精選版 日本国語大辞典 「霧」の意味・読み・例文・類語
きり【霧】
き・る【霧】
きら・す【霧】
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地表付近で大気中に多数の微水滴が浮かんでいて、視界を悪くする現象。気象観測では視程が1キロメートル未満になった場合を霧とよび、1キロメートル以上の場合には霧とはよばずにもや(靄)とよぶ。また工業地域などで微水滴ばかりでなく、煙の粒子が混じっている場合にはスモッグとよぶことがある。丘の上から平地の霧を見下ろす場合、自分は丘の上にいるので霧の視程はわからない。このような場合にも広い意味で霧という。シベリアや北海道の冬などには微水滴ではなく氷晶の霧ができる。この霧を氷霧(こおりぎり)とよぶ。この場合も視程は1キロメートル未満である。もし1キロメートル以上であれば細氷とよぶ。
[大田正次]
霧も雲もその中身は微水滴であるから同じものであるといえる。ただ便宜上地面に接しているものを霧、空に浮かんでいるものを雲とよんでいる。それでは、山頂にかかっているのは霧か雲かという疑問がおこる。この場合、山の地肌に接しているので山頂に立っている者にとっては霧である。一方、山麓(さんろく)から上を見たときには山頂は雲に覆われているとみるのが自然であろう。すなわち、中にいる者には霧、外にいる者にとっては雲である。
霧と雲とはでき方がかなり異なる。霧は普通地表面からの熱の出入りや水蒸気の補給などでできるが、雲は空気の塊が上昇するときに冷えてできる。このようにでき方が異なるので、霧の粒子は雲の粒子より小さいのが普通である。山にできる霧は斜面を上昇して冷えてできる場合が多いので、霧粒は比較的大きくむしろ雲粒に近い。このように中身からみると山の霧はむしろ雲に近い性質をもっているので、霧でもあり雲でもあるわけである。
[大田正次]
もっとも観測しやすいのは霧の濃淡である。これは霧の中の視程で表す。気象観測では霧の中の視程が200メートル未満の場合を濃霧、200~500メートルの場合を並霧、500~1000メートルを薄い霧と区分けする。山霧などでは10メートル先が見えないほど濃いことがある。霧の中の視程は、あらかじめ決めておいた目標が見えるか見えないかで決める。光の透過率や散乱率から霧の濃淡を測定する器械もいろいろ利用されている。空港の滑走路では透過率測定方法が、高速道路などでは散乱率測定方法がよく用いられている。
霧の中身すなわち微水滴の大きさや数を測定するのはかなり熟練を要する。それらのうちもっともやさしい方法は外灯の光の周りにできる光冠の半径を簡単な手作りの角度計で測って、それから霧粒の大きさを計算で求める方法である。光源の中心から光源にもっとも近い光の輪の赤の外縁までの角度を測り、20をその角度で割ると霧粒の半径がわかる。角度が3度のときは霧粒の半径は約7マイクロメートルである。直接霧粒の大きさを測定するには、細いガラス板に機械油を薄く塗り、ガラス板を指に挟んで油面を風に向ける。飛んできた霧粒は油の中に付着する。風のないときにはガラス板のほうを早く動かす。捕獲した霧粒は顕微鏡で1粒ずつ大きさを測る。およそ50個ほどの大きさを測ってそれらを平均する。いままでに測定された例では、霧粒はおよそ半径1~50マイクロメートルの範囲にあるが、普通は約5~10マイクロメートルである。
[大田正次]
地表面付近にある空気塊が冷えると、空気中に含まれている水蒸気は飽和状態に近づく。さらに冷えると、ついに飽和状態を越えようとする。空気中にはほとんどいつでも十分な数の凝結核があるので、そのようなときには凝結核を芯(しん)として微水滴ができる。これが霧である。地表面付近の空気が冷えるのは、(1)陸地の表面が夜間に熱を放射するとき、(2)暖かい空気が冷たい海面に流れてきたとき、(3)斜面を空気が上昇して断熱的に冷却するとき、の3通りがある。これらの原因で冷えてできた霧をそれぞれ放射霧、移流霧、滑昇霧とよぶ。また、これらとは別の仕組みとして、地表面付近の空気塊中に、それと接している水面から水蒸気が蒸発し、空気塊中の水蒸気がだんだん増える場合がある。このような水蒸気の補給がおこるのは、(1)冷たい空気が暖かい海面に流れてきたとき、(2)冷たい空気中に暖かい雨滴が落ちてきたとき、の2通りがある。これらの原因で水蒸気が補給されてできた霧をそれぞれ蒸気霧、前線霧とよぶ。
