精選版 日本国語大辞典 「類推」の意味・読み・例文・類語
るい‐すい【類推】
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類比またはアナロジーともいう。二つの物事に共通点があることを認めたうえで、一方の物事にみられるもう一つの性質が他方にもあるだろうと推論すること。たとえ話による推論といってもよい。たとえば、勤勉な外国人と友人になったあとで、その外国人と同じ国の、別の人に会ったとき、彼女も勤勉だろうと考えるのは、類推にたった考え方である。つまり、国籍が同じであるという共通点をもとにして、勤勉であるという性質も共通だろうと考えているからである。事実、この類推は当たることもあるだろうし、外れることもあるだろう。天気と人の感情とが変化しやすいことに目をつけ、天の背後に感情の激しい神がいるだろうと考えるのも類推だが、この類推は現代人の多くは支持しないだろう。このように、類推はかならずしもつねに頼りになる推論方法ではない。しかし、直観に恵まれた人の類推が大発見のきっかけになることもしばしばあることは、科学史などで報告されている。
[吉田夏彦]
語形Aと、これに関係ある語形A′(たとえばAが「活用」した形、Aから派生した形、あるいは逆にAを生み出すもとになった形など)、および、Aとなんらかの点で類似した性質をもつ(たとえばAと同じ品詞に属する)語形Bがあるとする。このとき、Bについて、機能のうえでAに対するA′に相当する語形Xを求めるにあたり、形のうえでもこれに倣って、同じ要領を当てはめた語形B′をもってそのXとすること。すなわち、いわばA:A′=B:Xとして、X=B′と求めること。AとA′との間に語形、機能の両方について成り立っている関係が有力で一般性の高いものと認められる場合に、Bについてもこれと並行的な関係を成り立たせようとする心理が働く結果、このようにしてB′を求めるわけである。
たとえば、「書ク」の命令形が「書ケ」であることをすでに知っている者が、「志ス」という動詞を初めて知り、その命令形は何かを考える場合を想定してみよう。この場合、書ク:書ケ=志ス:X、X=志セ、として求めるのが類推である。こうした類推は多くの場合は的(まと)を射ているのであり、言語の修得は類推があってこそ可能なのである。
一方、実際には用いられていない形を類推によってつくってしまう場合もまたある。次のように分類してみよう。(1)Xを求めようとすること自体が的外れな場合(東北の人が「鳥コ」「鍋(なべ)コ」などの「コ」をとれば標準語形になることを知り、「タバコ」についても「タバ」とだけいってしまったというような場合)。(2)他の規則を適用してXを求めるべき場合(書ク:書ケに倣って「見ル」の命令形を「見レ」というような場合。「見ル」は一段活用だから規範的には「見ロ」というべきところ)。(3)Bが、当該の比例式適用の例外になっている場合(giveの過去形をgivedというような場合)。(4)Bに当該の比例式を適用すること自体に問題はないはずなのだが、たまたまB′が現実に用いられていない場合(「勉強」:「勉強スル」などに倣って、「科学」についても「科学スル」というなど)。
このように既成の形ではない形を類推によってつくった場合、多くは誤用として斥(しりぞ)けられてしまうが、ときには、類推でつくられた形が力を得て新しい形として広く用いられるようになる場合もある。前出の(2)~(4)のなかでは、一般におそらく(4)がもっとも、類推形が受け入れられやすいであろう。また、Xに相当するものとして、B′以外にすでに他の形(古くからの形、規範的な形)B″が存する場合となにも存しない場合とがあるわけだが、概して、競合する形B″が存しない場合のほうが、類推形B′が力を得て定着しやすいと想像される。だが、B″が存しても、類推形B′がこれを駆逐したり、これと併存したりすることもある。たとえば「無理カラヌ」は前出(2)の例で、規範的には「無理ナラヌ」(=B″)というはずのところだが、「無理カラヌ」がすっかり定着している。なお、(4)の特別な場合として、ある語の派生形のようにみえる語形があって、派生のもとになる形に相当するものがないとき、前者から後者を逆に類推でつくりだす場合があり(たとえば名詞typewriterから動詞typewriteをつくる)、これをとくに逆形成back-formationとよんでいる。
ある言語現象が、類推の比例式が成り立つ状態にすでにある場合、それはかなり安定した状態といえ、類推の成り立たない状態へと言語変化がおこる可能性は一般に小さい。一方、類推の比例式が成り立たない状態にある場合、成り立つ状態への変化がおこることはしばしばある。あるいは、ある種の比例式が成り立っていても、統一性をさらに強める別の比例式が成り立つ状態へと変化することもある(日本語のかつての一段動詞、二段動詞がともに一段動詞になったのもその種の現象とみなせる)。このように類推という心理作用は、言語の状態を保持する要因となる場合も、言語変化を促す要因となる場合もあるが、いずれにせよ、一般にその言語体系(の少なくとも一部分)における統一性を強める要因として働く。
以上、語形について説明してきたが、構文、表記、発音などに関しても類推とみなしうる現象はよく見受けられる。
[菊地康人]
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…民法13条(禁治産の宣告の規定および禁治産宣告の取消しの規定の準禁治産への準用)や手形法77条(為替手形に関する規定の約束手形への準用)などはその例である。準用はその論理操作の性質上類推に似ているが,後者は解釈技術であり,前者は立法技術である点で区別される。たとえば刑罰法規の解釈においては類推解釈禁止の原則が妥当するが,立法技術としての準用は刑法251条・255条のように刑事法の領域においても用いられている。…
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