道具(読み)ドウグ

デジタル大辞泉 「道具」の意味・読み・例文・類語

どう‐ぐ〔ダウ‐〕【道具】

物を作ったり、何かをしたりするために用いる器具の総称。「大工道具」「家財道具
他の目的のために利用されるもの。また、他人に利用される人。手段。「取引の道具にする」
身体に備わっている種々の部分。
「身体中の―が一時に動作はたらきを止めて」〈藤村破戒
芝居の大道具小道具
武家で、槍その他の武具。
三衣一鉢さんえいっぱつなどの、仏道修行のための必要品。
[用法]道具・器具用具――「道具(器具・用具)は全部そろっている」のように、あることを行うために使用する物の意では相通じて用いられる。◇「道具」は「大工道具」「台所道具」「勉強道具」など、主に日常生活で、多くは手に持って使う物をさす。◇「器具」は家庭電化用品、ガスこんろストーブなど、構造・操作の簡単な機器をさすほか、試験管やビーカーを「実験用の器具」というように、あることを行う種々の道具類についてもいう。◇「用具」は実質的には「道具」「器具」と重なる場合が多いが、用途を限定した場合に用いる。「スキー用具」「運動用具」「筆記用具
[類語](1器具用具調度器材器物工具古道具骨董装具用品家具家財什器備品置物インテリア

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精選版 日本国語大辞典 「道具」の意味・読み・例文・類語

どう‐ぐダウ‥【道具】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏道修行のための三衣一鉢など六物(ろくもつ)、十八物、百一物などといった必要品。また、密教で、修法に必要な法具をいう。仏家の器具。〔御請来目録(806)〕 〔梵網経菩薩戒本疏‐六〕
  3. 物を作ったり仕事をはかどらせたりするために用いる種々の用具。また、日常使う身の回りの品々。調度。
    1. [初出の実例]「ひるつかたになるほどに、道具などとりのけて、皆人人、うちやすめとておりぬ」(出典:讚岐典侍(1108頃)上)
  4. 武家で槍。また、その他の武具。
    1. [初出の実例]「ゆうさいより長原殿へ当麻のやりををくられける時 お道具をしぜんたえまに持せつつおもひやりをぞ奉りける」(出典:狂歌・新撰狂歌集(17C前)下)
  5. 身体にそなわっている種々の部分の称。
    1. [初出の実例]「某は道具も有り合点が行まい。何共合点の行ぬ躰じゃ」(出典:虎寛本狂言・三人片輪(室町末‐近世初))
  6. 能狂言や芝居の大道具・小道具。
    1. [初出の実例]「面、いしゃう、其外の道具も、まへかどにこしらへおくべし」(出典:わらんべ草(1660)一)
  7. 他の目的のために利用されるもの。また、他人に利用される人。
    1. [初出の実例]「もと付合(つけあひ)の道具なるを、珍しとおもへるは、未練なるべし」(出典:俳諧・雑談集(1692)上)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「道具」の意味・わかりやすい解説

道具
どうぐ

道具に限らず、われわれの身の周りにある機械や器具は、人間の器官の働きを外の世界に置き換え、さらにその働きを拡大したり延長したものといえる。たとえばカメラは目の働きを外化し、その映像の記録を保存できるようにしたものであり、コンピュータは大脳の働きを機械に置き換えたものである。ドイツの技術哲学者カップErnst Kapp(1808―1896)は、これを器官射影ということばで表現し、器官射影とは内なる機構の外の世界への置換である、としている。また哲学者ノワレLudwig Noiré(1829―1889)は、道具はある働きを遂行するための手段であり、創造してゆく原理に相応している、と述べている。いいかえれば、道具にしても機械にしても、物をつくりだすために人間の器官の働きを助けるためのものである。

[内田 謙]

