古くは、溶液中に一対の電極を浸して直流電圧をかけたときに、コロイド粒子がいずれか一方の電極に向かって移動することをいったが、現在では、コロイド粒子に限定することなく、荷電したイオンなどが溶液中にかけられた電場によって移動することをさす。媒体としては濾紙(ろし)やデンプンゲル、寒天ゲル、あるいはポリアクリルアミドのゲルなどが用いられ、この中で、分離したいものを小さなスポットあるいは細い帯状につけたものを泳動させて分離、確認を行う。生体成分、錯イオンなどかなり類似したものどうしの分離に有効でよく利用される。通電クロマトグラフィーとよばれることもある。
[山崎 昶]
おもな電気泳動法には、U字管状のガラス容器を用いて溶質の界面移動を観測する方法と、膜あるいはゲル状支持体中で泳動を行う方法の二つがある。溶液中の溶質の移動を観測する前者の方法は、扱いがめんどうなうえ溶質の染色による検出ができないので、支持体中で泳動させる後者のほうが利用度が高い。そのため、濾紙、セルロースアセテート膜、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲルなどの支持体を用いた泳動法がよく用いられ、低分子物質のほか、酸性多糖、核酸、タンパク質などの分離や精製に広く用いられている。ポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルを支持体とする電気泳動はとくにゲル電気泳動とよばれ、タンパク質やDNA(デオキシリボ核酸)断片の分離・分画や分子サイズの測定に広く用いられており、分子生物学のもっとも基本的な手段の一つとなっている。
[嶋田 拓]
『A・H・ゴールドン著、坂岸良克訳『ゲル電気泳動法』(1974・東京化学同人)』▽『木曽義之著『ゾーン電気泳動』(1975・南江堂)』▽『真鍋敬著『タンパク質のゲル電気泳動法』(1991・広川書店)』▽『日本電気泳動学会編『最新電気泳動実験法』改訂版(1999・医歯薬出版)』▽『菅野純夫・平野久監修『より高感度・定量的な検出解析のための電気泳動最新プロトコール』(2000・羊土社)』
コロイド溶液あるいは微粒子の懸濁液や乳濁液中に電極を挿入してこれに直流電圧を加えるとき,コロイド粒子あるいは微粒子がどちらか一方の電極へ向かって移動する現象.1808年,F.F. Reussによって発見された.電気泳動の起こる原因は,溶液中の微粒子の表面に生じる電気二重層によるものと考えられている.すなわち,微粒子-溶液界面に電気二重層が生じるときには粒子表面は正または負に荷電し,そこに電場が加えられると,粒子は表面電荷の符号に応じて陽極または陰極に向かって移動する.このように電気泳動は2相界面の電気二重層による表面電荷と外部から加えられる電場との間の静電的相互作用による動的現象であり,電気浸透,流動電位などとともに界面動電現象とよばれるものである.粒子の移動速度を支配する因子は,粒子の大きさ,形状,表面電荷密度,溶液中の電解質の種類,イオン強度,pH,温度,加えた電圧の大きさなどである.両性電解質の等電点では,粒子の移動は起こらず,その前後で運動の方向が逆転する.電気泳動の測定法としては,大別して,
(1)特殊な容器を用いて個々の粒子の運動を顕微鏡や限外顕微鏡で観測する方法と,
(2)粒子を含む溶液とその分散媒とを接触させて界面をつくり,境界面の移動をシュリーレン法のような適当な光学的方法で観測する方法,
とがある.後者の代表的なものとしては,A.W.K. Tiselius(ティセリウス)の電気泳動装置がある.電気泳動の応用には,コロイド粒子の分別,粘土の精製,ゴムや合成樹脂の電着などがある.とくに,高分子溶液の研究に重要な役割を果たしている.[別用語参照]ティセリウスの電気泳動装置,キャピラリー電気泳動,ゾーン電気泳動,ポリアクリルアミドゲル電気泳動
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
液体中に分散された固体粒子や油粒子は帯電しているので,電界を与えられると移動する。この現象を電気泳動という。粒子はその帯電電荷に応じて陰極または陽極に移動し,また粒子の大きさや形状によって泳動速度(移動度)も異なるので,これを利用して精製・分離や分析を行うことができる。以下に応用例を述べる。
(1)精製への応用 粘土粒子は水中で負に帯電するので,電気泳動により陽極に集めて精製できる。顔料,カーボランダム,ステアタイト(滑石の一種)などの精製も試みられている。
(2)分離,分析への応用 固-液界面においては電荷の再配列によって電位勾配が生じている。液相を機械的に動かすときに重要な役割を演ずる電位差は,液相の内部の電位とヘルムホルツ層の外側の電位との差(界面動電位またはζ電位と呼ぶ)であり(図),ζ電位の差を利用すると電気泳動により,コロイド粒子の混合物から成分を分離,分析できる。したがってコロイド化学,生化学,医化学,免疫化学などの分野で,タンパク質,アミノ酸,色素などの精製,分離,分析に応用されている。分析法は電気泳動を行わせる方式によってゾーン電気泳動法と移動界面法に大別される。前者は試料を泳動させて分離したゾーンとして検出する方法で,ろ紙電気泳動法が広く用いられている。後者はティセリウス法とよばれ,U字形セル内に試料と溶媒を入れ,その境界面の通電による移動を適当な光学系で観察して泳動図を得て分析する方法である。
(3)電着への応用 水溶性樹脂(アクリル樹脂など)に顔料を混じた塗料を15%以下の濃度でコロイド粒子として水中に分散させ,被塗物と塗料槽の間に40~270Vの直流電圧を与えると,コロイド粒子は被塗物に向かって電気泳動し,ここに達すると電荷を失って,被塗物表面に連続して被膜を形成する。このような原理に基づく電着を泳動電着という。自動車の塗着などに広く用いられている。
執筆者:笛木 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
※「電気泳動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新