近代思想(読み)きんだいしそう

百科事典マイペディア 「近代思想」の意味・わかりやすい解説

近代思想【きんだいしそう】

文芸・思想雑誌。1912年10月―1916年1月。近代思想社発行。編集人は大杉栄荒畑寒村大逆事件によって一層厳しくなった社会主義運動の〈冬の時代〉の堅氷を打ち破るべく創刊。執筆者には上記2人のほか,堺利彦土岐善麿,佐藤緑葉らを常連とし,他に高畠素之相馬御風など。大杉評論荒畑の労働文学の傑作《艦底》などによって注目されたが,労働運動に転じるため1914年9月廃刊。機関誌《月刊平民新聞》を創刊するも,弾圧で続かず,1915年10月《近代思想》復刊。しかし翌年1月4号をもって終刊
→関連項目宮嶋資夫

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改訂新版 世界大百科事典 「近代思想」の意味・わかりやすい解説

近代思想 (きんだいしそう)

大杉栄荒畑寒村によって1912年10月に創刊された思想・文芸誌。月刊。大逆事件後社会主義運動は〈冬の時代〉をむかえ,堺利彦らの社会主義者は売文社に拠ってきびしい弾圧と経済的困窮に耐えつつ〈時機を待つ〉という態度をとるが,大杉らはそれにあきたらず,みずから時機をつくろうと発刊,〈運動史上の暗黒時代に微かながらも公然とあげた声〉(《寒村自伝》)となった。〈近代〉を冠した雑誌名としては日本最初で,名付け親である大杉の〈モダン〉さをいみじくも表していた。大杉は,個人主義的・無政府主義的評論で既成秩序への反抗を呼びかけ,大正アナーキズム思想の始点となる。荒畑らが,文芸評論,詩,小説を書き,労働文学を生む母体ともなった。ほかに山本飼山,荒川義英,安成貞雄らが執筆した。14年9月これまでの活動を〈知的手淫〉として23冊で廃刊,翌月《平民新聞》(月刊)を出すが発禁のため6号で終わり,宮島資夫を加えて15年10月から翌年1月まで再び《近代思想》を刊行した。これには,山川均,渡辺政太郎らも執筆し,よりサンディカリスム,アナーキズムの思想が明確になっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「近代思想」の意味・わかりやすい解説

近代思想
きんだいしそう

近代思想社発行の文芸、思想雑誌。1912年(大正1)10月~14年9月、15年10月~16年1月発行。大逆事件後のいわゆる「冬の時代」に、社会主義者の拠点として、大杉栄(さかえ)が編集兼発行人、荒畑寒村(あらはたかんそん)が印刷人となって発行した。堺利彦(さかいとしひこ)(貝塚渋六(じゅうろく))、高畠素之(たかばたけもとゆき)、土岐善麿(ときぜんまろ)(哀果(あいか))らが執筆し、マックス・スティルナー、クロポトキンウェデキントなどの思想を紹介して、大正中期から昭和にかけての人間観の変革の準備をなした。復刊後は、のちに労働者文学の代表となった宮嶋資夫(みやじますけお)を世に送り出した。雑報欄のエッセイ、文芸時評書評なども、歯に衣(きぬ)きせぬ偶像破壊的な発言で文壇に新しい空気窓を設けようとし、初期『文芸春秋』の編集形態の先蹤(せんしょう)となった。

亀井秀雄

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