道具とは

道具と機械を区別して定義することはむずかしいが、古代から今日に至るまで、この二つを区別して定義づけることが試みられてきた。たとえば紀元前1世紀ころのローマの建築家ウィトルウィウスは、『建築十書』で「……これらのうちにメーカネー(器械)として作動するものとオルガノン(道具)として作動するものとがある。器械と道具の間には次の差異があると思われる。器械は多くの人手と大きな力で効果を発揮するように組み立てられている、……道具は一人の手で慎重に操作することによって企図されている目的を成就(じょうじゅ)する」と述べている。つまり器械とは多くの人力を集中して力が発揮されるものであり、道具は個人の技能が要求されて大きな効果を生み出すとする。多くの人力の集中を必要とした器械は、産業革命を経て機械力、電気力に置き換えられた。19世紀のドイツの工学者ルーローは「機械とはその手段によって機械的な自然力が一定の決定的運動を伴って作業を遂行できるようにつくられた一つの抵抗力を備えた物体の組合せである」と『機械学』のなかで述べているが、アメリカの文明批評家マンフォードは、道具と機械の区別は、それを操作する人の熟練や動力からその操作がどれだけ独立しているかの程度に依存する、つまり道具は手加減と器用さの融通性に依存し、機械は自動作用による機能の専門化によるものである、という。そして、これらの中間に工作機械があり、工作機械は精巧な機械の正確さと熟練した職人の介添えをあわせもっていると述べている。換言すれば、機械とは機能の専門化に重点を置き、道具は融通性を表現したものである。

 道具ということばとともに、しばしば器具ということばが用いられる。日常においても道具と器具はあいまいのまま使われているが、ノワレは、道具、器具、武器の区別について、「道具は能動的であり創造してゆく原理に相応し、器具は受動的で生命の保持に役だつものであり、武器はなによりも破壊的である」としている。つまり、道具は農具や大工道具などのように生産のために用いられるもの、器具は茶碗(ちゃわん)や机・椅子(いす)、ベッドなどのように生命を維持してゆくときに使われるものであり、武器は動物や人間を殺傷するために使われるものである。

[内田 謙]

聖なる具と生活の具

人類の歴史において、人は生き続けるためにまず置かれた環境に適応しなければならなかった。さらにそれを支配するための技術を身につけなければならなかったし、そこから道具もつくられた。

 人類学者のフレーザーは、人類の初期文化を呪術(じゅじゅつ)のなかに位置づけ、理論的呪術を擬科学としての呪術、実際的呪術を擬技術としての呪術であるとしているが、おそらく呪術を通して集合意識に支配されていた原始人は、その生活のなかで呪具を用いていたであろう。そこでは道具は聖なる具として用いられたのである。一方、俗なる生活の必要から道具の製作が始まり、擬技術として存在した呪具は、俗な道具に置き換えられる。

 日本においても、「道具」は仏教のなかで用いられたことばであって、「蓄うる所の物、身を資(たす)け道を進むべき者、即(すなわ)ち是(こ)れ善法を増長するの具」(中阿含(あごん)経)と記されている。つまり道具とは人間の生を助け、人間が仏道に従って生きるための具をいう。いずれも聖なる具であって、これに対して俗なる生活用具には調度ということばが使われた。

[内田 謙]

道具の歴史

人類の道具技術の進化のなかで、道具の製作とその使用にはいくつかの段階がみられる。

 第一の段階は、第三紀鮮新世のアウストラロピテクスとよばれる人類の祖先が、ありあわせの天然石や粗製の石器を道具として使った「曙石器」の時代である。次の段階は、氷河期にあたるほぼ60万~1万2000年前の旧石器時代で、まず偶発的な道具の製作をしたピテカントロプス類またはヒト属の最古の種の前期旧石器時代の夜明けである。続いて、恒常的な道具の製作がみられる前期旧石器時代である。このころになると、北京(ペキン)原人の発掘とともに、人の手が加えられた多くの石器がみつかっており、ホモ・サピエンスの先行者による恒常的な道具の製作のなかに標準化がみられるようになる。たとえば、礫(れき)または板状の石の両側から剥片(はくへん)をはぎとり、鋭い縁をもったとがった舌のような形をした握斧(あくふ)は標準化がみられる最初の道具である。

 さまざまな発展をみせる文化の源泉となった基本的な石器加工の技術は、アフリカからアジアおよびヨーロッパに広がり、アフリカでは石核の握斧が、東アジアでは標準型のチョッパーにみられる石核文化が、そして西アジアとヨーロッパでは剥片文化がそれぞれ発達している。中期旧石器時代から中石器時代には複雑な形をした道具が、引き切る、裂く、削る、磨くなどの技術を取り入れて、動物の骨や角(つの)、象牙(ぞうげ)などでつくられており、また多くの道具が道具をつくるための道具としてつくられた。

