もん【門】
[1] 〘名〙
※
令義解(718)宮衛「凡開
二閇門
一者。第一開門鼓撃訖。即開
二諸門
一」
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「門の出入とがむづかしい事な」 〔礼記‐曲礼上〕
②
平安京の
条坊制で、
東西方向の区画帯のうちの最小単位。一坊を東西・南北方向に四等分して一六の
正方形を作り、その各々を町と称し、町を東西方向の区画帯で八等分してこれを門という。南北方向には町を四等分区画帯で分け、これを行という。門と行の区画帯を組み合わせると一町の中に三二の小区画ができ、これを戸主
(へぬ)といい、一戸の住居単位となった。
一門の区画帯の中には四つの戸主が東西に並ぶことになる。
※史料編纂所所蔵春日社旧記‐長承四年(1135)四月二六日・藤原某家地売券「在右京捌条壱坊拾参町内肆戸主東肆行北壱弐参肆伍陸柒捌門内者 東西陸丈陸尺柒寸 南北参拾丈」
※浮世草子・
懐硯(1687)一「辻番手柄を見るより心して門うたずして通しける」
※洒落本・
辰巳之園(1770)「いやもう直に帰ろふ、門
(モン)がやかましひ」
⑤
事物が必ず通るところ。ある状態・
境地に達するために、まず経過しなければならない段階、また、
試練。また、物事の生まれ出てくるところ。「登龍門」「
狭き門」など語素的な形で用いられる。〔易経‐繋辞上〕
⑥
学問・
芸道を教える家、施設など。ある師を中心とする
一派、または一つの系統を引く学問・芸道の流れをいう。
※
当世書生気質(1885‐86)〈
坪内逍遙〉四「ある大学の門
(モン)に入りて、脩学おこたりなかりけり」 〔孟子‐告子・下〕
[2] 〘接尾〙 大砲を数えるのに用いる。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「十八門(モン)の大炮(ほう)」
[3] 小説。夏目漱石作。明治四三年(一九一〇)発表。不義の結婚により、社会の片隅にひっそりと生きる宗助、お米夫婦のわびしい生活を通し、人生の深淵を描く。「三四郎」「それから」と三部作をなす。
かど【門】
〘名〙
① 家の周囲に巡らした、かこいの出入り口。また、家の出入り口。もん。
※古事記(712)下・歌謡「真木栄(さ)く 檜の御加度(カド)」
※伊勢物語(10C前)五「かどよりもえ入らで、童べのふみあけたる築地(ついひぢ)のくづれより通ひけり」
② 門の前。また、門に近い庭。門のあたり。門の付近。
※万葉(8C後)一七・三九七八「可度(カド)にたち 夕占(ゆふけ)問ひつつ 吾(あ)を待つと」
※新古今(1205)冬・六〇六「我が門の刈田のねやにふす鴫(しぎ)の床あらはなる冬の夜の月〈殷富門院大輔〉」
③ 家。家屋。宅。屋敷内。
※平家(13C前)二「積善の家に余慶あり、積悪の門に余殃とどまるとこそ承はれ」
④ 一族。一門。
※続日本紀‐天平宝字元年(757)七月二日「己が家家、己が門門、祖の名失はず、勤め仕へ奉れ」
⑤ 譜代の下人。一般に門屋または門の者といい、地方によって名子(なご)、被官、家来、家抱(けほう)などという。大部分は親方の屋敷内の小屋に住み、形式的には一家を形成しているが、親方への隷属性の強いものが多かった。
※佐久郡桜井村家改帳(信州)‐延宝三年(1675)「一高弐拾八石五斗四升 吉右衛門 門 彌五郎 門 吉蔵 門 三之助 右吉右衛門屋敷内に居住仕候」
⑥ 薩摩藩で、小農民の組合をいう。
かず かづ【門】
〘名〙 門(かど)をいう上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四三八六「わが加都(カヅ)の五株柳(いつもとやなぎ)いつもいつも母(おも)が恋ひすすなりましつしも」
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デジタル大辞泉
「門」の意味・読み・例文・類語
もん【門】
[名]
1 建築物の外囲いに設けた出入り口。また、その構築物。かど。「門を閉ざす」
2 事物が必ず通る所。ある事のために通らなければならない過程。「合格への狭き門」「再審の門が開かれる」
3 弟子となって教えを受ける所。また、一人の師を中心とする一派・流れ。「著名な学者の門に学ぶ」
4 生物分類の段階の一。界の下、綱の上に位置する。「動物界脊椎動物門哺乳綱」
5 門限。
「いやもう、直に帰らう。―がやかましい」〈洒・辰巳之園〉
[接尾]助数詞。火砲の数を数えるのに用いる。「大砲五門」
[類語]門・ゲート・正門・表門・裏門・アーチ・通用門・楼門・城門・山門・大手門・唐門・冠木門・上げ土門・凱旋門・背戸・鳥居
もん【門】[書名]
夏目漱石の小説。明治43年(1910)発表。不義の結婚による夫婦のわびしい生活を通し、人生の深淵を描く。
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もん【門】
【日本】