[大田正次]
霧は発生する場所、時間、空気の状態などにより次のように分けられる。
(1)放射霧 晴天で風の弱い日の夜、地表面が放射のため冷却し、地表面に接する空気がしだいに冷えて夜半から早朝にかけてできる霧。前日に雨が降って地面が湿っているときや川などの水面があるときにできやすい。盆地や谷地ではとくに発生しやすい。
(2)移流霧 湿った暖かい空気が冷たい海面上に流れてきたときにできる霧。海霧(うみぎり)とよばれる。暖流と寒流とが接しているところに発生しやすい。日本近海では根室(ねむろ)沖、釧路(くしろ)沖、三陸沖に春から夏にかけてできる霧はこれである。暖かい空気と冷たい海面付近の空気がよく混合されて霧となるので、風速が毎秒約4~5メートルと風がやや強いときにできやすい。海上で発生した海霧は海岸に流れてきて多少陸地に侵入する。
(3)滑昇霧 湿った空気が斜面に沿って上昇するときにできる霧。山地にできる霧はこの霧が多い。雲も同じ仕組みでできるので、この霧の中身(微水滴の大きさや数)は雲に近い。また外観も雲に近い。
(4)蒸気霧 冷たい湿った空気が暖かい海面に流れてきて、海面から水蒸気の補給を受けてできる霧。海面が暖かいので空気の上下混合が自発的におこり、ちょうど風呂(ふろ)の湯気が立ち昇るような状況となる。冬季に北海道の釧路沖にできる蒸気霧は陸地で冷えた空気が朝方に海上に押し出してできる。上空に逆転層ができると霧は濃くなる。秋から冬にかけて日本の各地で見られる川霧はこの一種である。冬の季節風のとき、日本海沿岸でできる霧も蒸気霧である。この場合逆転層が高いので霧は薄い。蒸気霧の発生しやすい条件は、気温が低く0℃付近以下であること、および海水温と気温との差がおよそ8℃以上あるときである。
(5)前線霧 前線付近で雨が降るとき、雨滴の温度が気温より高いときにできる霧。この場合も蒸気霧と同様、雨滴から空気に水蒸気が補給されて霧が発生する。雨滴と空気との温度差が大きいほど霧はできやすく、したがってよく発達した前線に伴っておこる。低気圧が前線を伴って日本海へ入った場合に瀬戸内や太平洋沿岸の各地で濃霧が発生することがある。前線霧は天気の悪いときの霧である。
(6)その他の霧 霧は現れる場所によっていろいろな名でよばれる。盆地霧は甲府盆地や山形盆地などで見られるが、これは成因からみると放射霧と蒸気霧の混じったものである。山霧は山地で見られる霧で雲との区別はむずかしく、これは滑昇霧である。陸霧は陸地に発生する霧で放射霧であることが多い。都市霧はおもに放射霧に煙の混じったもの(スモッグ)である。地霧は地面に低くはう霧で、人の目の高さには霧はほとんどない場合をいう。霧のある時刻によって朝霧とか夜霧とかいうことばがある。放射霧は早朝にできやすいので朝霧となる。夜の霧は海霧が陸上に押し寄せてきた場合におこりやすい。
湿霧(しつむ)、乾霧(かんむ)ということばがある。霧に囲まれたとき、皮膚や衣類がしっとりとぬれる場合がある。このような霧は湿霧である。一方、ぬれないで乾いた感じの乾霧もあるが、両者の違いは霧の中身の微水滴の大小で決まる。大きい場合は身体や地物には付着しやすく、小さい場合は付着しにくい。海霧や山霧は湿霧のことが多い。放射霧の多くは乾霧である。
[大田正次]
