養う(読み)ヤシナウ

デジタル大辞泉 「養う」の意味・読み・例文・類語

やしな・う〔やしなふ〕【養う】

[動ワ五(ハ四)]
自分の収入で家族などが生活できるようにする。扶養する。「妻子を―・う」
衣食などのめんどうを見ながら育てる。養育する。「孫を大切に―・う」
食物を与えて飼う。「家畜を―・う」
育て蓄える。力や習慣をしだいにつくり上げる。「英気を―・う」「日ごろから実力を―・う」
療養する。養生する。「病を―・う」
子供や病人などの食事の世話をする。
「母は次男の多加志に牛乳やトオストを―・っていた」〈芥川・年末の一日〉
養子にする。「いとこを―・って跡を継がせる」
[可能]やしなえる
[用法]やしなう・そだてる――「女手一つで五人の子を養う(育てる)」のように生活の世話をするの意では、相通じて用いられる。◇「牛馬を養う」「妻子を養う」など「養う」は、生命・生活が維持できるようにする意に重点があり、「育てる」は使えない。◇「弟子を育てる」「子犬を育てる」「夢を育てる」「文化を育てる」など、「育てる」はそれを成長させる意に重点があり、この場合、「養う」では代替できない。◇「乳牛を養う」「ひな鳥を育てる」と動物については「養う」も「育てる」も使えるが、意味の違いははっきりしている。植物については「菊を育てる」といい、「養う」とはいわない。◇類似の語に「はぐくむ」がある。大切に養い育てるの意で共通するが、やや雅語的で、「親鳥が雛をはぐくむ」のほか、「夢をはぐくむ」のような慣用的な用法に限られる。
[類語]育てる育む培う育て上げる食わせる手塩に掛ける養育保育育児子育て扶養養護

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精選版 日本国語大辞典 「養う」の意味・読み・例文・類語

やしな・うやしなふ【養】

  1. 〘 他動詞 ワ行五(ハ四) 〙
  2. 子どもをはぐくみ育てる。助け守って成長させる。うしろみする。
    1. [初出の実例]「嬰児を蜾蠃に賜て曰く、汝自ら養(ヤシナヘ)とのたまふ」(出典:日本書紀(720)雄略六年三月(前田本訓))
  3. 食事など生活の面倒をみる。扶養する。
    1. [初出の実例]「水底ふ 臣の少女を たれ揶始儺播(ヤシナハ)む」(出典:日本書紀(720)仁徳一六年七月・歌謡)
  4. 動物を飼い育てる。飼育する。また、植物を培う。施肥する。
    1. [初出の実例]「種子を儲け畜(ヤシナヒ)」(出典:大般涅槃経治安四年点(1024)七)
    2. 「居所をいみじくし、食物を美麗にして養へども、鹿は山をのみ思ふ心をとどめず」(出典:梵舜本沙石集(1283)一〇本)
  5. 仕えて世話をする。かしずく。傅育(ふいく)する。
    1. [初出の実例]「此の家主の女、宿たる若き僧の美麗なるを見て、〈略〉懃(ねむごろ)に労り養ふ」(出典:今昔物語集(1120頃か)一四)
  6. 供養する。布施する。
    1. [初出の実例]「未曾有(めづらしきひと)と嘆(なけ)いて三の尼を頂礼(をか)む。新に精舎(みてら)を営(つく)りて、迎入て供養(いたはりヤシナフ)」(出典:日本書紀(720)敏達一四年六月(前田本訓))
  7. 世の中を治め整えて、良い方向に導く。天子主君人民を保護して向上させる。
    1. [初出の実例]「天皇の天下の政を治たまふ所以は、要ず、黍民(おおむたから)須くは護り養(ヤしなひ)たまへ」(出典:日本書紀(720)敏達一二年是歳(前田本訓))
  8. からだや気力などを衰えないように保つ。また、ある状態を発達、向上させる。
    1. [初出の実例]「窓の蛍も集ざれば目は暗が如し、何を見てか志を養ん」(出典:海道記(1223頃)序)
  9. 慰める。喜ばせる。
    1. [初出の実例]「蝉の声いとしげうなりにたるを、おぼつかなうて、まだ耳をやしなはぬ翁ありけり」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
  10. 飲食する。栄養をとる。
    1. [初出の実例]「道にてはくるしからぬ物にて候へばふくだやしなはせ給へ」(出典:道成寺縁起絵巻(室町末)上)
  11. 他人の子を、自分の子として育てる。養子にする。
    1. [初出の実例]「邦綱北政所の御後見にて、この近衛殿の若君なる、やしなひて」(出典:愚管抄(1220)五)
  12. 幼児・病人など、自分で食事のできない者に、箸(はし)をとって食べさせる。
    1. [初出の実例]「大に飯を嚼みて嬰児を(ヤシナ)ふに似たり」(出典:塩山和泥合水集(1386))
  13. 治療や休養をして、病気や傷を治したり体力などを回復させる。養生する。
    1. [初出の実例]「海人等、此を聞て、哀むで此を養ふに、日来を経て漸く力付て例の如く成ぬ」(出典:今昔物語集(1120頃か)一二)
    2. 「退陣して、風寒の疾病を養ひしに」(出典:読本・南総里見八犬伝(1814‐42)九)
  14. 教育や努力によって、習慣づける。訓育する。
    1. [初出の実例]「永い灯台生活がますます読書の習慣を養ったので」(出典:潮騒(1954)〈三島由紀夫〉六)

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