天智(てんじ)天皇(称制661、在位668~671)のときに、日本で初めて編纂(へんさん)されたと考えられている令。ただし、律は編纂されなかったと考えられている。近江令の編纂については見解が分かれ、大きくは、(1)『日本書紀』、『続日本紀(しょくにほんぎ)』、『藤氏家伝(とうしかでん)』上(760ころ)、『弘仁格式(こうにんきゃくしき)』序(820)などにより、天智即位元年(668)に令22巻を編纂し、681年(天武天皇10)から更改が行われ、689年(持統天皇3)に班賜されたとの説、(2)天智朝の編纂は認めるが、681年からの編纂は浄御原令(きよみはらりょう)に関するものであるとの説、(3)『藤氏家伝』上、『弘仁格式』序は後代の史料で信ずべきではなく、近江令は存在しなかったとの説、の3説がある。
[石上英一]
『井上光貞他著『律令』(1976・岩波書店)』
日本古代の法典。通説では,天智天皇の命により,668年(天智7)に藤原鎌足らが編纂し,670年ないし671年までに施行された,日本で最初の体系的な法典であるとされ,670年(庚午年)に日本ではじめて全国的に作られた戸籍である庚午年籍(こうごねんじやく)は,この令の規定に基づいて作成されたといわれる。しかしこうした通説に対し,古くは,この令は,681年(天武10)に修訂されて689年(持統3)に施行されたとみる学説もあった。また現在では,672年に勃発した壬申の乱とそれ以後の天武朝,持統朝における律令制の形成過程を重視する立場から,編纂された法典としての近江令は存在しなかったとする新説が有力になりつつある。しかし通説も新説も,決定的な根拠があるわけではなく,7世紀後半の政治過程と日本律令制の形成過程をいかに整合的に理解するかをめぐって,議論が続けられている。
→飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりょう)
執筆者:早川 庄八
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天智朝に藤原鎌足(かまたり)らが編纂し,668年(天智7)に完成したとされる令。律は伴わない。「藤氏家伝」上,「弘仁格式」序などにみえるが,内容は不明。律令制定史において日本最古の令と評価されるが,制定の確実な史料がないため,天智朝での体系的法典制定の条件がないとして近江令の存在を否定する説もある。
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…《日本書紀》に,681年(天武10)編纂に着手し,689年(持統3)に施行されたと伝えるものが,これにあたる。ただしこの《日本書紀》の記事については,古くはこれを,天智天皇が藤原鎌足らに編纂させたといわれる近江令を681年に修訂し,689年に施行したことを示すと解し,飛鳥浄御原令と近江令は同一のものとみる学説があったが,今日では両者を別の令とするのが通説。さらには〈近江令〉は存在しなかったとする学説も有力であり,この立場に立てば,飛鳥浄御原令は日本最初の体系的な法典であったことになる。…
…現実においてはともあれ,たてまえとしては,律令法以外の法は存在しないものとなったのである。 律令法典は,7世紀後半の天智朝に近江令が編纂されたと伝えられているが,この所伝を疑問視する学説も有力なので,その点を考慮すれば,681年(天武10)に編纂に着手し,689年(持統3)に施行された飛鳥浄御原令がそのはじめのものとなるが,同令はまだ未熟なものであった。体系的といいうる律令法典は,701年(大宝1)に制定・施行された大宝律令である。…
…次の斉明・天智朝でも引き続き政権内部にあって補佐し,中大兄と弟の大海人(おおあま)(後の天武天皇)とが不和になると,その仲裁に努めたという。また《大織冠伝》によれば〈律令の刊定〉を命じられて668年(天智7)ころに〈旧章を損益し,略(ほぼ)条例を為〉したといい,後世これを近江令(おうみりよう)と呼んでいるが,実際には完成しなかったようである。翌669年10月,近江の大津京の邸で病が重くなり,その15日には大織冠(後の正一位相当)・内大臣,そして藤原という氏を賜ったが,翌16日に没した。…
…しかし律は日本にはなじみにくく,現実における効力も乏しかったとみられる。(2)令 法典の編纂は,近江令(おうみりよう)(ただし存在しなかったとする学説もある),飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりよう)(689施行),大宝令(701制定・施行),養老令(718ころ編纂,757施行)の4度におよぶ。行政法規ないしは国家機構に関する規定を中心におく令は,社会組織の相違を超えて律よりもはるかに継受しやすいものであったから,法典の編纂も律に先行し,その内容も日本の実情に適合するようかなり改変されている。…
※「近江令」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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