社会がいくつかの階級に分裂して互いに和解しがたく敵対している場合に、いずれか一方の階級が他方の階級を打倒して、その政治上、経済上、文化上の特権、権利、機会を奪取し、支配権を手に入れようとして行われる闘争をいう。階級間の対立、抗争については古くから注目され、種々の学説が生み出された。プラトンは富者と貧者の間の闘争を哲人支配によって克服しようとし、下って19世紀初頭のフランスでは、サン・シモンは、フランス革命を進歩的知識層、保守的所有者、無産者という三つの階級間の抗争としてとらえ、産業者を中心とした社会改造を説いたが、階級闘争を理論づけるまでには至らなかった。
唯物史観の立場から階級間の対立・闘争の必然性とプロレタリアートの歴史的使命を説いて、階級闘争の理論を提出したのは、マルクス、エンゲルスである。それによると、原始共産制の段階を除き、今日までのあらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史であって、資本主義社会における階級間の対立・抗争は資本家による労働者の搾取(剰余価値の収取)に由来する。つまり、富の分配の著しい不平等(貧富の差)は、生産が社会化されているのに領有が私的な性格をもつという矛盾によるが、資本家はこのような搾取の体制を維持する必要上、こうした矛盾をそのままにして労働者に貧困その他さまざまの耐えがたい犠牲を強いるため、労働者はこの桎梏(しっこく)から自らを解放しようとして、現行の生産関係を土台とする社会体制を打破し、変革していく運動を推し進めるようになる、という。このような体制変革への条件は、資本主義体制自体のなかにあるが(生産の社会化と所有の私的性格などの矛盾)、同時に体制変革を担うべき労働者階級が孤立・分散、競争の状態を脱却して、大工業地帯に集中し、階級的利害に目覚めて組織をつくり、そのもとに団結して、真の階級意識や階級組織を備えた対自的階級Klasse für sichにまで主体的に成熟していなければならない、とされている。
階級闘争には労働組合による経済闘争、政党の指導下で体制変革を目ざす政治闘争、敵対階級の誤りを暴露し、自己の立場の正しさを主張するイデオロギー闘争がある。資本主義社会ではそれに内在する法則の作用によって、将来ますます労資二大階級への両極分解が強まり、労働者の状態は悪化し、窮乏化の一途をたどるから、階級闘争はますます激化し、革命は不可避である、と主張される。
しかし、19世紀末以降、とくに現代の先進諸国では、マルクスらの予想に反して、両極分解と窮乏化のかわりに、新中間層の増大と生活の向上・平準化をもたらし、福祉政策の拡充とともに、ベルンシュタインらの修正主義や社会民主主義の路線、階級対立の制度化などの事態を招き、そのため先進諸国における階級闘争は変質して革命性を失い、体制内部に組み込まれていく傾向がある。
[濱嶋 朗]
階級社会に必然的な階級間の闘争,具体的には支配階級と被支配階級との闘争をいう。歴史における階級闘争を重視したのはマルクスとエンゲルスである。彼らは,原始共産制や未来の共産主義社会を除いて〈今日までのすべての社会の歴史は階級闘争の歴史である〉(《共産党宣言》1848)ととらえた。この意味での階級闘争はまた,社会発展の法則が実現されていく具体的な形態でもある。階級闘争は,そもそも階級が生産手段の所有・非所有に発する経済的利害の対立に根ざしていることから,基礎的には経済闘争の形態をとる。それは,一方では経済的実権をふまえて政治的支配がおこなわれ,他方ではこうした過程の正当化あるいは合理化がおこなわれることから,不可避的に政治闘争やイデオロギー闘争あるいは思想闘争に発展する。古代奴隷制のもとにおける奴隷の反乱や,中世封建制のもとにおける農民一揆,日本の中・近世の土一揆や百姓一揆などでは,これら三つの側面が未分化なままに突発的・非系統的に闘争が展開されたが,近代資本主義社会では,ばらばらの労働者の個々の資本家にたいする経済闘争が,階級としての労働者の,資本家階級にたいする,政治闘争やイデオロギー闘争あるいは思想闘争を含んだ全面対決に発展した。労働組合が結成され,それらの全国組織,さらには国際組織がつくられて,社会主義ひいては共産主義をめざす階級闘争がおこなわれてきたのがそれである。
しかし,このような労働者階級の闘争の成果として民主主義が普及し,民主的政府のもとで対決を平和的に処理しようとする階級闘争の〈制度化〉が進んだことから,先進資本主義諸国では階級闘争の革命性が和らげられていく傾向も生じた。いずれかといえば後進的な諸国で成立した社会主義政権の非民主的性格も,こうした傾向を促進した。とはいえ世界的にみれば,第三世界の諸国を中心に,人種・民族問題とも絡んだ大規模な階級闘争が帝国主義や大国主義に抗して今も展開されている。
執筆者:庄司 興吉
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…それまでのゴータ綱領に代わるもので1921年まで有効であった。内容上2部から成り,第1部は〈ブルジョア社会の経済発展〉が〈階級闘争〉を必然的に激化させること,全人類の解放は〈生産手段の資本主義的私有を社会的所有に転化〉することなしには不可能で,そのためには〈労働者階級は政治権力を獲得しなければならない〉という原則を明らかにする。第2部は普通選挙権,人民の直接立法,8時間労働日,団結権といった当面の要求15項目を挙げている。…
※「階級闘争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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