精錬反応が促進される底吹法では、羽口、炉底耐火物の損耗という問題点があり、純酸素の導入が困難であったが、1965年カナダで炭化水素系ガスを同時に吹き込み、この分解の吸熱冷却を利用する二重管羽口が開発された。この羽口を利用することにより西ドイツで純酸素底吹転炉法(OBM)の工業化に成功した(1968)。アメリカではUSスチール社が開発し、Q‐BOPと名づけた。フランスでは冷却剤に液体燃料を使うLWS法が開発された。底吹きでは、スラグ中の酸化鉄が少なく、鋼の歩留り向上、溶鋼中の酸素の低減という利点があるが、水素の増加という欠点もある。

[井口泰孝]

上下吹複合吹錬転炉

純酸素上底吹転炉、上底吹転炉ともいう。底吹きと上吹きの利点の両方を生かすため開発された転炉で、底吹き羽口の冷却にアルゴンや炭酸ガスを用いる形式のものもある。

 以上の純酸素を用いる製鋼法は塩基性酸素製鋼法(Basic Oxygen Process=BOP)と総称される。転炉の容量で400トンに近いものもあり、廃ガスの回収装置や種々の感知装置を取り付けコンピュータ制御を行うなどし、現在の粗鋼の多くを生産する。また、炉外精錬が盛んになり、転炉の役割が変わりつつある。炉外精錬とは、溶銑を転炉へ装入前に、取鍋(とりべ)やトーピードカーtorpedo car(混銑車)で脱ケイ、脱リン、脱硫などを行ったり、転炉より出鋼後、溶鋼を真空下でさらに脱炭、脱酸、脱窒を行うことである。

[井口泰孝]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「転炉」の意味・わかりやすい解説

転炉
てんろ
converter

製鋼・製銅用の炉。燃料を要せず空気の吹き込みによる炉内反応熱で自溶して溶錬される。いずれも傾注式で,頑丈な鉄製外被に回転軸を取り付け,炉体は水圧または電動で回転する。内張り耐火材は,酸性炉ではケイ石煉瓦,塩基性炉ではドロマイトスタンプ,マグネシア煉瓦である。今日では酸性炉はアメリカ合衆国以外では行なわれない。
(1) 製鋼転炉 ヘンリー・ベッセマーの酸性炉(1856),シドニー・ギルクリスト・トマスの塩基性炉(1877)が最初で,いずれも炉底の羽口から溶銑に空気を吹き込む底吹き式であった(→ベッセマー法)。酸性炉は溶銑中のケイ素,塩基性炉はリンの酸化を自溶熱源とするが,原料銑の規格が厳しく炉況も不良で,あとから登場した平炉法(→平炉)に 1960年代まで製鋼の主流を占められた。製鋼の主流は塩基性純酸素上吹き転炉すなわち LD転炉(→LD転炉法)に移っている。
(2) 製銅転炉 小型の樽型,中型の GF(グレートフォール)型,大型の PS(ピアスミス)型があるが,現行は GF型,PS型である。炉内にマットを装入して吹錬すると,マット中の硫化鉄は酸化されて滓化し,硫化銅も一部酸化されて Cu2Oとなる。この Cu2Oが残る Cu2Sと反応し,Cu2S+2Cu2O=6Cu+SO2により粗銅を得る。転炉滓は銅を 3~5含むので溶鉱炉製錬に返し,排ガスは 8~15の亜硫酸ガスを含むので硫酸原料とする。

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百科事典マイペディア 「転炉」の意味・わかりやすい解説

転炉【てんろ】

銑鉄中の炭素や他の不純物を除去し鋼にする製鋼炉。樽(たる)形またはセイヨウナシ形の炉中に装入した溶銑に,炉底の穴または炉の上部から空気または酸素を吹き込んで,溶銑中の不純物を酸化除去する。その際酸化熱が発生するので熱の補給は不要。1856年英国のベッセマーが酸性耐火物を使った空気による底吹転炉を発明,これは含リン銑の製鋼に不向きなため,1878年トマスが塩基性耐火物に改良した。以後ベッセマー転炉,トーマス転炉は平炉と並ぶ製鋼炉の双璧(そうへき)であったが,第2次大戦後LD転炉が発明され,これに地歩を譲った。なお,銅の転炉は【かわ】(溶錬中に生じる中間生成物)から不純物を酸化除去して粗銅とする製錬用の炉。
→関連項目鋼塊粗銅鉄鋼トーマスリン(燐)肥パドル法

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化学辞典 第2版 「転炉」の解説

転炉
テンロ
converter

本来,不純物の多い粗金属を精錬して純度のよいものに変換(convert)するものを意味するが,炉本体が回転傾動することが可能な炉であることから,転炉と訳されている.工業的には,銅製錬においてはマット(Cu2S-FeS)を粗銅にするのに用いられ,鉄鋼製錬においては銑鉄を鋼にするのに用いられている.後者の転炉製鋼法は,1855年,H. Bessemerの創案による.これは溶融銑鉄中に空気を吹き込み,空気中の酸素によって銑鉄中のCやSiやPなどの不純物を10~20分間で酸化して精錬する方法で,酸性炉材(SiO2分の多い耐火物)を用いた空気の底吹き転炉をベッセマー転炉という.続いて塩基性炉材(MgO主成分)を用いたものがつくられたが,これをトーマス転炉という.近年,広く用いられているのは,純酸素ガスを水冷銅ノズルを用いて上から吹きつけて精錬する転炉で,これをLD法,あるいは上吹き法という.また,純酸素底吹き転炉もある.これは図に示すように,炉底の羽口より酸素ガスを吹き込む方法であるが,溶鉄とのはげしい酸化反応により羽口が溶損するので,羽口を二重にして外側より冷却用のプロパンガスなどを吹き込んでいる.

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世界大百科事典 第2版 「転炉」の意味・わかりやすい解説

てんろ【転炉 converter】

高炉でつくられる溶融状の銑鉄を主原料にし,空気または酸素を吹きつけて鋼をつくる製鋼炉をいう。銑鉄を鋼に転化する炉という意味でコンバーターと呼ばれる。炉体はトラニオン(砲耳)で支えられ,これを軸にしてその周りを360度自由に回転できる構造になっている。炉の構造の特徴をも考慮して転炉と翻訳され,この名称が通用している。転炉の大きさは1回に精錬できる鋼の量で表し,何t転炉などと呼ぶ。 転炉製鋼法は,1856年イギリスのH.ベッセマーが得た特許が発祥で,ほかにトーマス法,LD法,OBM,複合吹錬法などがあって,時代によりそれぞれの役割を果たしてきた。

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世界大百科事典内の転炉の言及

【鉄】より


[製法]
 酸化鉄を含む鉱石はそのまま,褐鉄鉱,リョウ鉄鉱,黄鉄鉱は空気中で加熱して酸化物にしてから,高炉中でコークスを用いて還元して銑鉄をつくる。銑鉄はかなり不純物を含むので平炉,転炉,電気炉などで製錬して鋼とする。純鉄を得ためるには,酸化鉄(III)あるいは水酸化鉄(III)の還元,鉄(II)塩溶液の電解,鉄カルボニルの熱分解等の方法がある。…

【鉄鋼業】より

…展性や延性があるので圧延・鍛造が容易であり,鋳物にすることも可能である。近代鉄鋼業の生産工程は,高炉(溶鉱炉)による銑鉄生産,転炉または平炉による粗鋼生産および各種圧延機械による普通圧延鋼材の3工程を基本としている。3工程を同一工場内において連続作業する企業を銑鋼一貫経営(銑鋼一貫メーカー)という。…

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