デジタル大辞泉 「道理」の意味・読み・例文・類語
どう‐り〔ダウ‐〕【道理】
1 物事の正しいすじみち。また、人として行うべき正しい道。ことわり。「
2 すじが通っていること。正論であること。また、そのさま。「言われてみれば
[類語]
現代では、物事の正しい筋道・論理・必然性等を広く指すが、古くは、④のように種々の物事についての個別的な筋道・正当性・論拠などの意でも用いられ、特に政治・法律に関わる分野に用例が多い。
ものごとの筋道,正当な理念などという意味で古代から現代に至るまで日常的に用いられる語だが,とくに中世では一種の法的,思想的な意味をもつ流行語としてさかんに用いられた。もっとも有名なのは北条泰時のいわゆる〈道理好み〉であって,《御成敗式目》立法の基本理念を〈たた道理のおすところ〉と表現し,また,みずから主宰する法廷での当事者の主張に〈あら道理や〉と感歎するなどの逸話が知られている。泰時にかぎらず,中世の裁判で自己の主張もしくは判決の正当性を理由づけるために用いられた道理は,法的なもの,慣習的なもの,道徳的なもの,さらにより高次な正義・衡平観念であって,場合によっては法規範や道徳規範と矛盾する道理もありえたし,その時点,その場面にしか通用しえない心理的・感性的な道理も存在した。したがって道理は著しく客観性を欠き,その極端な例は興福寺(山階(やましな)寺)が力によって無理非道を押し通すことをさした〈やましなどうり(山階道理)〉なる表現であろう。一般に裁判に勝つことは道理が認められたことを意味したため,道理は勝訴の同義語としても用いられた。いま一つ有名な道理は《愚管抄》における道理であって,著者慈円は歴史の推移を道理の移り変りとしてとらえようとし,この書に〈道理物語〉の異名が生まれたほど,道理を頻用した。ここでも道理は,個別的な道徳,筋道,因果のほかに社会通念的なものなどを含めきわめて多義的であり,しかもすべての道理は移り変わるものとして相対化されている。
総じて中世的道理の最大の特徴は,あらゆる次元の事象にそれぞれの道理が存在しうる点であって,しかもごく身近な問題に内在する道理も,国政にかかわるような道理も,道理自体としては優劣上下の関係はもたなかった。このような現象は,たとえば中世の〈法〉にみられる特質と相似する部分が大きいと考えられる。
執筆者:笠松 宏至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
日本中世,ことに武士社会の規範意識を律した中核的な観念。ひとことでいえば正しさであり,「道理にかなう」ことがみずからの主張の正しさを根拠づけ,対社会的な説得力をもたせる方便として機能した。具体的な内容をともなった規範ではなく,個々の主張を道理に結びつける実体的な基準があったわけではないが,なにが道理にかなうかについてはある程度の社会的な了解があったことも事実である。そうした了解の存在が,実体法規範の欠如した中世,ことに中世前期の武士社会では社会的な合意形成の基盤として,また萌芽的な法形成の基盤として機能した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…また,文章やことばの〈意味〉という使われ方もあった。中世末期の《日葡辞書》には,すでに,〈良い道理〉とともに〈礼儀正しさ,律義さ〉という意味があげられているが,この言葉が,対人関係上,守り実践しなければならない道義をさすものとして特に重んじられるようになるのは,近世社会においてである。近世初めの儒者林羅山は,〈人ノ心ノ公平正大ニシテ,毛ノサキホドモ人欲ノ私ヲマジヘズシテ,義理ヲ義トスルハ,義ゾ〉(《春鑑抄》)といい,〈義理〉を儒教の〈義〉と結びつけ,世俗的な人間関係における絶対的な道義とした。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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