通商関係をもつ国と国との経済関係を円滑にするために結ばれる国際条約のこと。正式には通商航海条約treaty of commerce and navigationと呼ばれる。各国は貿易の働きによって国民経済を強める必要から,相手国と通商条約を結んで相互に貿易を妨害しないように協定する。国家は政治的区域だけでなく,独立した経済区域をもっているので,そこに特殊な利害関係のあることを相互に承認しあい,通商の放縦および障害に対して条約による制限と保護を与え,両国の経済関係を円満にしようとする。したがって,このような関係にない国を無条約国と呼んで高率関税その他の差別待遇をしている。通商条約の内容は,個々の国情などによって違っているが,その中心となるものは,通商・航海の自由および,関税税率の協定の二つである。前者は,一般的な通商上の親善関係を取り決めたもので,両国の国民は,通商・航海の自由,入国・出国・旅行・居住の自由,営業の自由,動産・不動産の取得および処分の自由などを認めることを約するものである。もっとも,これらの自由は,その国の法令の定める範囲内で認められるものである。後者は,条約国が物品の交易を行うとき,その国境を越えて出入りする物品に対し,相互に課する関税についての協定で,1品目につき,その価格または数量の何%を課税するかその税率を取り決める。この税は,おもに輸入品に課する輸入関税であるが,各国はあらかじめ1品目に低い税率と高い税率を定めておいて,条約締約国には低い税率をかけることとする。また,通商条約で個々の品目につきそのつど税率を定めることもある。この協定による税率は,条約の有効期間中は改定が困難であり,国際情勢の変化の激しい現代には適しないので,とくに期間を短くして交渉による改定を容易にするものが多い。条約によって低い税率の関税を相手国に認めた場合,すでに結んでいる条約締結国にもそれと同等の待遇(最恵国待遇)を与えることを約した取決めを最恵国約款(または最恵国条項)という。これは,つねに均等な機会を与えたりあるいは受けたりしようとする近代的国際精神の反映であり,19世紀以後はほとんどすべての2国間通商条約に見られるようになった。
日本も,アメリカ(1953),旧ソビエト連邦(1958),イギリス(1963)など,多くの国と通商条約を結んでいる。
執筆者:岡村 尭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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