釣り針(読み)つりばり

精選版 日本国語大辞典 「釣り針」の意味・読み・例文・類語

つり‐ばり【釣針・釣鉤】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 魚を釣るために使う針。古いものは縄文時代初期の貝塚から出土。骨角製のものが多いが、彌生時代以降には、青銅製・鉄製もみられる。現在は鉄製が多く、形態は釣る対象魚によって異なるが、丸型、角型、袖型が代表的。鉤(ち)。〔名語記(1275)〕
  2. [ 2 ] ( 釣針 ) 狂言。各流。主人と太郎冠者が西の宮の夷(えびす)に妻ごいに行き、西門にある釣り針で妻をつれという夢想を受ける。そこで、太郎冠者は主人の奥様と腰元数人を釣った後自分の妻を釣るが、被衣(かずき)をとってみるとひどい醜女なので逃げ出す。「狂言記」では「釣女」。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「釣り針」の意味・わかりやすい解説

釣り針
つりばり

魚を釣る用具の一つで、単に鉤(はり)ともいう。最古の釣り針は3万~4万年前の後期旧石器時代(グリマルディ文化)の棒状骨角器とされる。「し」の字型の骨角(または貝)製釣り針は約1万年前の中近東パレスチナのナトゥーフ文化)に出現した。中近東では「あぐ」(先端部の返し、あご、かえし、もどしともいう)付き「し」の字型の銅製釣り針が紀元前3000年前後(メソポタミアのジェムデト・ナスル文化)につくられた。世界各地でのあぐ付き「し」の字型釣り針の出現は、骨角(貝)製も含め、ほぼこの時期以降である。日本でもほぼこの時期(縄文前期)から、あぐ付き「し」の字型の釣り針が使用された。東アジアで鉄製釣り針が普及し始めたのは前500年ごろから(中国南部の印文陶(いんもんとう)文化)であり、日本での普及はさらに遅れた。

 漁獲が経済上重要である諸民族では、魚種漁法により形や材料の異なる釣り針を用いるのが普通である。また民族によっては原形をとどめぬほど変形した釣り針型製品を交易用(アラビア海地域、ポリネシア)、装飾用(トレス海峡地域)に用いることがあった。

 日本では、18世紀に擬似釣り針の記録があり、釣り針の型がある程度多様化していたことが知られるが、今日みられる状態に近づくのは19世紀に入ってからである。商業的漁業が多様化するこのころから、魚種による釣り漁法の分化と釣り針の特産地が形成されて、釣り針は高度な発展をみせ始めた。

[佐々木明]

『直良信夫著『ものと人間の文化史17 釣針』(1976・法政大学出版局)』


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