神社の鳥居や,住宅の簡単な門を除いた大部分の門は,中国伝来の形式であると考えられる。門は形式によって名づけられるほか,寺院の南大門,中門,総門,三門(山門)など場所による名称,仁王(におう)門,随身(ずいじん)門など安置された像による名称があり,そのほか建礼門,桜田門など固有名詞をつけられたものなどがある。木造建築であるから,正面の柱間(はしらま)の数と,そこに開かれる戸口の数とによって,その規模が表され,五間三戸(ごけんさんこ),三間一戸,一間一戸というふうに呼ばれる。
かど【門】
門(もん)とは元来家・屋敷地の出入口をいうが,奈良時代以降中世にかけて多様な語義を派生した。まず空間的な視角から門の付近の内外を門(かど)といった。門田(もんでん∥かどた)などはその例である。また,門が外に対して家を象徴するところから,家・屋敷そのものを門と呼ぶことがあった。他方人間集団に関して,譜代の下人・被官などを門の近くの小屋に住む者の意で門または門の者と呼んだり,家そのものに比重をかけて,家を構成する人々を一族・一門の意味で門と呼んだりした。
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門
もん
gate
建築敷地の入口に建てられる構築物。2本の柱で入口を示唆する単純なものから,防御,儀礼,格式を示すなどの目的をもった複雑な楼門まである。日本では中国建築の様式伝来とともに貴族の邸宅,宮城,都市などに用いられ,地位を象徴する意味をもって造られた。平安時代にはすでに住宅の門として身分に応じた大きさと形式が定まっていた。
門
もん
phylum
生物分類学における分類群の一階級で,界を大きく分ける場合に用いられる。すなわち,界の下で,綱の上。動物では軟体動物門,脊椎動物門など基本的体制の差が門として区別されるが,植物ではミドリムシ,コケ,シダ,種子植物を緑色植物門として一括する立場があるなど,まとめの原理は必ずしも一様でない。
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門
別役実の戯曲。1966年5月、鈴木忠志の演出により、劇団早稲田小劇場が旗揚げ公演として、アートシアター新宿文化で初演。同年、第12回「新劇」岸田戯曲賞(のちの岸田国士戯曲賞)の候補作品となる。
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世界大百科事典内の門の言及
【門割制度】より
…薩摩藩全般に施行された強制割地制度。名称の初見は1197年(建久8)の《大隅国図田帳》所載姶良(あいら)庄の元吉門であるが,その性格は未詳。中世の門(かど)は垣内村(かいとむら)のような血縁ないし地縁共同体であったが,島津氏の領国一円化とともに,とくに1658年(万治1)ごろから1722‐26年(享保7‐11)の総検地ごろまでの外城制度の確立過程の進展のなかで,下人(被官)や一族が解体されて新門を分立していったので,高も人員も平均的な門に変貌した。…
【被官百姓】より
…同郡でも江戸時代を通じて被官百姓の制度の残った地域は天竜川東岸の山村に多いが,初期には城下町周辺の地にもその存在が知られている。小作人を門(かど),門屋などと呼び,労働提供の慣行のあるものを含めれば,同様の慣行の存在はさらに広く各地にみられる。旧盛岡藩の名子百姓は在郷武士である地頭の小作人であるとされるが,名子と呼ばれるものにも被官百姓と同質のものもある。…
【便所】より
…世界の食文化にさまざまなかたちがあるように,排泄の場所である便所にも同様の差異がある。諸民族間の差はもちろんであるが,同民族内の時代差もあり,かなり多様である。また便所の構造は諸民族間における排泄行為に対する羞恥心とも関連し,未開とか文明とかの尺度で構造の特徴を論じられるものでもない。 大・小便の処理方法は火葬,土葬,水葬,風葬という人類の死体処理の方法と一致すると言われている。たとえば,大便を家の壁などに塗りつけて乾燥させて燃料にする,土を掘って排便後土をかぶせる,海や川の水に流す,また土や砂の上に排便してそのままにしておく,放置した大便をブタに食べさせる,などの方法である。…
【門田】より
…中世の長者(地方武士,土豪など)屋敷の門前にひろがる付属耕地(畠の場合は門畠(もんぱく)という)。〈かどた〉ともいう。…
【屋敷】より
…屋敷を名請けした百姓が役人,役家,役儀之家,公事屋(くじや)などと呼ばれて夫役負担者とされ,弱小農民は田畠だけを名請けして屋敷の登録をうけず,夫役の負担をまぬがれていた。 検地帳に登録された屋敷は,その多くが屋敷囲いの内部に母屋(おもや)とともに小屋,門屋(かどや),隠居屋などを備え,小屋,門屋,隠居屋には主家の庇護・支配を受ける弱小農民(自立過程の小農)が起居し,母屋には主家が住いした。小屋住み,門屋住い,隠居身分などの弱小農民が家族をもち,その生計が主家のそれから一応独立分離している場合でも,家数人馬改帳(いえかずじんばあらためちよう)(夫役徴集の基礎帳簿)では,1屋敷の内部の生活は1竈(かまど)として把握され,屋敷囲いの内に住む弱小農民の家族は主家の家族に含まれるものとして主家に一括された。…
※「門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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