精選版 日本国語大辞典 「電気」の意味・読み・例文・類語
でん‐き【電気】
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自然界には正・負の符号をもった2種類の電荷という実体が存在する。この電荷が示すいろいろな性質が電気とよばれている自然現象である。電荷のことを電気とよぶこともあり、正電荷、負電荷のことを陽電荷、陰電荷とよぶこともある。微視的には、電荷は物質を構成する微粒子が帯びている性質である。正電荷は原子核が、負電荷は電子が帯びている。電子が帯びている電荷は
-e=-1.602×10-19クーロン
であって、eは素電荷とよばれるたいへん重要な自然界の基本定数である。原子核が帯びている電荷は+Aeであり、Aは原子番号である。孤立した原子は電気的に中性であるが、物質の中では、原子あるいは原子団(基)はイオンとなっていることが多く、イオンは正または負の電荷をもっている。
静止している電荷が示す性質が静電気とよばれる現象であり、これは電気学の基礎をなすものであるが、現在実用面で活用されている電気現象の多くは電荷の動的性質である。以下、電気に関する重要な事項を、電気の実用面に重点を置きながら説明する。
[沢田正三]
二つの物体を摩擦すると、一方が正に、他方が負に帯電する。これらの電荷は発生した位置に静止している。そのほか種々の原因でも静止した電荷が発生する。このような静止した電荷の間には、クーロンの法則で与えられる力(クーロン力)が働く。この力は、同符号の電荷の間では斥力であり、異符号の電荷の間では引力である。この力に直結して、電荷が存在する空間には電界(ベクトル)、電位(スカラー)が存在する。これらはちょうど重力場での重力、ポテンシャル・エネルギーにそれぞれ対応する。静電気は、乾期における衣類のまつわりなど、われわれの日常生活のじゃまもするが、一方、電子写像、電気集塵(しゅうじん)、静電塗装、静電選別などの技術を可能にしてもいる。
[沢田正三]
物質の中を電荷が移動できるとき、その物質は導体であり、移動できないときは絶縁物である。導体内の2点間に電位差(電圧)が存在すると、電荷は巨視的距離を移動して電流をつくる。電圧をVとすると、電流IはI=V/RのようにVに比例する。これはオームの法則であって、Rは2点間の(電気)抵抗である。V、I、Rの単位は普通それぞれボルト、アンペア、オームである。Rは、Vが時間によらず一定であっても(直流)、正弦関数的に変化しても(交流)不変である。一方、絶縁物においては、電流は、直流電圧に対しては流れないが、交流電圧に対しては流れる。これは、絶縁物は電荷を蓄える能力をもっており、その蓄えられる電荷の量が交流電圧によって正弦関数的に変化するからである。このように、絶縁物は、電気回路で絶縁と蓄電との両方の目的に使われる。蓄電する素子は蓄電器(コンデンサー)である。コンデンサー材料として主として使われる絶縁物はとくに誘電体とよばれる。
[沢田正三]
抵抗Rに電流Iが流れることによって発生する単位時間当りの熱WはW=VI=RI2で与えられる。これはジュール熱とよばれるもので、Wの単位は普通ワットである。ジュール熱の利用は、電気応用の代表的なものの一つで、家庭用電熱器から大型工業用電気炉まできわめて広範囲にわたっている。ジュール熱は電流が直流であるか交流であるかにはよらないが、誘電体、磁性体では、電流が交流のときにだけ存在する発熱があり、これを利用するのが誘電加熱、誘導加熱である。電流による発熱は照明においても重要であって、白熱電球がこれである。また、電荷の流れはこの電荷を帯びる微粒子の流れであるから、電流に伴って種々の化学変化がおこりうる。これを研究するのは電気化学とよばれる分野であって、電池、電気分解、電解加工など重要な技術がここから派生する。一方、導体と絶縁物との中間に位置する半導体には、電流Iと電圧Vとの間の著しい非直線性などの多くの特異性が存在し、半導体を使用してのトランジスタの登場から始まって、今日なお急速に進展しつつあるコンピュータ時代がもたらされた。さらに、超伝導体とよばれる物質においては、ある臨界点以下の温度では抵抗がゼロとなる。この性質は電力貯蔵への利用などの面で期待されている。
[沢田正三]
静電荷の電位がある限界値以上高くなると、空間の電気抵抗が無限大であっても、静電荷は急に動き始める。これが放電である。放電にも害と利があり、害は、小さなものでは乾期における衣類やノブでの放電、大きなものでは雷の被害があるが、やはり利がはるかに大きい。すなわち、ネオン管、蛍光ランプなどの照明器具、アーク炉などの加熱・加工装置としての利用などである。
