〈りくとう〉ともいわれ,畑地環境に適応して分化してきたイネで,ふつう水田で栽培される水稲と区別される。その起源についてはなお不明な点が少なくないが,イネの起源地において,多様な立地条件に対応して,しだいに陸稲と水稲の区別ができてきたものと考えられる。また一方,世界各地に伝播(でんぱ)した水稲から,個別に分化した陸稲品種も少なくないとされている。現在,アジアイネやアフリカイネ,あるいはインド型イネや日本型イネなどの,いずれの分類群にも陸稲の存在が認められ,東南アジアの山岳地帯を中心に,その分布はアジア,アフリカの各地に広がっている。しかし生産量からみれば,水稲にはるかに及ばないし,また単位面積当りの収量も低い。日本の陸稲についてみると,水稲と比較して草型は粗大で,とくに葉身は長さ,幅ともに大型で垂れ下がる傾向を示すものが多い。根系は畑地に生育した水稲と比較して深根性で,根量も多い。また穀粒は大型で,とくに長いことに特徴がある。陸稲が水稲と比較して,畑地栽培に適していることはいうまでもないが,他のイネ科の畑作物に比較すると耐乾性は弱く,しばしば乾害に見舞われる。また連作による生育の低下が著しいため,輪作体系の中に組み入れて栽培されるのが一般である。米は水稲米と同様に取り扱われるが,品質は水稲米より劣るとされている。したがって,陸稲としてはもち(糯)品種を多く栽培し,もち米として利用する場合が多い。また菓子製造用としては,陸稲が好まれる場合もある。わらは水稲のそれと比較して,家畜の嗜好性が高いといわれる。英名のupland rice(またはmountain rice)は,低地に栽培されるlowland riceに対して,高地に栽培されるイネ一般を示す場合にも用いられるので,注意を要する。
→イネ
執筆者:山崎 耕宇
イネの栽培のごく初期の段階では,イネは他の夏作のイネ科の作物(雑穀類)と同一の耕地で混作されていた可能性がきわめて大きい。このようなイネは水稲・陸稲の未分化なもので,結果として陸稲的な性格を強く有するものであったと考えられる。その後,灌排水施設をもつ水田が整備され,水田稲作農耕が発展するに伴い,水稲品種群が確立し,陸稲的な稲の役割は著しく低くなってしまった。現在,陸稲が主穀作物として栽培されているのは,東南アジアの山地焼畑民のもとであり,例えばボルネオのイバン族では早まきのもち種や早生種から最後に播種(はしゆ)される〈聖なる稲〉まで,1家族で15種類もの陸稲を焼畑で栽培している。しかし,焼畑農耕の衰退とともに陸稲の栽培は各地で減少の傾向を示している。日本の場合,歴史的には九州を中心に〈のいね〉と称し,陸稲がやや集中的に栽培されたが,その他の地方では陸稲が大量に栽培されることはなかったようである。
→雑穀 →焼畑
執筆者:佐々木 高明
明治初年ごろの生産は僅少であったが,その後漸増して1920年ごろには作付面積13万~14万ha(畑地の約5%),収穫量20万t前後(米生産量の約2%)となり,ムギ類に次ぐ主要畑作穀物となった。主要産地は関東,九州地方である。第2次大戦中は激減したが,戦後回復して60年ごろには作付面積18万ha,収穫量30万tと史上最高を記録した。しかし,米の過剰傾向が進むなかで陸稲生産は減少傾向をたどり,96年には0.9万ha,1.6万t程度(米生産量の0.2%)となった。陸稲米は水稲米に比べて品質が劣るとされて,通常格安品として扱われる。陸稲のもち米の多くは製菓原料として使われる。米の逼迫(ひつぱく)期が過ぎると,食糧管理法による政府の買入れ価格も4%前後,売渡し価格には数十%のマイナス格差をつけられるようになった。自主流通米制度ができると,しだいにこの販売ルートに流れるようになり,政府買付けはほとんど行われなくなった。
→米