 力学的原理を利用した道具(機械)がホモ・サピエンスによって数多くつくられたのが、新石器時代および金属器時代の特徴である。道具の有効な利用のためには、20世紀初頭の道具の研究家ヘーリヒFriedrich Herigのいう、手と道具の接する面Handseiteと物を加工する面Arbeitsseiteが適切でないと十分な効果を発揮することはできないが、すでにこの時代に道具に柄(え)がつけられ、その作用する縁や先端に適切な運動を与えて、加工する対象物に孔をあけたり、削ったりする方法が取り入れられている。てこの原理を利用した槍(やり)投げ器がつくられたのもこの時代である。

[内田 謙]

道具器官としての手と道具

ノワレは、人間の手の発展段階を三つに分けて、(1)運動器官としての手、(2)捕捉器官(ほそくきかん)としての手、および(3)道具器官としての手をあげ、手が道具器官としてその資格をかちえたのは「つかむ」ことの働きによると述べている。

 掌(手のひら)を広げてすべての指をそろえて伸ばした状態にし、小指側で物をたたくとき、手はチョッパーとなり、またその状態で掌側で物を広げたり伸ばしたりするとき、手は篦(へら)の役割をする。示指を1本だけ伸ばして、指先で物の表面にひねる運動をするとき、その指は錐(きり)の働きをする。また掌にくぼみをつくって両手を小指側で接触させると手は器(うつわ)にもなる。このように手は掌の状態を変えたり、指の位置を変化させることによってさまざまの種類の道具や容器になる。また握りこぶしは武器の役割もする。

 取り外しのできる付加物としての武器を含めた道具は、人類の祖先が直立二足歩行を始め、手が自由に使えるようになって初めて登場し、手と歯の機能を補った。つまり人類は、ほかの動物のように鋭い歯も力強い手ももたず、走力にも恵まれなかったために、手を使って石を飛び道具とし、木の棒や動物の長骨を棍棒(こんぼう)として用いた。また獲物の皮をはいだり、肉を断ち切るために、鋭い縁のある天然の石を用いて、手や歯の働きを補い、やがて恒常的な道具の製作に移行していく。

[内田 謙]

手と道具の適応

手加減と器用さにゆだねられてその効力を発揮する道具は、まず手と道具の一体化、つまり道具は手になじむようにつくられる必要がある。古代の岩壁画に描かれている道具と手が一つになっている絵が象徴しているように、道具は人間が使いやすい寸法や筋力などに見合ったものでなければならない。その代表的なものが手と把手(とって)との関係である。把手は、すでに古代の道具につけられ、体験的に手になじむようにつくられてきた。たとえば、日本の物づくりの世界で長い歴史をもつ道具に大工道具があり、道具づくりの上手な大工ほど腕がよいといわれてきた。物を加工する面すなわち、のみや鉋(かんな)などの刃先は、それぞれの加工に見合った刃先角に大工自らの手で研ぎ込まれ、道具と手の接点である鋸(のこぎり)や金槌(かなづち)などの柄は、大工自身の手の握りに適合する形につくられる。大工は自分の道具を他人に貸すことも嫌う。このように厳しい条件のなかで生み出される道具は、道具機能の面からみても優れた効果を発揮する。

 しかし今日のように、機械に限らず道具や製品が大量生産される時代では、道具が個人個人の身体寸法や出力に見合った形で使われるようにすることはむずかしい。手と道具の適応はそうした背景のなかで生まれている。いわゆる人間工学の世界でいうマン・マシン・インターフェースの問題である。これは、機械類に取り付けられている押しボタンやスイッチ、回転ノブ、ハンドルなどの操作具と、人間の手や足の寸法や形態、その出力などがうまく適応しているか否かの問題で、もし適応していない場合には使いにくくなるばかりでなく、誤操作を生じ事故の原因ともなりかねない。そこで人間のさまざまの特性に見合った操作具が必要となってくる。

 つまり、大量生産時代の道具類は、だれが使っても使いやすいように、人間の諸特性に関する多くの資料を集めて、その資料を基にして、その道具や製品を使う対象に見合うように、道具や製品を設計し、生産していくのである。

[内田 謙]

