金属マグネシウム粉末を空気中で燃やすとマグネシウムMgは酸化されて酸化マグネシウムMgOになる。また金属マグネシウムに点火して塩素中に入れると,マグネシウムは激しく燃えて塩化マグネシウムMgCl2になる。これらの酸化反応でマグネシウム原子は酸素原子,あるいは塩素原子に電子を与えてⅡ価の陽イオンMg2⁺になり,一方,酸素あるいは塩素は電子を得ている。このようにイオン結合からなる物質が反応に関与している場合には,酸化還元と電子の授受との関係がはっきりわかるが,のように,共有結合からなる物質の反応では電子の授受がはっきりしない。そこですべての酸化還元反応における原子の電子配位数の変化を明らかにするために,つぎのように酸化数なるものを定義する。(1)単体の中の原子の酸化数を0とする。(2)化合物中の成分原子の酸化数の総和は0である。(3)化合物中に水素Hがあるとき,その酸化数をⅠとする。ただし,水素化リチウムLiHのような金属水素化物のときは-Ⅰである。また,化合物中の酸素Oの酸化数は通常-Ⅱである。ただし,過酸化物の場合には-Ⅰであり,フッ化酸素OF2の場合にはⅡという例外もある。(4)単原子イオンの原子の酸化数はそのイオンの価数に等しい。多原子イオンの中の成分原子の酸化数の総和は,そのイオンの価数に等しい。たとえば,NH4⁺では(-Ⅲ)+(Ⅰ)×4=Ⅰである。(5)共有結合でできている構造のわかった化合物中に含まれる各原子の酸化数は,結合にあずかる2個の原子のうち電気陰性度の大きいほうの原子にその共有電子対を全部属させ,そのとき各原子に残る電荷の数を酸化数とする。同じ原子の結合の場合には共有電子対を等分する。フッ素Fは電気陰性度が最も大きく,酸化数はつねに-Ⅰである。いくつかの例をあげると,マンガンMnの酸化数は,酸化マンガン(Ⅱ)MnOではⅡ,酸化マンガン(Ⅳ)MnO2ではⅣ,MnO4⁻ではⅦ,硫黄Sの酸化数は,硫化水素H2Sでは-Ⅱ,二酸化硫黄SO2ではⅣ,三酸化硫黄SO3ではⅥ,塩素Clの酸化数は,塩素イオンCl⁻では-Ⅰ,クロロシルイオンClO⁻ではⅠ,クロリルイオンClO2⁻ではⅢ,ペルクロリルイオンClO3⁻ではⅤ,過塩素酸イオンClO4⁻ではⅦである。
反応において原子の酸化数が増すとき〈酸化された〉といい,酸化数が減るとき〈還元された〉という。たとえば,
となり,Cの酸化数はⅣからⅡに減少し,CO2はH2により還元された。
執筆者:佐野 瑞香
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原子の酸化状態を表すために考えられた数値。中性原子が酸化されて放出した電子の個数に+符号、還元されて取り込まれた電子の個数に-符号をつけたローマ数字で示す。+符号は省略されることが多い。単体を構成する原子の酸化数はつねに0であり、単原子イオンではイオンの電荷数が酸化数となる。
共有結合でつくられる分子あるいは原子団中の原子では、次の通則に従って割り当てられる見かけの電荷数が酸化数となる。
分子を構成する原子の酸化数の総和は0、多原子イオンを構成する原子の酸化数の総和はイオンの荷電数となる。結合原子間では、電気陰性度に従い、陽性原子に正、陰性原子に負の符号を与える。同種原子間の結合については酸化数を0とする。電気陰性度が最大のフッ素の化合物では、フッ素の酸化数はつねに-Ⅰである。フッ素に次いで電気陰性度の大きい酸素の化合物では、フッ化酸素OF2で+Ⅱ、過酸化水素H2O2、過酸化物イオンO22-で-Ⅰとなるほかは、すべて-Ⅱとなる。酸化還元反応において、還元剤中には酸化されて増加し、酸化剤中には還元されて減少する酸化数をもつ原子がある。酸化数は原子の結合状態によって定められるので、構造が不明の原子団については一義的に定められないこともある。チオ硫酸イオンが四チオン酸イオンに酸化される反応
2S2O32-→S4O62-+2e-
において、 の構造式の変化からは、O原子と結合しているS原子の酸化数が+Ⅳから+Ⅴに変化することがわかるが、すべてのS原子を等価とした組成式の変化で考えると、+Ⅱから2.5というローマ数字では表しにくい酸化数になってしまう。
[岩本振武]
化合物中の元素の形式的な酸化状態を表す数値.Stock数ともよばれたが,IUPACはこの名称は使うべきでないとしている.酸化還元反応を取り扱うときに便利である.酸化数の定義は,その元素が関与している結合中の電子対を電気的に陰性な元素のほうに割り当てたとき,着目している元素の原子上に残る電荷の数である.ただし分数,非整数は使わない.酸化数は以下の規則で定める.
(1)単体中の原子の酸化数は0.たとえば,N2 中の窒素の酸化数は0.
(2)イオン性化合物中の単原子イオンの酸化数は,そのイオンの価数.
(3)多原子分子イオンでは,各原子の酸化数の総和がイオンの価数に等しくなるようにする.
(4)化合物中の水素の酸化数は1,ただし金属水素化物では-1.
(5)化合物中の酸素の酸化数は-2.例外としてOF2では2.過酸化物では-1.二酸化物(超酸化物)イオン O2-,三酸化物(オゾン化物)イオン O3- では,まとめて-1として分数にはしない.
(6)フッ素を含むすべての化合物中でフッ素の酸化数は-1.
IUPAC認定用語集Gold Bookは,配位体の中心原子の酸化数は,すべての配位子が中心原子と共有する電子対とともに取り除かれたときに,中心原子が示すと考えられる荷電数としている.酸化数の表記は,化合物名のなかでは中心原子の酸化数のみを元素名の後に( )に入れて,ローマ数字で示す.酸化数は正または負の整数かゼロであるが,負の場合のみ-をつけ,正のときは+を使わない.ローマ数字にゼロはないので,アラビア数字の0を用いる.化学式中で酸化数を表示する場合は右肩つきとする.ペンタカルボニル鉄(0)[Fe0 (CO)5],硫酸鉄(Ⅲ),ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸イオン [FeⅡ(CN)6]4- など.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…すべての元素は,化合物をつくるとき一つあるいはいくつかの一定の酸化数をとるのが普通であるが,ある種の元素,とくに遷移元素などでは,きわめて多くの種類の酸化数の化合物が知られており,そのなかでも通常ではみられないような酸化数の化合物を,異常酸化数の化合物といっている。たとえば,古くから知られていた金属カルボニル,金属ニトロシル,古くは知られていなかった希ガス化合物,あるいは遷移金属のシアノ錯塩,イソニトリル錯塩,ホスフィン錯塩,ビピリジン錯塩,サンドイッチ構造を有する有機金属化合物,フルオロ錯塩など多くの種類の化合物でみられる。…
…しかし反応によって共有結合化合物を生ずる場合,どの原子からどの原子に電子が授受されたかは明確でない。これらを統一的に理解するのに酸化数が用いられる。いくつもの原子やイオンから組み立てられている化合物の中で,結合に関与する電子(価電子)を,その化合物をつくっている原子に割り当てた数を酸化数と呼んでいる。…
※「酸化数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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