[沢田正三]
に示すように、電流Iが流れると、その周囲に磁界Hが発生する。そのようすはビオ‐サバールの法則に従う。磁界は電気における電界に相当する磁気的量であり、より一般的に、電気と磁気とは現象としては並行的なことが多い。磁気は磁性ともよばれ、そのうちの強磁性はとくに大きな実用価値をもっている。
[沢田正三]
(a)に示すように、磁界Hに垂直に電流Iが流れているとき、この両者に垂直で図示の向きに力Fが作用する。この関係をフレミングの左手の法則といい、Fはローレンツ力とよばれる。この法則は、電気エネルギーを力学的エネルギーに変える機械すなわち電動機(モーター)の動作の基礎をなすものである。電動機としては、小は電気かみそり用のものから、大は工場のクレーン用や電気機関車用のものまで、実に多種多様のものがある。
[沢田正三]
(b)に示すように磁界Hに垂直(図のIの方向)に存在する導線が、この両方向に垂直で図示の向きに力Fを受けてFと平行に移動するとき、導線に沿って電圧がIの向きに発生する。この関係をフレミングの右手の法則といい、この電圧は誘導電圧とよばれる。このような誘導電圧は、導線を移動させないで磁界を変化させても発生する。これらの現象は電磁誘導とよばれ、力学的エネルギーを電気エネルギーに変える機械すなわち発電機はこれを利用したものである。なお、抵抗R、コンデンサーCとともに電気回路の3要素の一つをなすインダクタンスLは、電磁誘導によって回路の電流Iの変化速度に比例する電圧Vを回路に発生するものである。 はR、C、Lがすべて直列につながれた回路を示す。
[沢田正三]
電磁気現象は、周波数がメガヘルツ程度以上になると、波動的となる。これが電磁波とよばれるものであり、現在のテレビ、ラジオ、無線通信の主役をなす。普通の光も波長が10-7~10-6メートルの電磁波にほかならない。
[沢田正三]
こはくをこすると軽い物体が引き寄せられることはギリシア時代から知られ、物質に固有な性質であり、神秘的なものと考えられた。このこはくが示す電気的引力が科学の対象となるのは17世紀になってからで、イギリスの医者ギルバートは磁石についての体系的な研究から、磁石の引力とこはくのもつ引力との違いを初めて明確にした。さらにダイヤモンドやガラス、樹脂、宝石などもこすると軽い物を引き付けることをみいだし、1600年『磁石について』の第2部で、こうした性質をエレクトリケと名づけた。こはくのギリシア語で「引くもの」つまり「エレクトロン」の意であった。これを今日の英語流にエレクトリシティelectricityとしたのはT・ブラウンといわれている。
[高橋智子]
1672年、ゲーリケは機械的に回転させた硫黄(いおう)球に手のひらを当て、摩擦電気をおこす装置をつくった。1709年にはより帯電しやすいガラス球を用いた起電機がイギリスのホークスビーによってつくられ、以後改良がなされた。ゲーリケにより初めて電気的斥力(せきりょく)が知られ、さらに電気が光や音、熱を発生すること、伝導性をもつことなどが認識された。
1745年ドイツのクライストとオランダのミュッセンブルクにより電気を蓄える装置(蓄電器)がつくられ、電気をおこし蓄えることができるようになった。これはライデン瓶とよばれ、これから得られる一瞬の放電は、180人の兵士を一斉に飛び上がらせるなど当時のサロンや王宮での見せ物としてもてはやされた。
蓄電されるようになって、電気は不可思議な対象から実体あるものとして認識されるに至った。しかしそれは秤量(ひょうりょう)できない不可秤量流体と考えられていた。1733年デュ・フェイは電気に2種類あることを発見し、ガラス電気・樹脂電気と名づけ、二流体説を唱えた。また凧(たこ)の実験で知られるフランクリンは1種類の過不足によって2種類の電気が生じるという一流体説を唱えていた。前記のギルバートは電気引力を説明するために不可秤量の電気素を考えていた。測ることのできない物質―不可秤量流体といえば、燃焼に関するフロギストン、光の媒質のエーテル、熱のカロリックが想定されて、19世紀まで広く支持されていたものである。
不可秤量とはいえ、その引力や斥力はクーロンによって測定され、1785年、逆二乗則として知られる「クーロンの法則」が定式化された。羅針盤(らしんばん)の改良からねじれ秤(ばかり)を考案していた彼は、電気的な力を鋼線のねじれによる振動という力学的なエネルギーに転換することで、精密測定を行ったのである。見せ物的な静電気の時代にクーロンのような実験が生まれ、起電機や蓄電器、検電器、絶縁材料などの装置や知識が集積されたことは注目に値する。
