鍼灸とは鍼と灸の総称である。針灸とも書く。中国で発達した物理療法で,体表に金属針を刺す(鍼をうつ)か,もぐさを置いて火をつける(灸をすえる)という刺激を加えることによって病気を治療する。種々の手法が存在したらしいが,もっとも普通に用いられてきたのは,経穴(俗につぼという)という体表の特定の部位を刺激して,多くの場合そこから離れた部位にある病変を治癒させるものである。鍼灸の治療理論になっている経脈(けいみやく)説は,人体には経脈という脈管があり,そのなかを気が循環して生理機能をつかさどっているというもので,その基礎は漢代に成立したと考えられる。経穴は経脈上に散在しているが,それが各人に固定した点であるか,狭い範囲ではあるが移動するものであるかについては定説はない。経脈は単に経とか脈とも呼ばれ,その数は手と足それぞれの太陽,少陽,陽明,太陰,少陰,厥陰の12(左右で合計24)で,手と足の末端と体内の臓器または頭部を結ぶとされ,肺手太陰脈というように陰脈には臓が,陽脈には腑が,各脈にそれぞれ一つずつ割り当てられている。したがって手太陰脈と肺脈とは同じものを意味する。経脈には枝分れがあって絡脈(らくみやく)と呼ばれ,その大きなものには任脈,督脈などという名称がつけられている。経脈と絡脈を合わせて経絡という。経脈の数は最初は陰脈5,陽脈6の計11であったが,おそらく漢代に陰陽6ずつの12脈になり,それぞれに臓腑が割り当てられた。経穴は現存する漢代の文献にはわずかしか認められないが,皇甫謐(こうほひつ)の《甲乙経》ではほとんど出そろっているから,六朝初期には経脈,経穴説は一応完成していたと考えられる。その後,宋代に王惟一が諸家の説を統一して経穴の位置を決定し,以後これが標準として用いられてきた。鍼灸治療は唐代ころまでは薬物療法に匹敵するほど重視されたが,宋代以後は薬物療法が発達したため,その比重は低下した。もっぱら民間の医者,いわゆる鈴医(鈴を鳴らしながら郷村を巡回して売薬治療した)によって行われるにすぎなかった。なお近年の中国では,伝統医学を見なおす中で,針麻酔法が開発され,その効果にはなお批判があるとはいえ,多数の有効例が報告されている。
→灸 →鍼(はり)
執筆者:赤堀 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…漢方医たちは組織をつくって,漢方医学によっても医師になる道を法律的に開かせるべく運動をつづけるが,95年第8議会で法案が否決されて最後の希望を断たれた。以後,鍼灸(しんきゆう)は医療類似行為という名称で法律的に認められて存続してきたが,漢方医学は異端とされ,一部の研究者の興味と民間における関心とに支えられて今日にいたっている。しかし1970年ころから世界的な伝統再評価の波にのって関心が集まりつつある。…
…たとえば,美容上の目的をもって行われる手術,避妊処置,人工妊娠中絶,人工受精,体外受精,性転換手術や性ホルモン注射療法などは,病気の回復を目的とはしないが,それらを実施するのに最も安全で確実な技術を提供できると期待されるし,また施設・器材も病気の医療のためのものと共用できることなどから,医師にそれらの行為を限定し,医療の定義のなかに入れられる。しかしながら,鍼灸(しんきゆう),あんま,マッサージ,指圧,柔道整復などは,医師が直接行わないという理由で,法的には医療類似行為と規定されている。
【医療の基盤】
集団的生活を営むことを特徴とする人間は,その身体的な機能の障害がみずからの能力で対処できないと感じたとき,他からの援助を期待し,また周辺の他者は彼または彼女を援助しようとする。…
…また現在の基礎医学とは違って,人体の生理・病理現象を,むしろ哲学的な観点から論じた理論医学の体系が存在する。そのほかに中国医学独特の分野としては鍼灸(しんきゆう)があり,薬物についての知識は本草(ほんぞう)(本草学)という分野で蓄積された。錬金術の一種ともいえる練丹術以外には近代科学に見られるような実験はほとんど試みられなかった。…
…以後,明治初年まで鍼治療は日本で広く行われてきたが,1883年に〈医師免許規則〉が公布されるにおよんで,制度上,排除されることとなった。その後,1912年,内務省令〈鍼術,灸術,取締規則〉が公布され,鍼灸(しんきゆう)業は免許制となり,第2次大戦後,占領軍によって一時禁止されたが,47年,〈あん摩師,はり師及び柔道整復等営業法〉によって,医療類似行為として,免許制となっている。この法律はその後2度改正され,70年には〈柔道整復師法〉の独立により,〈あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師等に関する法律〉と改正された。…
※「鍼灸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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