日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
開高健(かいこうたけし)
かいこうたけし
(1930―1989)
小説家。大阪市生まれ。大阪市立大学法科卒業。戦後派文学の流れをくむ新世代の代表的存在で、敗戦のもたらした飢餓体験を原風景として執拗(しつよう)に抱え込んでいる作家の一人。学生時代に謄写印刷で長編『あかでみあ めらんこりあ』120部を刊行。卒業と同時に詩人の牧羊子(まきようこ)と結婚。1954年(昭和29)寿屋(ことぶきや)(現サントリー)宣伝部に入社。独自な広告コピーで注目され、PR誌『洋酒天国』を創刊編集。57年『新日本文学』に発表した『パニック』が文芸時評で平野謙(けん)の激賞を受け、同年末、『文学界』に掲載の『裸の王様』で第38回の芥川(あくたがわ)賞を獲得。59年、大阪砲兵工廠(こうしょう)跡の通称アパッチ族を活写した『日本三文オペラ』を発表、以後、冤罪(えんざい)に取り組んだ『片隅の迷路』(1962)、戦争下の少年像を描いた『青い月曜日』(1965)、ベトナム戦争の苦悩に迫った『輝ける闇(やみ)』(1968。毎日出版文化賞受賞)、現代の濃密な空虚と格闘した『夏の闇』(1972)などの、アクチュアルな話題作を相次いで世に問うている。ほかに、川端賞の『玉、砕ける』を収めた短編集『歩く影たち』(1975)、ルポルタージュ『ベトナム戦記』(1965)、エッセイ集『饒舌(じょうぜつ)の思想』(1966)、作家論集『紙の中の戦争』(1972)などが注目される。釣魚紀行、探訪記、人物論集、対談集も多数ある。
[古林 尚]
『『開高健全作品』全12巻(1973~74・新潮社)』▽『『これぞ、開高健。』(『面白半分』増刊号・1977・面白半分)』▽『谷沢永一・向井敏・浦西和彦編『コレクシオン開高健』(1982・潮出版社)』