道具の種類

道具は人類の歴史とともに数多くのものがつくられてきたが、その原形は古代ギリシア時代にほぼ出そろっている。19世紀の社会学者エスピナスは、道具ということばが用いられる範囲を示すために、ギリシアの工人たちが使った道具をあげているが、それらは、てこ、くさび、斧(おの)、槌、鋸、錠前、金属の枘(ほぞ)、孔(あな)のあいた肱金(ひじがね)、橈(かい)と帆、舵(かじ)、錐、錘(つ)む・織る道具、犂(すき)、孔をあける道具、ろくろなどである。

 またフランスのプルードンは「人間が仕事をするために使うもっとも基本的な、もっとも一般的な道具、つまりそれらの道具の帰するところは、てこと棒である」と述べ、道具をアルファベットと同じ数に分類することを試みているが、それによると機能別の道具の分類は次のようなものである。

 A―棒あるいはてこ(棒、杭(くい)、支柱など)。B―鉤(かぎ)類、曲がった棒(釣り針、懸け金(かけがね)、鍵(かぎ)、錨(いかり)、枘、銛(もり)など)。C―挟む道具(やっとこ、万力、二つの鉤の組合せなど)。D―縛るもの(糸、綱、鎖、柔らかい木の茎)。E―たたく道具(大槌、棍棒、槌、石臼(いしうす)など)。F―先のとがった道具(槍、投槍、矢、釘(くぎ)など)。G―コイン。H―斧(包丁、刀、剣)。I―鑢(やすり)。J―鋸。K―すくう道具(鋤(すき)、スコップ、スプーン、鏝(こて))。L―股鍬(またぐわ)(櫛(くし)、熊手(くまで)など)。M・N―傾斜。O―ころ(車輪や滑車に回転を与えるもの)。P―管(管、サイホン、排水溝、煙突)。Q―橈と舵。R―弓(ばね)。S―物差し。T―水準器。U―直角定規。V―コンパス。X―下げ振りあるいは振り子。Y―秤(はかり)。Z―円(球および結び目)。

 以上のように道具としてあげられているなかには、今日のあらゆる機械を構成する五つの単一機械、つまりてこ、滑車、車輪と車軸、斜面とくさび、ねじが含まれている。これらの単一機械は古代においては一つの自然原理である「てこの法則」に結び付けられていたものである。

[内田 謙]

『L・ノワレ著、三枝博音訳『道具と人類の発展史に対するその意義』(岩波文庫)』『吉田光邦著『機械』(1974・法政大学出版局)』『『技術の歴史』(『三枝博音著作集10』1973・中央公論社)』『C・シンガー他編、平田寛・八杉龍一訳・編『技術の歴史1』(1978・筑摩書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「道具」の意味・わかりやすい解説

道具 (どうぐ)

人間が特定の目的を実現しようとする場合,媒介として用いる物的な手段をいう。この意味での〈道具〉の語は室町時代以後の日本語で,それ以前や中国の漢語では仏教で用いる器具を指した。たとえば《讃岐典侍日記》では仏具の意味で用いられている。これが一般的な道具を指すようになったのは禅僧によるらしく,狂言には現在の用法が見られる。英語の〈tool〉は大工道具というときの道具にほぼ当たるが,日本語の〈道具〉が家財道具,古道具というように容器類を含んでいるのは,もともと仏具を指していたからであろう。しかし,冒頭に掲げた定義を満たす語として〈tool〉は狭すぎ,日本語の〈道具〉が的確な表現である。英語としては〈implement〉がこれに近い。

 特定の目的を実現しようとする場合,人間以外にも霊長類なども手段を用いるが,この場合〈道具を用いる〉という表現に抵抗を感じるのは,道具が人間によって製作されたものという意味合いをもつからである。したがって道具の製作は人類を特色づけるものの一つである。人類は後肢で立つことができ前肢を手として用いることができたので,道具の使用のみならずその製作が可能になり,大脳の発達とともに道具を発達させていったと見られる。道具は人間の諸能力を補い拡大するために製作されたので,基本的には手の延長である。すなわち,こぶしは硬度,重量,耐熱性その他の面で限界をもっているので,石を材料とするハンマーが製作されて打撃用の道具となり,手のひらをくぼめて物をすくったり入れたりすることの延長として石皿や土器ができたと考えられる。腕は長さの点でも回転の点でも限界があるので,これをこえるものとして棒が用いられ,爪や歯も強度や大きさや鋭さに限界があるので,その延長として刃物ができた。したがって全体としては手の延長に限らないのであって,足の延長としてそりや車ができ,時代は下るが目の延長として眼鏡や望遠鏡ができ,発声のための口の延長として拡声器ができたのである。ただし,道具は人間の器官の単なる延長ではなく,あくまでも働きの対象化であるから必ずしも器官に似ていない。釣針,もり,網,弓などの漁具・狩猟具や,車,はさみ,綱などは働きが重視されていたことをよく示している。