日本各地百数十の気象台や測候所で観測した霧日数の年平均の結果によると、1年間に霧の発生が100日を超えて観測された地点は9か所(山岳測候所を除く)、50~100日が14か所、25~50日が25か所、25日未満が102か所であった。1年のうち100日以上霧が発生するということは、平均すると3、4日に1日霧の日があるということで、日常の生活は霧に悩まされることになる。
月ごとの霧の日数をみると、その地方の霧のできる原因がおよそわかる。1年間100日以上の霧発生の箇所のうち根室、釧路では6、7、8月の3か月に霧が多く、この約90日間におよそ60日霧が出ている。この季節にこれらの地方で出る霧は海霧であって、北海道や三陸沖の海上に発生した霧が陸地へ流れてきたものである。同じ100日以上の箇所である軽井沢では各月ともほぼ10日前後霧が発生する。これは山霧である。兵庫県豊岡(とよおか)や熊本県人吉(ひとよし)では9~11月に多いが、これは放射霧と川霧である。50~100日の箇所のうち山形、岐阜県高山、長野県飯田(いいだ)では、9月から12月にかけて多く、この霧は放射霧と川霧が混じったものである。都市霧としては11月から2月にかけての大阪の霧が知られる。高知県室戸(むろと)岬は5、6、7月に多い。これは海霧である。また北海道旭川(あさひかわ)では9月から2月にかけて多いが、これはおもに放射霧であろう。なお富士山山頂や滋賀県伊吹山山頂では1年間の霧日数は200日を超すが、これは山霧あるいは雲である。1年間に25~50日の箇所はやはりなにか霧発生の要因のある箇所である。オホーツク沿岸の網走(あばしり)や三陸沿岸の八戸(はちのへ)や小名浜(おなはま)の霧は5~8月に多く、これは海霧とみてよく、またやや内陸に入るが水戸の霧も海霧であろう。
[大田正次]
海上では海霧の中で視界を失って船舶が遭難した例は古くから多い。1955年(昭和30)5月の瀬戸内海の宇高連絡船紫雲(しうん)丸の沈没、1912年4月のイギリスの豪華客船タイタニック号の沈没はその例である。陸上では霧で視界が悪くなると高速道路が閉鎖され、空港では滑走路が閉鎖される。鉄道では列車の運転が中止されることもある。このように霧が濃くなると視程の障害をおこすので海上、陸上交通に支障が出る。海霧が内陸に侵入すると日照を妨げる。北海道東岸の海霧は6月から8月にかけて内陸へ侵入するので、農作物の生育を妨げる。海霧の侵入を防ぐために防霧林が海岸に造成される。防霧林は霧の微水滴をとらえ、また気流に乱れをおこして霧の消散を促進させるなどの作用がある。
[大田正次]
空港では滑走路上の霧が濃くなると離着陸が禁止される。このようなときに霧を人工的に消して離着陸が可能なようにすることは、航空機の運航上きわめて効果的である。モスクワやストックホルムなどのような高緯度の空港では、冬季にはヨウ化銀の粉を滑走路周辺の上空にまいて霧の消散を促進し運航効率を高めている。また、ドライアイスやプロパンを散布する方法もいくつかの空港で利用されている。これら滑走路の霧の人工消散は、対象空間が狭く限定されていることおよびその経済効果が大きいことなどから、大いに実用化が進んでいる。
[大田正次]
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
…このような硬直した社会構成に対する反省は,戦後のイギリスの〈病める老大国〉化とともに,強く叫ばれるようになり,歴代の政府も教育制度の改革を通して特権的なエリート・コースの開放を企て,それなりの成果はみられるものの,〈二つの国民〉の障壁を完全に除去するまでにはいたっていない。【今井 宏】
[文化]
イギリスというと,すぐ〈霧の国〉を連想する人が多い。もちろんイギリス全土が絶えず霧に包まれているわけではないが,確かに〈霧〉はイギリスの文化の特質を端的に示すキー・ワードと言える。…
※「霧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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