多量の積雪の急激な落下をいう。地方によってはアワ、ナデなどの名称もある。フランス語のアバランシュavalancheということばも普及している。
[安藤隆夫]
雪崩は理論的には、斜面の積雪を支持している力より、積雪が滑り落ちようとする力のほうが大きくなるときにおこる仕組みとなっている。雪崩には多くの分類法があるが、一般には表層雪崩(または新雪雪崩)と、全層雪崩(または底雪崩)に大別している。表層雪崩は、冬から春にかけて山に多量の新雪があればおこる。また、全層雪崩は、冬の間の積雪が全部一度になだれる現象で、春から初夏にかけてのころに多い。
(1)表層雪崩 表層雪崩の代表的なものは、古い積雪の上に多量(15センチメートル以上)の新雪が積もり、これがなにかの衝撃で崩れるときにおこる。登山者が雪庇(せっぴ)を踏んだり、落石があったり、ときには列車が通る振動などが衝撃となることがある。その衝撃力は1平方メートル当り135トンにも及んだ記録があり、これはコンクリートの構造物でも容易に破壊する力がある。この雪崩は大雪の後には昼夜を問わず、また場所を選ばずどこにでも発生する。
(2)全層雪崩 春から初夏におこるこの雪崩は、春になって日本海を低気圧が通るようなとき、南風が吹いて気温が急に上がったり、また雨が降って積雪の下層が緩んだりするときにおこりやすい。積雪面に割れ目ができ、それがしだいに大きくなるようなときは、全層雪崩のおこる危険がある。また、地形上、全層雪崩のおこる場所はだいたい一定している。
[安藤隆夫]
大規模な雪崩がおこるとき、猛烈な雪崩風(なだれかぜ)を伴うことがある。雪崩風は初め雪崩のすぐ背後におこるが、やがて雪崩の本体を追い越して、爆風のように突き進む。1936年(昭和11)2月20日未明に、富山県黒部峡谷西斜面のウド谷でおこった雪崩風は、ウド谷に架かっていた70トンの鉄橋を黒部川の対岸に吹き飛ばし、谷の右岸の半地下式の木造の小屋も、地上部分は黒部川の谷へ吹き落とされている。雪崩風の風速は毎秒60メートル以上と推定されている。
雪崩による登山者の遭難は、これを防止する絶対的な対策はない。多量の新積雪があったときは、登山は避けるべきである。山で露営するときは、沢の本筋からなるべく遠い所を選ぶ。雪崩のおこりやすい斜面を登るときは、新雪の安定状態を確かめ、雪の締まっている未明など早朝に行動するのがよい。
雪崩被害は、積雪地帯の山麓(さんろく)に多い。日本でもっとも大きな雪崩の被害は、1918年(大正7)1月9日、新潟県南魚沼(みなみうおぬま)郡三俣(みつまた)村(現在の湯沢町)でおきたもので、村の裏山から幅400メートル、長さ300メートルの雪崩が襲い、28戸の家を全壊させ、158人を圧死させた。外国の被害としては、1962年1月ペルーのワスカラン峰(6768メートル)の氷河が谷になだれ落ち、九つの集落を壊滅させ、4000人以上の住民および数千頭の家畜を圧死させたものが最大といわれている。
雪崩の一般的な防止策としては、じょうぶな柵(さく)や壁などの防止設備を施すほか、山肌を階段状に削って積雪の移動を防止するなどの方法がとられている。雪崩地帯の家屋などは、屋敷の周囲の巨木は雪崩防止上切らないほうがよい。
[安藤隆夫]
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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