鋳物師(読み)いものし

精選版 日本国語大辞典 「鋳物師」の意味・読み・例文・類語

いもの‐し【鋳物師】

〘名〙 (「いものじ」とも) 鋳物を造る職人いもじ。いもうじ。
吾妻鏡‐文暦二年(1235)六月一九日「奉行人周防前司、欲発鋳物師之処、陳申云」
[語誌]日本最古の職人歌合東北院職人歌合」五番本(旧曼殊院本)には鋳物師の図像傍らに、羽釜薬缶が描かれており(下図参照)、古くから日常の生活用具、特に煮炊容器をつくっていた人をさしたらしい。また、同歌合にある鋳物師の月歌とその判詞などから、銅鏡鋳造、さらには、撞鐘(つきがね)の鋳造などにもかかわっていたことが知られる。

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デジタル大辞泉 「鋳物師」の意味・読み・例文・類語

いも‐じ【鋳物師】

《「いものし」の音変化》鋳物をつくる職人。

いもの‐し【鋳物師】

鋳物をつくる職人。いもじ。

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日本歴史地名大系 「鋳物師」の解説

鋳物師
いもじ

[現在地名]防府市鋳物師町付近

鋳工の多く在住した地と伝える。周防国は早くから鋳銭司が置かれたことでもわかるとおり、鉄を産出し、国府の置かれた付近にも鋳物師の集住があったらしい。

現下関市忌宮いみのみや神社の正和元年(一三一二)年号ある鐘銘や、現徳山市遠石といし八幡宮の元応二年(一三二〇)の鐘銘に刻まれる「大和貞清」、現山口市の氷上山興隆こうりゆう寺の明応三年(一四九四)鐘銘などの「大和相秀」は防府鋳物師である。

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百科事典マイペディア 「鋳物師」の意味・わかりやすい解説

鋳物師【いもじ】

鋳物職人のこと。古代では鋳工は大蔵省や諸寺院の鋳物所などに所属したが,のち広く諸国を遍歴し交易を行った。一方幕府や守護と関係を強め,東国などに移住する者もおり,給田など支給されて領主らの需要にこたえた。中世後期,全国各地に鋳物の特産地が成立し,河内丹南,筑前芦屋,下野(しもつけ)天明(てんみょう)などが有名。戦国期には真継家の活躍で鋳物師組織が再興され,近世には株仲間を結成,独占を強めた。埼玉県川口の鋳物師は明治維新前に青銅の大砲を鋳造したという。
→関連項目鋳掛屋遠敷鍛冶屋京釜天明釜鞴祭道々の者

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「鋳物師」の解説

鋳物師
いもじ

「いものし」とも。金属をとかして鋳型に流しこみ,武器や像・鐘・鍋・釜などを作る工人。平安末期には蔵人所(くろうどどころ)に属し,灯炉供御人(とうろくごにん)として灯炉を製造し,朝廷に献ずる職人となった。蔵人所から交通税の免除などの特権を与えられ,原料と需要を求めて自由に諸国を遍歴し,やがて各地に鋳物業の中心を作った。とくに河内国丹南郡の鋳物師が蔵人所の供御人として独占権をふるい,能登の中居(なかい)(現,石川県穴水町)など諸国の鋳物師は,丹南の鋳物師に与えられた綸旨の写しを所持するようになった。近世には蔵人所直属の京都の真継(まつぎ)家が朝廷の権利を背景に諸国の鋳物師を統制しようとした。

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世界大百科事典 第2版 「鋳物師」の意味・わかりやすい解説

いもじ【鋳物師】

鉄,銅の鋳造を職能とする職人。銅鐸・銅鏡などの鋳銅は,弥生時代以来,九州,瀬戸内海沿岸,畿内などの鋳工によって行われたが,鋳鉄は古墳時代以降のことと見られる。飛鳥時代以後,造仏の盛行により鋳造技術も著しく進歩した。鋳工は畿内を中心に山陽道,大宰府等の各地に散在していたが,律令制下,大蔵省被官の典鋳司および鋳銭司,諸寺院の鋳物所などに組織された。しかし典鋳司は実質的には機能せず,728年(神亀5)内匠寮に併合される。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鋳物師」の意味・わかりやすい解説

鋳物師
いもじ

「いものし」とも読む。鋳造を行う工人。鋳師,鋳造師,鋳造匠とも呼ぶ。日本では,鋳造技術が弥生時代後期からあった。奈良時代には官の職制として典鋳司 (いもじのつかさ) がおかれ,鋳造師はここに配属されて仏像,梵鐘などの製作にあたった。平安~鎌倉時代には政権の所在地を中心に集団をなし,末期には座をつくって製作,販売を独占した。室町時代以降は日本の各地に広がり,多くは為政者の独占のもとで武具,鍋釜,農具などの生産を行なった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「鋳物師」の解説

鋳物師
いもじ

鋳造を行う工人
平安時代には荘園領主の保護のもとで農具や日常品を製造。鎌倉時代以後,農業生産の進展に伴い需要が増加すると各地に座が結成された。近世には,朝廷を背景とする京都の真継家統制下の鋳物師と,三都の鋳物師に大別されるようになる。

