都賀庭鐘(読み)ツガテイショウ

デジタル大辞泉 「都賀庭鐘」の意味・読み・例文・類語

つが‐ていしょう【都賀庭鐘】

[1718ころ~1794ころ]江戸中期の読本よみほん作者・儒医。大坂の人。上田秋成の師。号、近路行者きんろぎょうじゃなど。中国の白話小説を翻案して初期読本の先駆をなした。作「英草紙はなぶさそうし」「繁野話しげしげやわ」「莠句冊ひつじぐさ」など。

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精選版 日本国語大辞典 「都賀庭鐘」の意味・読み・例文・類語

つが‐ていしょう【都賀庭鐘】

  1. 江戸中期、大坂の儒医・読本作者。字は公声、通称は六蔵、号は巣庵。中国の白話文学に造詣深く、二〇代に中国白話小説を翻案した「英草紙(はなぶさそうし)」その他の作品を書き、初期読本の先駆をなして、知識的で思想性の濃い作風を発揮した。上田秋成以下、のちの読本作者への影響も大きい。安永九年(一七八〇)に日本で初めて「康熙字典」を刊行し、唐本の引用文の誤りの補正を付した。篆刻・投壺など文人趣味の著作もある。他に「繁野話(しげしげやわ)」「莠句冊(ひつじぐさ)」など。享保三年(一七一八)生まれ。寛政~文化頃没。

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改訂新版 世界大百科事典 「都賀庭鐘」の意味・わかりやすい解説

都賀庭鐘 (つがていしょう)
生没年:1718ころ-94?(享保3ころ-寛政6?)

江戸中期の読本作者,儒者,医者,書家。通称六蔵,字は公声,号は近路行者(きんろぎようじや),大江漁人,辛夷館。大坂に生まれ,10代の終りから医学を京都の古医方の大家香川修庵に学んだ。当時流行の中国白話小説に親しむようになる。大坂へ帰り20代後半に医者となり,多くの門下生を養成した。儒者・文学者としての活動を始めた彼は,前々から構想をめぐらしていたものを基礎にして,まず前編として1749年に,《古今奇談・英草紙(はなぶさそうし)》を出した。これは中国白話小説や《剪灯(せんとう)新話》などから材を取り,日本風な構成にしており,彼の学識がいたるところに見られる。今日この作品を読本(よみほん)の元祖とみなしている。66年に後編として《古今奇談・繁野話(しげしげやわ)》を出し,同様に中国白話小説を利用し,さらに晩年に続編として《古今奇談・莠句冊(ひつじぐさ)》を刊行し,初期読本の名作3編を残した。これらの作品は,上田秋成や建部綾足(たけべあやたり),山東京伝など,後の読本作者に創作方法の上で大きな影響を与えている。大坂天満に住し,儒医としての庭鐘は博学で有名であり,木村蒹葭堂や,香道の大枝流芳らとよく交わり,秋成の学問の師のみならず,医学の師とも考えられている。その他の著書に《通俗医王耆婆(ぎば)伝》《狂詩選》などがあり,中国の《康煕字典》の翻刻校刊もある。なお,浄瑠璃《呉服文服・時代三国志(くれはあやはじだいさんごくし)》を庭鐘の作品とみる説も出ている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「都賀庭鐘」の意味・わかりやすい解説

都賀庭鐘
つがていしょう
(1718―94ころ)

江戸中期の小説家。通称は六蔵、庭鐘は名、字(あざな)は公声。十千閣、近路行者(きんろぎょうじゃ)、千里浪子、大江漁人、巣庵(そうあん)、辛夷館(しんいかん)、巣居、毛野村丹三郎、渡頭一舟子などの号をもつ。大坂の人。書と篆刻(てんこく)を新興蒙所(におうもうしょ)に、医を古医方の大家香川修庵に学び、また茶道家で香道の古法を興した大枝流芳と交わる。漢学は京都の徂徠(そらい)学派の者に学んだらしい。とくに当時流行の中国白話(はくわ)文学を愛好し、それを翻案して『英草紙(はなぶさそうし)』(1749刊)、『繁野話(しげしげやわ)』(1766刊)、『莠句冊(ひつじぐさ)』(1786刊)の三部の小説を著したが、これが読本(よみほん)の嚆矢(こうし)であって、読本史に占める位置は大きい。大坂・天満で医を開業し、その知識に基づいて『通俗医王耆婆(ぎば)伝』(1763刊)を著したが、かたわら篆刻の書『全唐名譜』(1741刊)、『漢季章譜』(1791刊)を著し、投壺(とうこ)、本草など広く中国の学芸を渉猟し、中国戯曲の知識に基づく『四鳴蝉(しめいぜん)』(1771刊)もある。なかでもっとも有意義の著作は『康煕(こうき)字典』を1778年(安永7)に校刊したもの。その博学と上田秋成(あきなり)に中国小説を指導した見識とは、当時の大坂の第一流の人物としてよい。

[徳田 武]


