過去の人間活動の所産で,動産的性格を有し,現在では本来の機能をはたしていないものをいう。遺物は通常地下に埋没しており,発掘によって遺跡から検出されるものが多い。しかし,地上で伝世されたものもある。正倉院宝物は伝世された奈良時代の重要な遺物の一群である。遺物は多く人間が自然物を加工し,あるいはそれを素材にして製作したものだが,食物残滓や運搬交易等によって遠くからもたらされた動植物や鉱物など,人間活動の所産であっても,人間による加工品・製作品とはいいがたい自然の産物も含まれる。あるいは,遺跡出土の動植物の遺体の類には,落葉や枯枝,昆虫の遺体など,人間活動が直接関与していないものも多く,それを人工遺物に対して,自然遺物とよぶこともある。この場合,遺物とは〈運搬可能な程度の大きさの出土品〉というほどの意味になる。
遺物は材質によって,動植物など有機物からなるものと無機物からなるものとにわけることができる。有機物からなるものは遺跡では腐朽して残存しないのが通常だが,地下水のなかのような特殊な埋没条件や,砂漠や極寒の地など特殊な気候条件下では残存することがある。それが遺物として残存するかどうかは,水神に供献するため水中に投じたといった特殊な事例以外では,人間の意図はほとんど介入していない。無機物を材料としたものでは,石器や土器のように材料の入手が比較的容易なものは,破損等使用不能になった後捨てられ,それがほぼすべて遺物として残存するのが通例だが,金属製品の場合では,銅や鉄など,材料そのものが貴重でかつ再加工可能であり,使用不能になっても捨てられず,原料として再利用され,新しいものに作りかえられる。したがって,遺物となって残存する可能性は低い。金属製の遺物が残存しているのは,小型で偶然見落とされた場合以外は,墳墓に副葬されるか,地中に特別に埋納されたものであることが多い。したがって,金属製品を副葬あるいは埋納する習俗を欠く社会では,原則的に製品が遺物として残存しないことになる。逆にいえば,金属使用開始以後の時代では,金属製の遺物を欠如していることはそれを副葬したり埋納する習俗がなかったことをしめすが,かつてその社会にその金属製品が存在しなかったことを直接証明するものとはならない。たとえば,いわゆる銅鐸文化圏は正確には銅鐸を地中に埋納する習俗の分布圏のことであって,この習俗分布圏以外では銅鐸を埋納する習俗がなかったことは確かであっても,これだけで銅鐸そのものがこの分布圏外に存在しなかったとは断定できないのである。遺物として残存したものの有無あるいは量的な差異をとりあげ,過去の社会におけるその種の製品の有無あるいは量的差異に単純に結びつけるのには慎重であらねばならない。
金属製の遺物はもちろん,一般に遺物はその出土遺跡と出土状況の判明することがきわめて重要である。工事中などに偶然発見され,埋没状況の判明しなかった遺物とくらべて,研究者による発掘調査によって検出された遺物のもたらす情報量ははるかに大きい。また,同時に埋没されたと推定できる状況で発見された複数からなる遺物は一括遺物とよばれ,考古学ではとくに重視される。1体の埋葬に伴う副葬品,竪穴式住居の床面から発見された遺物群,短期間に埋められたごみ捨て穴からの出土品など,これらが一括遺物である。いくつかの一括遺物において,ある種の遺物が別種の遺物とともに発見される事例がくりかえされると,両者は同時期に製作使用されていた可能性が高くなり,同時代の遺物とみなすことができるようになる。また,副葬品などの一括遺物における遺物の組合せが文化によって独自の特色をもつことがあり,それによって文化の特色や分布領域などを推定する重要な手がかりが得られることも多い。
→考古学
執筆者:田中 琢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
過去の人間の残した物的資料、または人間の活動を表す物的資料であって、その存在している場所を移しても、本来のそれ自体の価値を失わないものを遺物とよぶ。したがって、古墳の石室や窯跡(かまあと)などのような移築が可能なものでも、動かすことによって著しくその価値を損なうものは遺物とはいえない。遺物は、石器、土器、木器、金属器など材質による分類と、飲食器、武器、祭器、農工具など用途による分類、あるいは容器、利器などその機能による分類が行われている。また遺物には、直接人間の手になるものだけでなく、当時の環境を知る手だてとなる植物・動物遺体、および人間の排泄(はいせつ)物、そして人間の遺骸(いがい)自体もこれに含まれる。
[植山 茂]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
過去に人類(集団)がかかわって残した「モノ」の総称。考古学研究に欠かせない基礎資料。広い意味では遺構をも含むが,一般的には建造物や構造物のように固定されたものを除く動産的な「モノ」をさすことが多い。大別して人工遺物と自然遺物がある。人工遺物は各種の器物・道具など加工されたもので,材質によって土器・石器・木器・金属器・骨角器などに分類される。自然遺物は動植物や昆虫・魚介類などの遺存体をいう。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…現在,日本では26万4000ヵ所の遺跡が保護の対象として登録されているが,そのうちほぼ半分近くが地上に顕在している遺跡である。 遺跡は不動産的性格をもつ遺構と動産的な遺物から構成されている。また,遺構と遺物が一定の空間的関係を維持している状況を遺跡とする考えもある。…
…考古学のもう一つの萌芽はヨーロッパ先史時代の研究である。1820年ころ,C.J.トムセンはコペンハーゲンの国立博物館の収集品を,石器時代,青銅器時代,鉄器時代という三時期区分法によって分類展示し,混沌としていた先史遺物の理解に初めて一つの秩序を与えた。これ以後,先史考古学は自然科学から多くのヒントを得ながら自己の方法を形成してゆく。…
… これらと性質を異にする文化財に埋蔵文化財がある。文化財の性質による種類ではなく,埋蔵文化財とは,地下,水底,海底(領海内に限る)その他,土地の上下を問わず人目に触れない状態において所在している遺跡,さらにそこから発掘によって出土した遺物の両様の意味に用いる。遺跡のうち,全国で国および地方の台帳に登録されたものを〈周知の遺跡〉と呼び,遺跡分布図,地名表などが公刊されて周知徹底が図られている。…
…それには,河川,湖沼,海などの水中にあるもの,あるいは地表面に露呈しているものも含まれる。1950年に施行された文化財保護法にみえる概念で,考古学でいう遺構と遺物をほぼ指しているとみてよい。その所在地は埋蔵文化財包蔵地と呼ばれ,おおよそ考古学の遺跡に相当する。…
※「遺物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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