改訂新版 世界大百科事典 「陰茎癌」の意味・わかりやすい解説
陰茎癌 (いんけいがん)
penile cancer
陰茎に発生する悪性腫瘍で,とくに亀頭,冠状溝,包皮内面に生じやすい。皮膚癌の一種で,組織学的には扁平上皮癌に分類される。男子がかかる癌のうち4~5%を占め,40~60歳代の,とくに包茎の者に多くみられる。アフリカ,東南アジアや中国に多いといわれるが,ユダヤ教徒などのように出生時に包皮を切除(割礼)する人々では,その発生率が明らかに低いとされている。包茎では亀頭部に恥垢(ちこう)がたまりやすく,これによる慢性の刺激や感染の合併が本症の誘因と考えられている。初期は小さい発疹あるいは潰瘍として始まるが,進行したものではカリフラワー状を示す硬い腫瘤をなしている。腫瘍からの分泌物は特有の悪臭をはなつことが多い。転移はまず鼠径部(そけいぶ)のリンパ節に起こり,進行すれば肺や肝臓などの遠隔に及ぶ。治療は腫瘍から約2cmはなして陰茎を切断する方法が一般的である(陰茎部分切断術)。進行したものでは鼠径部のリンパ節も取り除かなければならない。抗癌剤(ブレオマイシンなど)や放射線療法も有効で,手術を行わず陰茎を残したまま治癒可能なこともある。
執筆者:上野 精
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報