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朝日日本歴史人物事典 「都賀庭鐘」の解説

都賀庭鐘

没年:没年不詳(没年不詳)
生年:享保3(1718)
江戸時代の読本作者。字は公声,六蔵と称する。また近路行者,千里浪子,大江漁人,辛夷館などを号する。大坂で生まれたのち,京都に出て,享保(1716~36)の末ごろ,書を新興蒙所に,医学を香川修庵に学んだ。当時の京都は中国白話文学が大流行しており,庭鐘もそれらを多読していたことが,彼の読書ノートから知られる。元文から延享(1736~48)のころにはすでに,のちの「読本三部作」の粗稿となる白話文学の翻案小説を書いていたらしい。寛延2(1749)年,『英草紙』を出版。構成,文体,歴史観など,あらゆる面においてこれまでの小説とは一線を画し,「読本」の始祖とされる。ほかには『繁野話』(1766),『莠句冊』(1786)などがある。安永(1772~81)初めごろには,火災のあと職を求めていた上田秋成が,庭鐘について医学を学んだ。また安永9年,『康煕字典』を校訂し,出版。唐本の引用文の誤りを900点指摘するが,そこに庭鐘の研鑽ぶりが窺える。文化3(1806)年刊『義経磐石伝』の時点ではすでに没していたとされている。庭鐘は「太平逸民」の印を用いているが,そこには市井の隠者として生きる,彼の文人意識をみることができる。<参考文献>中村幸彦「都賀庭鐘伝攷」(『中村幸彦著述集』11巻)

(樫澤葉子)

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百科事典マイペディア 「都賀庭鐘」の意味・わかりやすい解説

都賀庭鐘【つがていしょう】

江戸中期の読本(よみほん)作者,儒医。号は近路行者(きんろぎょうじゃ),大江漁人など。大坂の人。中国小説の翻訳や和漢混淆(こんこう)文の翻案小説に長じる。風刺・批判の精神をもち,白話小説翻案流行の先鞭をつける。その著《古今奇談 英(はなぶさ)草紙》は読本の元祖とされる。他に《繁(しげしげ)野話》《莠句冊(ひつじぐさ)》《垣根草》等がある。建部綾足上田秋成に大きな影響を与えた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「都賀庭鐘」の意味・わかりやすい解説

都賀庭鐘
つがていしょう

[生]享保3(1718)頃.大坂
[没]寛政6(1794)頃.大坂
江戸時代中期の文人,読本作者。号,近路行者 (きんろぎょうじゃ) ,千里浪子,大江漁人など。若いときから香,茶,書また医を学んだ。医を業とする一方,儒者としても立ち,唐音 (とうおん) を学んで中国白話小説を読み,その影響で小説を書いた。初作の寛延2 (1749) 年の『英草紙 (はなぶさぞうし) 』,明和3 (1766) 年の『繁野話 (しげしげやわ) 』,天明6 (1786) 年の『莠句冊 (ひつじぐさ) 』はともに「古今奇談」の角書をもち,3部作をなす。これらはいずれも白話小説の翻案で,のちの伝奇的な読本に先鞭をつけた点で高く評価される。また『康煕字典』を翻刻した。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「都賀庭鐘」の解説

都賀庭鐘 つが-ていしょう

1718-? 江戸時代中期の医師,漢学者,読み本作者。
享保(きょうほう)3年生まれ。大坂の人。新興蒙所(にいおき-もうしょ)に書と篆刻(てんこく)を,香川修庵に医学をまなぶ。当時流行した中国の白話文学を翻案して「英草紙(はなぶさぞうし)」「繁野話(しげしげやわ)」「莠句冊(ひつじぐさ)」の三部作をかき,読み本の祖とされる。安永9年「康煕(こうき)字典」を校訂して出版した。字(あざな)は公声。通称は六蔵。号は大江漁人,近路行者など。

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世界大百科事典(旧版)内の都賀庭鐘の言及

【上田秋成】より

…このころ,秋成は2人の知識人と出会い,それが決定的な人生の転機ともなった。ひとりは,大番与力を職とする国学者加藤美樹(宇万伎)(うまき)であり,もうひとりは大坂天満の医師,白話小説家都賀庭鐘(つがていしよう)である。前者から,日本の古典の美しさとその学問を,後者から,中国白話小説の斬新なおもしろさを教えられ,彼は大きく文学的に触発された。…

【繁野話】より

…読本。近路行者(きんろぎようじや)(本名都賀(つが)庭鐘)の2番目の作品。1766年(明和3)刊。5巻に9編の短編を収めている。題簽(だいせん)などに《古今奇談英草紙後編繁野話》とあり,16年前の《英(はなぶさ)草紙》の後編として刊行された。《英草紙》と同様に中国の資料を利用し,《任氏伝》や《白猿伝》,さらに《古今小説》や《今古奇観》などの白話小説を翻案している。また,日本の文献として,《日本書紀》や《太平記》,謡曲《唐船(とうせん)》,中世の野史《浪合記(なみあいき)》なども利用されていて,前作同様和漢の文献が使用されている。…

※「都賀庭鐘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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