執筆者:中島 常雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水田で栽培される水稲に対して、畑で栽培されるイネのことをいう。また前者を「みずほ」、後者を「おかぼ」ともよぶ。陸稲は、水稲が栽培されているうちに、しだいに灌漑(かんがい)水がない土地でも育つものがみいだされてできたものと考えられている。現在、東南アジアを中心に山岳地帯や水利の悪い所に広く栽培されている。アメリカには18~19世紀に東南アジアから入った。日本では13世紀から記録があるが、弥生(やよい)時代にすでに伝来していたとみられている。なかには水稲から陸稲に転化した品種もあり、また日清(にっしん)戦争のころ導入された戦捷(せんしょう)、凱旋(がいせん)などの品種は現在の品種の主要な遺伝母本となっている。関東地方北部や南九州の畑作地帯におもに栽培されるが、生産量は水稲の0.2%(1995~2000平均)にすぎない。
陸稲の形態や生理は水稲と大差ないが、畑の環境に適応して、根が深く張るとか、発芽限界土壌水分が低いなど若干の違いがある。陸稲は畑に育つが、干魃(かんばつ)にはきわめて弱く、生育・収量は降雨量に影響され、水稲に比べると収量は半分以下(10アール当り200キログラム前後)で、年による変動が大きく不安定であるため、耐干性の強い品種が重要視されている。陸稲は畑作物として、サツマイモ、ダイズ、タバコ、野菜類などと輪作され、ムギ類と二毛作される。直播(じかま)き栽培され、前作物の収穫が後れるときには、うね間に播かれることもある。陸稲にも粳(うるち)と糯(もち)の品種区別があり、粳は飯用、糯は餅(もち)にされる。陸稲の餅は水稲に比べて粘りが軽く食味が好まれるため、糯米(もちごめ)が粳よりも多く生産されている。
[星川清親]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…インドネシアなど南アジアの島嶼(とうしよ)部で栽培されるイネは中間型のものが多い。
[水稲と陸稲およびうるち種ともち種]
日本型とインド型の別を問わず,イネは耕地の水条件に適応して分化したとみられる水稲と陸稲(おかぼ)に区別される。水稲は通常湛水(たんすい)した水田に栽培されるが,耐乾性の強い陸稲は畑に栽培される。…
…〈りくとう〉ともいわれ,畑地環境に適応して分化してきたイネで,ふつう水田で栽培される水稲と区別される。その起源についてはなお不明な点が少なくないが,イネの起源地において,多様な立地条件に対応して,しだいに陸稲と水稲の区別ができてきたものと考えられる。また一方,世界各地に伝播(でんぱ)した水稲から,個別に分化した陸稲品種も少なくないとされている。…
…もち米のなかには精米にしたとき半透明で,うるち米と見分けにくいものがあるが,ヨード・ヨードカリ溶液で染色すると,うるち米は青藍色に,もち米は赤褐色に染まるので,簡単に区別できる。(3)水稲と陸稲 うるち米,もち米ともに水田につくる水稲と畑につくる陸稲(おかぼ)がある。陸稲は日本では畑の多い関東や南九州におもに栽培されている。…
…インドネシアなど南アジアの島嶼(とうしよ)部で栽培されるイネは中間型のものが多い。
[水稲と陸稲およびうるち種ともち種]
日本型とインド型の別を問わず,イネは耕地の水条件に適応して分化したとみられる水稲と陸稲(おかぼ)に区別される。水稲は通常湛水(たんすい)した水田に栽培されるが,耐乾性の強い陸稲は畑に栽培される。…
…もち米のなかには精米にしたとき半透明で,うるち米と見分けにくいものがあるが,ヨード・ヨードカリ溶液で染色すると,うるち米は青藍色に,もち米は赤褐色に染まるので,簡単に区別できる。(3)水稲と陸稲 うるち米,もち米ともに水田につくる水稲と畑につくる陸稲(おかぼ)がある。陸稲は日本では畑の多い関東や南九州におもに栽培されている。…
※「陸稲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新