陽炎(読み)カゲロウ

デジタル大辞泉 「陽炎」の意味・読み・例文・類語

かげろう〔かげろふ〕【陽炎】

春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象。強い日射で地面が熱せられて不規則な上昇気流を生じ、密度の異なる空気が入りまじるため、通過する光が不規則に屈折して起こる。かぎろい。糸遊いとゆう 春》「丈六に―高し石の上/芭蕉
[類語]かぎろい蜃気楼海市空中楼閣逃げ水浮き島

かぎろい〔かぎろひ〕【陽炎】

かげろう
「―のもゆる荒野に白たへの天領巾あまひれ隠り」〈・二一〇〉
夜明け方の光。
ひむがしの野に―の立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」〈・四八〉
[類語]かげろう蜃気楼海市空中楼閣逃げ水浮き島

よう‐えん〔ヤウ‐〕【陽炎】

かげろう」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「陽炎」の意味・読み・例文・類語

かげろうかげろふ【陽炎】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 光と影とが、微妙なたゆたいを見せる現象。強い直射日光で地面が熱せられ、地面に近い空気が暖められて密度分布にむらができるために、そこを通過する光が不規則に屈折させられて、揺れ動いて見えるもの。特に、春の晴れた日に、野原などで見られる現象をさすことが多い。平安時代以降の和歌では、あるかなきかに見えるもの、とりとめのないもの、見えていても実体のないもののたとえとされることが多い。また、「かげろう(蜉蝣[ 一 ]」と混同して解され、はかないもののたとえとなることもある。かぎろい。かげろい。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「夏の月光惜しまず照る時は流るる水にかげろふぞ立つ」(出典:班子女王歌合(893頃))
    2. 「野馬(かげろふ)に子共あそばす狐哉〈凡兆〉」(出典:俳諧・猿蓑(1691)四)
  3. 草の一種という。を誤解したもの。〔八雲御抄(1242頃)〕

陽炎の補助注記

を、漢語の「遊糸」から、古くは、中晩秋、または初春快晴の日に、ある種のくもの子が糸を出して風に乗って空を浮遊するものをいったと解する説もある。


かぎろいかぎろひ【陽炎】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 春のうららかな日に、地上から立つ水蒸気によって光がゆらいで見えるもの。かげろう。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「埴生坂(はにふざか) わが立ち見れば 迦藝漏肥(カギロヒ)の 燃ゆる家群(いへむら) 妻が家のあたり」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  3. 明け方の日の出るころに空が赤みを帯びて見えるもの。
    1. [初出の実例]「東(ひむがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ」(出典:万葉集(8C後)一・四八)
  4. 炎などによって空の赤く染まって見えるもの。

陽炎の補助注記

後世は、もっぱらの意となった。


よう‐えんヤウ‥【陽炎・陽焔】

  1. 〘 名詞 〙かげろう(陽炎)《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「外道之法亦同幻夢陽焔也」(出典:秘蔵宝鑰(830頃)上)
    2. [その他の文献]〔白居易‐開元寺東池早春詩〕

かげろいかげろひ【陽炎】

  1. 〘 名詞 〙かげろう(陽炎)《 季語・春 》

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普及版 字通 「陽炎」の読み・字形・画数・意味

【陽炎】よう(やう)えん

かげろう。唐・白居昜〔開元寺東池早春〕詩 寐(むび)とり 事、陽炎に隨ふ

字通「陽」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「陽炎」の意味・わかりやすい解説

陽炎 (かげろう)

日ざしの強い日に舗装道路の路面近くを通して遠くを見ると,景色がゆらゆらとゆれて見える。このような現象をかげろうと言う。地物や地面に日が当たると,そこが熱せられ,そのそばの空気も暖まって,上昇気流となって上へ昇る。この時まわりの冷たい空気といり乱れ,そこを通る光線が不規則に屈折するために起こる現象である。星の瞬きシンチレーション)も似た原因でおこる。俳句では春の季語になっているが,春に限って起こる現象ではない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「陽炎」の意味・わかりやすい解説

陽炎
かげろう
heat haze

直射日光で熱せられている地面の上や,焚き火の上などを通して遠くを見たとき,遠方の物体が細かくゆれたり形がゆがんで見える現象。空気が局部的に熱せられて対流が起こり,局所的に密度が変化するため屈折率が変化し,そこを通る光線の向きが種々の方向に変化することによって起こる。

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デジタル大辞泉プラス 「陽炎」の解説

陽炎

1991年公開の日本映画。監督:五社英雄、原作:栗田教行による同名小説、脚本:高田宏治。出演:樋口可南子、仲代達矢、本木雅弘、荻野目慶子、かたせ梨乃、川谷拓三、竹中直人ほか。熊本の花街・二本松を舞台とする男女の愛憎劇。

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