野間宏(1915-91)の全5巻6部8000枚に及ぶ長編小説。1947年6月号《近代文学》に初めて発表されて以来,2回の中断と多くの改作の末70年に完成した。市役所吏員矢花正行と富家の大道出泉の2青年を中心に1939年7月から9月までの激動する時代を背景とし,各階層の100名をこえる人物が登場する。性と家と部落解放,戦争の問題を交錯させ,人間をその動いている欲望の内側からとらえ,また重層する現代社会のメカニズムの内からもとらえるという二つの方法を統一せんとした全体小説である。2人の青年が互いに与えあう精神的欠如意識を埋めようとぶつかりあい行動する軌跡が大筋を形成し,それを通して,現代における自由と全体の問題への解答を探求した。
執筆者:兵藤 正之助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
野間宏(ひろし)の長編小説。1947年(昭和22)雑誌『近代文学』に冒頭が発表されて以来、24年間を経て71年に完結した六部作、全五巻の大作。谷崎潤一郎賞、アジア・アフリカ作家会議によるロータス賞を受賞。1939年の大阪を舞台に被差別部落への融和事業に従事する市役所吏員矢花正行(やばなまさゆき)、千日前にプレイガイドを経営し、土俗仏教の信徒である母矢花よし江、そして新興ブルジョアの子弟でマルクス主義運動から脱落し夜の世界を徘徊(はいかい)する大道出泉(だいどういずみ)の3人がそれぞれ交錯し、物語を展開する。差別、戦争、性、家、宗教、生と死、個と全体など多様な問題と取り組み、それを把握しようとした「全体小説」の代表作。日本文学に異例の大巨編であり、その小説世界も前人未踏のものがある。
[紅野謙介]
『『青年の環』(岩波文庫)』▽『埴谷雄高編『「青年の環」論集』(1974・河出書房新社)』
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