 材料として最も手近にあったのは木石その他の自然物であるが,やがて加工しやすい材料にするための技術が発達して,道具は石器や木器から土器,金属器へと移行した。さらに表面処理も行うようになって陶磁器や漆器も出現した。材料の加工に貢献したのは火の利用で,野獣からの防御や食料の加工保存だけでなく,焼成や精錬を通じて道具の発達(多様化,性能と信頼性の向上)をもたらしたのであった。最近は化学技術の進歩によってプラスチック材料やシリコン系材料が道具の材料として用いられることが多くなった。

 道具を利器(刃物)の部分だけ見ては一面的であり,容器の面からも見なければならないが,道具発達のうえで一大革新をなしたのは情報伝達のための道具の発明である。それは粘土板,パピルス,羊皮紙,紙など,およびペン,筆,インキなど筆記用具の発明であり,物指,天秤,ノーモン(日時計)など計測器具の発明である。これらの道具は人間の文明を飛躍的に向上させただけでなく,道具そのものの発達と道具の使用技術の高度化をもたらした。また宗教的儀式は,超越者ないし意志をもつと考えられた自然との対話の技術であったから,広義の情報伝達のための道具として種々の祭具があった。その多くは生産・生活の道具を象徴化したものであるが,精巧なものや美しいものが多く,技術の発達に貢献した。日本語の〈道具〉も元来は仏具であったことは先に見た。同様に装飾品もその始めは呪術的意味を担っていたので,この意味での祭具に属し独特の発達をとげた。

 他方,生産のための道具は,動力の伝達と制御を効率よくするために握る部分(動力が与えられる部分)と,作用する部分(作業をする部分)とが分化して伝動装置が間に入ることにより機械となった。ここ200年ほどの間に機械は急速に発達したが,かといって道具がなくなってしまったわけではない。道具も機械も,一般的にすべて,ある段階にまで発達すると新しいものにとって代わられるが,消滅してしまうわけではなくて,最適範囲の中で生きのびる。生きのびるだけではなく,信頼性を増し,デザインが重視されて美的な存在になっていくのである。衣装や建築その他においてすでにこの段階に達しているが,道具もこうして安定期に達すると美術品としての価値をもつものが製作されるようになる。刀剣,陶磁器はいうまでもなく,青銅器や鉄器,文房具,最近は大工道具や包丁に至るまで美術的価値をもったものが見られるし,そのようなものとして製作されることもある。日本をはじめ世界各地の道具屋が美術商を兼ねることが多いのはそのためである。

 機械が発達すると,機械作業の補助をなす道具も発達する。〈工具〉と呼ばれているものがそれで,工作機械用の刃物(切削工具)や砥石(といし)(研削工具)が代表的なものであるが,機械以前の諸道具が鍛造や仕上げに用いられているほか,測定器具や治具も工具として扱われている。この意味での道具は今後機械が限りなく発達しても必要でかつ出現し続けるであろうが,他方で機械が日常化した結果,道具化しつつあるものも少なくなく,電動木工用具や家庭電化器具は(家財)道具となっているし,計算機も現在道具化しつつあり,20世紀の後半の現在,道具と機械の区別は厳密でなくなりつつある。道具の機械化と機械の日常化が進んだからである。
機械 →木工具
執筆者:

動物が体以外の物体を体の一部のように操作・使用して目的を達成することを,道具使用という。たとえばガラパゴス諸島生息のダーウィンフィンチはサボテンのとげをくちばしでくわえて,枯木内の小孔から餌となる虫をつつき出す。また東アフリカの草原に生息するエジプトハゲワシは小石をくちばしでくわえて空中に舞い上がり,これを落としてダチョウの卵を割って中身を得る。これらの例では道具を使わなければ得られなかった食物の獲得に成功しているが,いずれも遺伝的に受け継いだ生得的な行動様式である。しかし,個体群または集団内の個体に共有され,世代を通じて伝承されていく後天的に獲得された行動様式としての道具使用行動は動物界には多くない。このような例として,チンパンジーがシロアリやアリを細棒で釣り上げる行動,堅果を石で叩いて割る行動,木の洞にたまった水の中に丸めた葉を浸し,これを引き出しては繰り返ししゃぶる行動,あるいは手の届かないところにある木や実を引き寄せるのに,手にした棒や枝を使う行動がある。強敵に対して棒を打ち振り,ほうり投げる武器使用行動もいれられよう。もう一歩進んで,目的に合わせて自然物を加工した道具(道具製作)はシロアリ釣りのための細棒以外にはほとんど存在せず,長期間反復使用される道具(永続使用)は堅果割りの石器以外にない。これらの道具の使用・製作には高度な技術が必要になる。ところで,動物の道具使用行動からヒトのそれを分ける決定的な差は,道具をつくるために別の道具を使う,すなわち工具が動物界には生じていないことである。したがって,どんなに高度な使用・製作技術を要しようとも,動物の道具は第一次道具のレベルをこえない単純なものである。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道具」の意味・わかりやすい解説

道具
どうぐ

狭義には,人類の手の補助手段として用い,人力によって動かす加工用器具をいう。人類は道具なしには生存することがもはや不可能であるが,道具の起源については不明な点が多い。「道具を使用する」のは人類だけでなく,野生のサルや,ラッコ,ハゲタカなど,多くの動物においても,それが観察されている。「道具をつくる動物」もやはり人類だけでなく,実験室のチンパンジーについて証明されており,ごく原始的ながら野生のチンパンジーについても観察されている。しかし「道具をつくる道具」すなわち工具を製作,使用する動物は人類に限られる。石器,骨歯角器はそれに相当するもので,最も原始的な原人段階でも,粗製ながら石器を使用したことがわかっている。

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普及版 字通 「道具」の読み・字形・画数・意味

【道具】どうぐ

器具。

字通「道」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の道具の言及

【骨董】より

…明代の文人董其昌の《骨董十三説》に,骨董と呼ぶべきものとして金,玉,書画墨跡,石印,鐫刻(せんこく),窯器,漆器,琴,剣,鏡,硯(すずり)などがあげられており,日本で用いられてきた骨董の語もおおよそこの意味に沿いながら,日本的に変容されたものというべきであろう。 江戸時代には今日いう美術品の主流は茶道具(茶器)であり,一般にはもう少し雑多なものを含めて〈道具〉と呼ばれた。江戸時代後期から明治にかけて中国明・清の文人画や煎茶,また文人趣味が流行し,明治に入ってのち中国の古書,古碑の拓本などの史料や金属,石,玉等で作られた器物,彫刻などを愛玩する古玩趣味が生まれて,骨董の語が広く用いられ,道具と呼ばれていたものをも包含するようになった。…

【機械】より

…この意味での器は〈うつわ〉で,たとえば《荀子》に出てくる〈器械〉の〈器〉は鎧(よろい)・冑(かぶと)で〈械〉は矛・弓などである。もとは楽器や武器であったにせよ,この文字はやがて役に立つ道具という意味で用いられるようになり,幕末にオランダ語のmachineを訳すときも〈器械〉や〈器〉の語が用いられた。 オランダ語や英語のmachineはもとギリシア語のメカネmēchanēからできた語である。…

【縄文文化】より

…しかし,土器の製作と使用は,それまでの旧石器文化から縄文文化への発展を促す重要な契機となったのである。つまり土器製作は既存の複数の技術要素,すなわち(1)粘土を用いること,(2)容器の形に成形すること,(3)粘土を加熱して水に溶けない物質に変えること,などを組み合わせた総合によってまったく新しい道具を作り出したという意味において,日本歴史上の最初の技術革新として評価される。また土器の製作・使用にまつわる情報の拡大および使用の効果は,社会的・文化的革新の意義をもたらしたのである。…

※「道具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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