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世界大百科事典内の鋳物師の言及

【鋳掛屋】より

…鋳掛けは鋳物技術の一手法で,なべ,釜など銅・鉄製器物の破損を同質の金属,またははんだの一種である白鑞(しろめ)を溶かして継ぎ掛けることであり,その職人を鋳掛屋または鋳掛師といった。基本的には鋳物師(いもじ)から分化した専門職人である。その専業化は,白鑞の利用がひろまってきた17世紀になってからのことである。…

【金売吉次】より

…各地の伝説では,吉次を炭焼藤太の名とも,その子の名ともされ,あるいは黄金採掘で富を築いた富豪の名とも,その召使の名ともされ,一面では致富譚として伝えられ,他面では非業の死を遂げる没落譚として伝えられる。《平治物語》に義経の郎従堀弥太郎を金商人とし,《弁慶物語》に〈金細工の吉内左衛門信定〉〈腹巻細工の四郎左衛門吉次〉なる者が登場し,《平治物語》《烏帽子折》に義経元服の地とされる鏡宿が鋳物師(いもじ)村とも称されたことなどから,炭焼・鋳物師・金細工・金商人は相互に交流があって,これらの漂泊民が義経・吉次伝説の成長・伝播などに関与したのではないかと推測されている。吉・藤の字を名に持つ一群の人々や鋳物師たちは,話を好む芸能の徒でもあったらしいことは,さまざまな例があり,また《古今著聞集》興言利口の部などにうかがえ,《義経記》で牛若丸に奥州の歴史と状況を語る吉次の雄弁も,これらのことを暗示するものとも考えられなくはない。…

【釜座】より

…中世における鋳物師(いもじ)の座。鎌倉末の1289年(正応2)ごろには,京都三条町に釜座が成立している。…

【職業神】より

…だが丁場(ちようば)と呼ばれる石切場で石材採掘をする山石屋のあいだでは山の神をまつる風習があり,11月7日に丁場にぼた餅,神酒を供えてまつり一日仕事を休む。 冶金,鋳金,鍛鉄の業,すなわち鑪師(たたらし)や鋳物師(いもじ),鍛冶屋の神としてその信仰のもっともいちじるしいのは荒神,稲荷神,金屋子神(かなやごがみ)である。荒神は竈荒神,三宝荒神の名があるように一般には竈の神,火の神として信仰され,なかには別種の荒神として地神,地主神あるいは山の神として信仰される場合もあるが,鍛冶屋など火を使う職業の徒がこれを信仰することは,火の神としてまつられる荒神の性格からきたものであり,それには修験者や陰陽師などの関与もあった。…

【炭焼き】より

… 古い専業的な炭焼きは,鉱山の精錬や鍛冶の技術に付随して発達したものであった。大分県の山村で木炭をイモジと呼んだのも鍛冶とかかわりのある鋳物師(いもじ)にもとづいた。滋賀県の比良山系周縁には,鉄滓(てつさい)の散布する多くの古代製鉄遺跡があるが,それらの付近に〈金糞(かなくそ)松ノ木〉とか,〈九僧谷(くそだに)〉(金糞谷の転訛か)と隣接して〈炭焼〉という地名が残存するのも,これと無関係ではない。…

【天明】より

…天明鋳物では湯釜,梵鐘,鰐口が名高く,現存最古の天明鋳物は元亨元年(1321)銘の梵鐘(安房日本寺)である。天明鋳物師(いもじ)が文献上明らかとなるのは15世紀に入ってからで,座的組織をもって活動していた。その行動範囲は,下野はもとより関東一帯に及び,さらに畿内にまで広がり,15世紀中ごろには和泉・河内の鍬鉄鋳物師の営業権を脅かすほどにもなっていた。…

【梵鐘】より

…上・下帯の間を縦に4区に分けるのが縦帯で,そのうち2本は竜頭の長軸に合わせる。鋳物師の間ではこれを〈六道(ろくどう)〉と呼ぶ。上帯の下にある横長の4区画を乳の間(にゆうのま∥ちのま),または乳の町という。…

【由緒書】より

…備前国岡山の《池田家履歴略記》,出雲国松江松平家の《烈士録》,豪商の《三年寄由緒》,長崎貿易に関する《糸割符(いとわつぷ)由緒書》など,事例が少なくない。【金井 円】
[職人の由緒書]
 平安時代末期から鎌倉時代にかけて,鋳物師(いもじ)(灯炉供御人(くごにん)),生魚商人(津江・粟津橋本御厨(みくりや)供御人など),地黄煎売(じおうせんうり)(地黄御薗(みその)供御人)など各種の供御人は,その特権の保証されたときの時期と天皇を訴訟などの際に強調し,その系譜の確かなことを誇っているが,これは事実であることが多い。しかし室町時代以後,この特権を保証していた天皇の実質的な力が弱化するとともに,この由来はしだいに伝説化し,不正確になり,正確な文書にも〈天照大神〉〈神武御門(みかど)〉などが登場するとともに,こうした伝説に基づく由緒書が書かれ,偽文書(ぎもんじよ)が作成されるようになってくる。…

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