[高橋智子]
カエルの脚(あし)に及ぼす電気作用を調べていたガルバーニは、電気ショックによる筋肉の収縮運動を研究中に、2種の異なる金属がカエルの神経に触れると電気ショックと同様の収縮がみられることを発見、1791年に動物電気を提唱した。彼は2種の金属が導線として働くと考えたのである。これを批判して異種金属の接触により電流が生じると主張し、動電気学への第一歩を開いたのはボルタである。2種の金属の接触をさまざま調べた彼は、1796年に金属の電圧列を発表、1800年には食塩水をしみ込ませた布を挟んで銅板と亜鉛板を積み重ねたボルタ電堆(でんつい)、希硫酸に亜鉛板と銅板を入れた電池を開発した。こうした装置による電流は、契機となったガルバーニの研究にちなみガルバーニ電気と名づけられた。
ボルタの電池が報告されると、イギリスのカーライルとニコルソンが水の電気分解を行い、デービーは諸物質の分解にこれを応用してナトリウム、カリウムの単離に成功した。デービーが数百の金属板から組み立てた電池の電流はアルカリを融解するほど大きな熱を発し、また回路の中断箇所ではまぶしい光を発するなど、電流の光や熱の作用も知られた。
[高橋智子]
1820年、エールステッドが電気の流れる針金近くに置いた磁針が振れることを発見、同年、ゼーベックは鉄粉を使って導線の周りの磁力線を示し、アンペールは磁針の振れの向きが右ねじの法則に従うことを発表した。磁針に及ぼす電流の力は、ビオとサバールによって定式化された。またアンペールは導線が自由に動く装置を組み立て、平行に導線を置くとき電流の向きが同じなら引力が、逆向きなら斥力がその間に働くことをみいだした。電流の流れるコイルと磁石との同等性を示し、平行導線間に働く力についてアンペールの法則を定式化した。クーロン、アンペールの法則はいずれも逆二乗則でニュートン力学との一致を示し、ここに電磁気現象を力学的に、遠隔作用として扱う電気力学の基礎が確立された。
電流が磁気を生じることが知られると、磁気から電流を生じさせようという努力が払われた。これは1831年ファラデーの電磁誘導の発見で実を結んだ。彼は、電流の変化あるいは磁石の運動が電流を発生させることを実験的に確かめた。この磁気の変化によって生じる電流は磁電気とよばれた。1821年にはゼーベックが熱電気をみいだしていたので、ガルバーニ電気、摩擦電気、動物電気、空中電気(雷)、そして磁電気が知られたことになる。ファラデーは、こうした電気が同一のものかどうかを生理学的作用、磁針の振れ、火花の発生、電気化学的作用の実験から確かめ、「電気というものは、どういう源から生じたものでも、その本性は同一である」という結論に達した。1833年には電気化学当量を測定し、電気分解の機構の研究から、電気の作用は物質を通して伝えられると考え、磁力線・電気力線を導入して電磁気現象をいわゆる近接作用論の立場から説明する基礎を築いた。
一方、ガルバーニ回路の強さを研究していたオームは1827年、主著『ガルバーニ電流の数学的研究』で、抵抗、起電力、電流を区別し、相互の関係を明らかにしたオームの法則を定式化した。オームの仕事は、1840年以降、イギリスを先頭に電信網の建設が進むとともに、その重要性が認識された。これをさらに複雑な回路に適用できるように拡張したのはキルヒホッフで、1849年のことである。こうした一方で、コイルや電磁石の製作、電池の改良が相次ぎ、モーターや発電機の原型が登場する。また無線通信や電気照明、電気めっきなど電気技術の発達のなかで電気工学分野が形成される。こうした状況のなかでマクスウェルは電磁気に関する相互作用を一貫した理論体系にまとめた。1873年『電磁気学』でマクスウェル方程式を提示、その理論的帰結として、電界、磁界は組みになって空間を伝播(でんぱ)するもので、光はこうした電磁波の一種であると予言した。電磁波の存在は1888年ヘルツによって実験的に確かめられ、マクスウェル理論が実証された。また、アンペールに始まった電気力学はウェーバーらに引き継がれ、ローレンツの電子論を生むに至った。これらは20世紀初頭の相対論や量子論登場の基礎になると同時に、古典電磁気学としてその適用範囲が明確にされた。
[高橋智子]
『オーム社編・刊『電気学入門早わかり』(1980)』
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