仏教の経典。『大日経(だいにちきょう)』とともに真言密教における二大経典の一つで、さらに『蘇悉地(そしつじ)経』を加えて三部秘経とする。『金剛頂経』は南インドのアマラバティで成立したと考えられている。『金剛頂経』は単数の経典ではなく、新古いくつかの同系統の経典の総称である。このうち初期の成立で、かつ内容的にも後の『金剛頂経』の方向を決定した、初会(しょえ)の『金剛頂経』が、アマラバティの成立と考えられる。
この経は、金剛界の思想を説き、金剛界曼荼羅(まんだら)のもととなる経典で、『大日経』の胎蔵(たいぞう)界、胎蔵界曼荼羅に対する。『金剛頂経』はもと瑜伽行唯識(ゆがぎょうゆいしき)派の思想を受け、密教の三密思想(仏の身体、言語、心によって行われる行為は霊妙、不可思議な働きであるとするもの)、大日如来(にょらい)の信仰にたちながら、密教の認識論的、実践的側面を著しく発達させた。このように『金剛頂経』群の一貫した特色は、『大日経』で確立された「悟りの心」(菩提心(ぼだいしん))を認識論的に具体的に実践的に把捉(はそく)しようとする試みである。したがってここでは、心の観察、冥想(めいそう)(観法)の段階が、こと細かに展開される。密教の阿毘達磨(あびだつま)ともいうべき議論が繰り広げられる。
この経の成立には、長い歴史があったものと思われ、広本、略本4種があったともいわれ、そのうちの18会(え)10万頌(じゅ)の大本(だいほん)が分かれて今日伝わったともいわれる。『金剛頂経』(初会の)は前後3回中国に紹介された。最初にこれを翻訳したのは唐代の金剛智(こんごうち)である(『金剛頂瑜伽中略出念誦(りゃくしゅつねんじゅ)経』4巻)。こののち、金剛智の弟子として『金剛頂経』を翻訳し、中国の密教界を大成したのは、同時代の不空(ふくう)であった(『金剛頂一切如来真実摂(しょう)大乗現証三昧(ざんまい)大教王経』3巻)。その後、遠く下って宋(そう)代の施護によって『真実摂経(しんじつしょうきょう)』(初会の『金剛頂経』の翻訳)が完成された。このほか広本の『理趣経(りしゅきょう)』なども、その一種とする。
[金岡秀友]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…第1の雑密とは,世界の女性原理的霊力をそれと同置された呪文,術語でいう真言(しんごん)(マントラ),明呪(みようじゆ)(ビディヤーvidyā),陀羅尼(だらに)(ダーラニー)等の誦持によってコントロールし,各種の目的(治痛,息災,財福の獲得など)を達しようとするものである。純密とは《大日経(だいにちきよう)》と《金剛頂経(こんごうちようきよう)》のいわゆる両部大経を指すが,前者は大乗仏教,ことに《華厳経》が説くところの世界観,すなわち,世界を宇宙的な仏ビルシャナ(毘盧遮那仏)の内実とみる,あるいは普賢(ふげん)の衆生利益の行のマンダラ(余すところなき総体の意)とみる世界観を図絵マンダラとして表現し,儀礼的にその世界に参入しようとするもので,高踏的な大乗仏教をシンボリズムによって巧妙に補完したものとなっている。《金剛頂経》はシンボリスティックに表現された仏の世界を人間の世界の外側に実在的に措定し,〈象徴されるものと象徴それ自体は同一である〉というその瑜伽(ヨーガ。…
…ただし,歴史的には密教の成立は7世紀ころとされるから,その時期に同名異人が存在したとする説もある。不空が著した《金剛頂義訣》によれば,竜猛は大日如来の真言を誦持して,封鎖された鉄塔を7日間めぐり,7粒の白芥子を塔の門戸に投げつけてみごとにその塔の扉を開け,塔内の諸仏菩薩から,密教の根本聖典である《金剛頂経》を授けられた。これが世に密教が伝えられたはじめとされている。…
※「金剛頂経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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